EVENT2017.2.16

いま若手写真家がすべきこと、企業や美術館に求められるもの【イベントレポート】"世界で活躍したい若手アーティストのために"

上坂 真人

株式会社アマナ
執行役員

気鋭の日本人写真家による展覧会「LUMIX MEETS BEYOND 2020 BY JAPANESE PHOTOGRAPHERS #4」

こんにちは、上坂です。

若手写真家を支援することをひとつのミッションとしているアマナアートフォトプロジェクトでは、活動のひとつとして、2013年よりパナソニック株式会社の特別協賛のもと、「LUMIX MEETS BEYOND 2020 BY JAPANESE PHOTOGRAPHERS」という写真展を毎年開催してきました。これは、パナソニックとともに、「若手写真家のために何かできることはないか」、「世界に向けた窓口を作れないか」という両社の思いを形にしたものでした。

4年目となる今回は、パリ、アムステルダム、東京の3カ所で6名の若手写真家による展覧会を開催。1年にわたる活動の締めとして、1月20日(金)に小山登美夫ギャラリー代表・小山登美夫さんと東京都写真美術館学芸員の藤村里美さんをお招きし、「世界で活躍したい若手アーティストのために」というテーマで、トークイベントも行いました。
 
ギャラリスト、学芸員として若手アーティストと関わることも多いお二人は、世界で活躍するためには何が必要で、美術館やギャラリー、企業はどのような役割を担うべきと考えていらっしゃるのでしょうか? 
※自らギャラリーを持ち、展覧会の企画・開催やアート作品の販売を手掛ける人

モデレーターは、アマナアートプロジェクトのブランドディレクターであり、雑誌『IMA』のエディトリアルディレクターでもある太田睦子です。

 

ギャラリスト、学芸員としての若手アーティストとの接点

太田「小山さんは渋谷ヒカリエと六本木のcomplex665にギャラリーを持ち、展覧会の企画と作品の販売に携わっておられます。一方、藤村さんは東京都写真美術館の学芸員として展覧会の企画・運営や収蔵品の管理を担当されています。それぞれ若手アーティスト、とくに写真家とはどんな接点があるのでしょうか?」

 

藤村「私の場合、まずは展覧会に出展する作家を探すことです。そのために、時間のある限りギャラリーに足を運んだり、書店で写真集を見たりして新しい才能を探すようにしています。
 
もちろん写真家の方から作品を見て欲しいと連絡を受けることもあります。ただその場合、いきなり来て『見てください』というのではなく、事前にアポイントは取っていただきたいです。逆にアポイントさえ取ってもらえれば、私を含めて断る学芸員はほとんどいないと思います」

小山「僕のギャラリーでも、作品を見てくださいという方は多いですね。展示や取り扱いを希望する方はメールなどでその旨をきちんと書いていただければ、それに対しての返信はきちんとします。
 
ただ、展覧会を企画して作品を売るという仕事上、決めていることがあります。それは、作品に対してのコメントはしないということ。 僕はキュレーターでも批評家でもありません。あくまでギャラリーでの展覧会を仕事としているので、コメントをしてしまうと誤解を生むことがありますから」
 
太田「新しい才能はどのように見つけるのでしょうか?」
 
小山「実は今日も武蔵野美術大学に行ってきたんです。卒展の作品のなかから作品を審査して30人程度に絞り込み、展示するという試みです。美術館でも1日だけでもそうした展示を行うということはありませんか?」
 
藤村「同じような案があがったことはあるのですが、美術館が行うと、権威付けのようになってしまうこともあってなかなか難しいですね。最終的に展覧会を開催したり、出版物にできたりすればいいんですが、現状では時間も限られるなか美術館としての活動に落とし込めてはいません」

 

小山「写真家の方たちにとってみれば、賞をもらわなくても、キュレーターからコメントをもらうだけでうれしいですよね。もちろん見る側にとっての発見もあります。僕の場合、いくつかの美大に行ってそのなかで1人だけでも才能を見つければ、全てが報われるんです」

太田「若手写真家の方も普段は決して広い世界で活動しているわけではないので、プロからコメントをもらえれば勉強になりますし、発表の機会を得ることで自分の作品を説明するのが上達していきますよね」

若手アーティストに必要なのは、世界観の確立と行動力

太田「では、ここからは、アーティストと、彼らを取り巻くギャラリー、美術館、メディア、企業の役割についてお伺いします。世界で活躍するために、今の日本の若手アーティストには何が必要でしょうか?」
 
小山「僕にとってのアーティストとは、何かすごいもの、これまでとは違うものを見せてくれる人。観客には、強い印象を残さなければいけないんです。だから若い写真家には、“この1枚”というのが欲しいですね。例えば、森山大道さんといえばすぐに代表作の犬の写真が思い浮かびます。発表から何十年も経っているにもかかわらずです。
 
そうしたアーティストとしてのコアになる写真を、撮ることに一生懸命な方は多いのですが、一方で写真をどう選び、どう提示していくかということに心を傾けるのも大事だと思います」
 
藤村「私は作品を見てもらえる機会を増やすためにポートフォリオレビューに申し込む、海外向けにステートメントを他の言語に訳す、展覧会の案内を送るといった、ごく当たり前のことを積み重ねていくことが大事なのではないかと思っています。私たちとしても展覧会の案内などを頂くことは、作家を知るきっかけのひとつです。
 
ただ、ご案内を頂いてもすぐには行けなかったり、つい忘れてしまっていることもあるので、「○○の時にお会いした者です」といった目に止まるような一文を添えるなど、工夫をして頂くといいかもしれません。ちょっとした後押しとして、そういったメッセージは印象に残るものですから」
 
小山「悪いな……次は行かなきゃな……と頭の片隅に残っていたりしますからね(笑)。あと僕は写真集づくりも大切だと考えています。写真家のタイプによって写真集という形態が合う、合わないはあると思いますが、1人のアーティストとして世界観のようなものを示すのはやはり大事かな、と」

若手アーティストを取り巻く世界の役割
ギャラリー、美術館、メディアや企業は何ができるか?

太田「自ら代表としてギャラリーを運営されている小山さんは、ギャラリーの役割についてはどのようにお考えですか?」

 

小山「やはり、アーティストの作品を展示としてどのようにカタチにするか、作家の可能性をどう打ち出していくかがミッションだと考えています。例えば所属作家である蜷川実花さんは若い頃から展示にこだわり続けている写真家なんですが、蜷川さんの展示をうちのギャラリーでやるなら、少し大人っぽくしようとか、より作品に向き合える展示にしようとか、いろいろな振れ幅を出して可能性を広げていくことが役割だと思っています」
 
藤村「小山さんから美術館に対して望むことはありますか?」
 
小山「いま、日本の写真は世界的に超人気です。研究者も増えて、アカデミックな観点からもますます注目が集まっています。そうしたなかで美術館からの発信がもっとできないものか。例えば、日本のヴィンテージ写真や戦前の写真家の作品の巡回展を開催するとかですね……」
 
藤村「人気が出るのは喜ばしいのですが、作品の価格が高騰し過ぎると、私たち美術館は購入できなくなってしまうんですよね。それと現代の作家を取り上げるのが基本なので、例えば1930年代の作品は購入の優先順位が下がってしまうという傾向もあります。そういう意味では、作品購入のタイミングに気を配る必要があるのかな、とは思います。
 
また、写真は絵画に比べて圧倒的に作品点数が多いので管理が難しいですね。ただ、それについては日本写真家協会が物故作家のネガの保存活動を始めたようです。作品や写真集の保存にしても、途切れずつないでいくことが、美術館の役割としてとても大切だと考えています」
 
太田「では、新聞、雑誌、テレビといったメディアは若手アーティストのために何ができるのでしょうか?」
 
藤村「1960年代にはカメラ専門誌のカリスマ編集者がいました。彼らが若手写真家を見出し、それが60年代~70年代の東松照明、荒木経惟、森山大道といった写真家たちの活躍へとつながっていきました。今そうした動きができる雑誌は少ないですし、作品が雑誌に掲載されて写真集になるという流れも変わりつつあります。
 
ただ、今も最終的には写真集の形態に、という考え方は根強いですし、その過程としてWebや雑誌といったメディアへの発表はやはり大切なのではないでしょうか」
 
太田「若手写真家が、雑誌やWebといったメディアでコマーシャルの仕事をすることについてはどうですか?」
 
藤村「作品だけで生活していくのは難しいので、コマーシャル仕事も兼ねていかなければいけない部分はあると思います。ただコマーシャルの仕事は40歳を過ぎると減るそうです。これは媒体で大きな権限を持つエディターがだいたい45歳~50歳くらいで、自分より下の世代の人を使いたがるから。そのため40歳までにアーティストとしての仕事を確立しておく必要がある、という話を聞いたことがあります。
 
ちなみに、美術館がコマーシャルの仕事を嫌うという傾向はないわけではありません。コマーシャルの仕事はアートディレクターが付くので、純粋に作家の仕事なのかどうか判断しにくいんですね。ですから、写真家の方も切り分けて考えて、コマーシャルの仕事として割り切ったうえで大事にしていくのがいいと思います」

 

小山「ギャラリストのなかにもコマ―シャルの仕事を嫌う人はいます。また展示しても写真家の名前が出せないケースもあります。作品として発表できないのなら、やはりアーティスト側で切り分けて考えた方がいいですよね」
 
太田「では、企業の役割についてはどうでしょう。写真家と企業の関係、さらにはギャラリーや美術館と企業の関係について、お二人はどのようにお考えですか?」
 
小山「企業が制作費を出したり、機材を貸与したり、撮影のサポートをする代わりに、写真家が作品を寄贈するような動きがあるといいですよね。大手企業にコレクションしてもらうのは写真家にとってもうれしいし、ギャラリーにとってもパブリックコレクションになるのは望ましいことです。さらに企業にとっても作品が作例になるわけですし、作品を集めて展覧会もできるでしょう」
 
藤村「大きい作品を制作すると、若い写真家は保管スペースを確保するのも大変です。維持できなくなって譲ったり処分してしまったりするケースもあるかもしれません。そういう意味では企業がコレクションという形で保管できるといいですね。
 
また、個人コレクターの場合、作品を所蔵していることを公にしにくいこともありますが、企業ならそういったことも少ないはずです。企業のコレクションが進むと、美術館が企業から作品を借りるというケースも増えてくるかもしれませんね」

 

企業がアーティストと出会う機会は決して多くはありません。しかし、関連記事『資生堂が考える、「企業文化継承」の重要性と「文化支援」の意味』でもご紹介したように、企業がアーティストと接点を持ち、支援を通じてその価値観を取り入れていくと、アーティスト、企業の双方にとって大きなメリットをもたらします。
 
最近では、アマナアートプロジェクトのビジネストークイベントへの参加者も増え、企業のアートに対する関心が高まっていることを実感します。こうした流れを加速させていくためにも、アマナアートフォトプロジェクトは、企業と写真家やアーティストとを結びつける役割を果たしていきたいと思います。

ーーー
<イベント概要> 
「世界で活躍したい若手アーティストのために」
日程:2017年1月20日(金)
会場:IMA CONCEPT STORE
時間:19:00~20:00(*20:00~オープニングレセプション)
参加費:無料 
*このイベントは終了しています

 

登壇者プロフィール

小山 登美夫

 

明治大学国際日本学部特任准教授、京都嵯峨芸術大学客員教授。1963年東京生まれ。1987年東京芸術大学芸術学科卒業。西村画廊と白石コンテンポラリーアートでの勤務を経て、1996年に小山登美夫ギャラリーを開廊。奈良美智、村上隆をはじめとする同世代の日本アーティストの展覧会を多数開催した後、現在は世代を超えて、菅木志雄や蜷川実花、杉戸洋、三宅信太郎などを展示。またライアン・マッギンレーなどの海外アーティストを日本に紹介する。

オープン当初より海外のアートフェアへも積極的に参加。日本アーティストの実力を世界に知らしめるとともに、マーケットの充実と拡大を模索し、若手アーティストの発掘、育成にも力を注ぐ。著書に『現代アートビジネス』(アスキー新書)などがある。

登壇者プロフィール

藤村 里美

東京都写真美術館学芸員、玉川大学非常勤講師。東京生まれ。多摩美術大学美術学部芸術学科卒業。草月会文化事業部(草月美術館)を経て2002年より現職。専門は日本近代写真史。

主な担当展覧会は「写真はものの見方をどのように変えてきたか 第2部 創造」展、「表現と技法」展、「米田知子 暗なきところで逢えれば」展、「東京・TOKYO 日本の新進作家展 vol.13」など。主な著書『写真の歴史入門 第2部創造』(2005年・新潮社)、共著『光と影の芸術 写真の表現と技法』(2012年・平凡社)など。

プロフィール

上坂 真人

株式会社アマナ
執行役員

早稲田大学を卒業後、朝日新聞社、日経マグロウヒル社(現:日経BP社)を経て1990年にマガジンハウス入社。『BRUTUS』『Casa BRUTUS』『GINZA』のアドバタイジングディレクター。
2002年に日経コンデナスト(現:コンデナスト・ジャパン)入社。『VOGUE JAPAN』『GQ JAPAN』、「VOGUE.com」を担当し、2006年にアシェット婦人画報社(現ハースト婦人画報社)入社。2011年より株式会社アマナに入社。「living with photography」をスローガンに、アートを愛する文化的富裕層とアートリテラシーの高い企業を結びつける『IMA』プロジェクトを手掛ける。IMA online

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