THINK2017.3.23

コンテだけでは決められないアイデアを、広告にするにはプロデューサーを信頼してまかせることが、思いがけない表現を生む

松原 智樹

株式会社ワンダラクティブ
プロデューサー

出典:Love freebies? Get them legally. Rewards by Harvey Nichols

多額の投資をしているからこそ、広告制作の決定権は投資した側にある。それは至極当然のことです。しかしながら、作り手を信頼してまかせる決断が、意外性のある広告表現を生み出すことになるかもしれません。

CMプロデューサーであるワンダラクティブの松原智樹が、インパクトのある広告を作る際の決裁プロセスについてお話しします。

 

思い切った決断や多くを求めない割り切った発想で広告映像を作れたなら、思いもよらないインパクトのある広告映像が作れるかもしれない、というヒントをこんなところに見つけました。2016年のカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル(カンヌライオンズ)での受賞作品を例に考えてみましょう。

 

1)Harvey Nichols:「Shoplifter(万引き犯)」

これはイギリスの百貨店、ハーヴェイ・ニコルズのCMで、最後に「Love freebies. Get them legally.(無料のものが好きなら、合法的に手に入れて)」とメッセージが出て、クーポンアプリの紹介につながります。

店内の防犯カメラの映像を加工したフィルムですが、いくら人物を特定しないとはいえ、かなりのタブーに挑戦しているように感じます。さらに冒頭のスーパーのシーンではそのリアリティを強調すらしています。ただフィクションならいいという題材でもないと思うので、この際、真偽の話はしませんが、そのすべてが演出なのではないかと思うほど、アニメーションのセンスや音楽、編集のうまさが際立っています。ユーモアに昇華したおかげでエンターテインメント性もあり、広告メッセージの切れ味も抜群だと感じました。

この企画を採用すると判断したときに、リスクばかりを気にしていたなら、せっかくの演出力も発揮されないで終わっていたかもしれません。

2)smart forfour:「SHOCK」

出典:Anuncio Smart Forfour 2016 Parking

こちらは、メルセデスベンツのsmart forfourのCM「SHOCK」。これまで2人乗りだったのに、後部座席にもう1人乗っていた! 4人乗りが登場したこと、狭いスペースにもラクに駐車できること、4ドアになったことなどを、スマートに伝えています。

打って変わって挑戦的ではない企画ですが、その点がむしろ採用されにくいのでは?と思わせるCMです。何げなさすぎて、企画提案の段階ではあまり期待されていなかったのではないでしょうか? でも仕上げてみたら、その何げなさこそが共感を呼び、メッセージがシンプルに伝わります。これまた傑作です。

いずれの作品も恐らく事前のコンテの形からは、ここまでの完成度を想像するのは難しかったのではないでしょうか? これらのアイデアがどういうプロセスで採用されたのかを確かめる術はありませんが、作り手を信頼してまかせた結果が、効果的な広告表現に結びついたのではないか、と感じます。

想像以上の表現を作るには

広告制作のプロセスにおいて、多くの予算を投下する場合はもちろんのこと、昨今では金額に関わらず、さまざまな決裁プロセスが求められるのは当然といえば当然のことです。

一般の人が作るような広告以外の映像作品では、その決裁プロセスがないのはもちろん、実制作前に内容や仕上がり具合を誰かに理解してもらったり、共有する必要もありません。それだけに思いがけない映像が撮れたり、自然でリアルな映像、予定調和でない意外性のある作品が作れるわけです。

そんな映像が世の中にあふれている状況の中でも、それに負けないくらいインパクトのある広告映像を作りたいと考えている企業の広告担当者も少なくはないと思います。

ですが、実際には漠然とした可能性に賭けるような決断はしにくく、おそらくですが、決裁プロセス自体がそれを生みにくい環境を作ってしまっているのだと思います。合議制だとどの角度から見ても合格点、という案が採用されがちですし、そもそも事前の段階で「誰もが理解できるもの」に決済が降りるのが常となっているのではないでしょうか。

つまりは企画案のコンテ(おおよそコンテの形で提案されるので)で理解しやすいもの、仕上がりが想像できるものが採用されやすい状況です(リファレンスと称して、既存の映像イメージを添えてそれに近い仕上がりを想定して提案することまであります)。

各国において広告表現の許容度はさまざまですし、特に日本はその制限が厳しい部類に属すると言われています。昨今ではSNSによる反響も気になるところです。リスクばかりに目がいきがちな時代ですが、表現・演出の部分で工夫できる余地はまだまだあると考えています。
 
僕らのような広告映像のプロであるプロデューサーは、尖った企画も世の中に受け入れられる表現で、平凡な企画にはアイデアあふれる演出を盛り込むべく、どんなときも広告として機能するための最後のアウトプットをプロデュースするのが仕事です。

時にはその可能性を信頼して、まかせてみてはいかがですか?
企画コンテから想像もできない、思いっきり跳ねた仕上がりになるかもしれません。

 

プロフィール

松原 智樹

株式会社ワンダラクティブ
プロデューサー

1968年生まれ。ハイスクールに入社しプロデューサーとなる。自らプランナー、ディレクターとして携わることも多い。08年、ハイスクールがアマナインタラクティブに合併、10年に同社内でワンダラクティブを設立し代表となる。
主な仕事は資生堂、ヤクルト、養命酒、など。

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