COLUMN2017.2.17

【映像とコトバ雑感】まずは、キーワードを見つけなさいコミュニケーションに明確な方向性を与える、コトバのチカラ

西村 佳也

株式会社アマナデザイン
取締役 クリエイティブディレクター/コピーライター

 

人は、相手とコミュニケーションをとるときに「コトバ」を使います。その相手が、明らかに言葉の通じない赤ちゃんや動物達、はたまた植物やただの物であっても、です。この記事自体も、さまざまな「コトバ」でできています。言葉は伝達の手段であり、思考化の表現でもあり、人の感覚は言葉によって形を与えられるのです。

長年、クリエイティブディレクター、コピーライターとして「コトバ」の仕事に携わってきた西村佳也が、映像と「コトバ」の関係について語ります。

 

僕は、普段から一緒に仕事をする若い人に「まずキーワードを見つけなさい」と言っている。なぜなら、クリエイティブの本質とは、まず「コトバを見つける」ことだと実感してきたから。

いささか旧い話になりますが、昨年後半は久々に、NHKの朝ドラ以外でもテレビドラマが元気でしたね。『ドクターX〜外科医・大門美知子〜』(テレビ朝日系)は常時視聴率20%以上を記録していたようだし、タイムシフト視聴(録画視聴)率も約10%だったというから、3人に1人がこの番組を観ていたことになる。ガッキーと星野源のコンビが初々しかった『逃げ恥』こと『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)は、最終回ではタイムシフト視聴率No.1。リアルタイム視聴率も最終回は20%に届いたようです。このあたりは若い女性が中心だろうから、テレビもまだまだやるじゃないかといった印象を与えてくれたのは、僕たち旧い世代にはまことにうれしい(?)出来事でした。
 
ところでこれらのドラマ番組には、一つ際立った共通の特徴があったように思います。コンセプトを明快にコトバ化した、ユニークで強力なキーワードを一つ持っているということです。『ドクターX』の場合、手術シーンのリアルさや緊張感、米倉涼子の眼力(めぢから)や颯爽としたミニスカ闊歩もさることながら、「私、失敗しないので」という、例の強力無比の殺し文句がここぞというときに炸裂する。さらに、医師免許がなければできない仕事以外は「いたしません!」。それに反して腰巾着集団の「御意!」の合唱など、コトバが生き生きとあちらこちらで爆発。これはかなり脳みそに残りますね。シリーズを通じて、これらのコトバがドラマの構成を支え、ストーリーを牽引していった力は大きいと言わねばならないでしょう。
 
『逃げ恥』の場合は決め台詞ではないのですが、「契約結婚」という刺激的なワードが、いつもど真ん中に大黒柱のように存在していて、これが就活・未婚の時代に新鮮な意外性・独自性を持ち、幅広い世代の共感を得た。リアルで、切実な問題を孕(はら)みつつ、フィクショナルな面白さをうまく提案し得ていたと思います。ラストの恋ダンスや、他番組のパロディも大きな話題となりましたが、何といってもやっぱり、このキーワードの存在が大きかったと僕は思います。それと、もう一つ、『逃げるは恥だが役に立つ』という、この何やらおまじないのような奇妙なタイトル(後にハンガリーの諺だとかいう話を聞いたことがありますが)。これが短縮されて『逃げ恥』となったことで、さらにインパクトが増したというか、不思議なキャッチフレーズ効果を発揮していたような気がします。

ところでタイトルといえば、最近『YOUは何しに日本へ?』とか『家、ついて行ってイイですか?』(共にテレビ東京系)とか、企画のコンセプトとなるワードがそのままタイトルになってる番組が目立ちますね。どのような番組であるのか、番組名を見さえすれば狙いや企画のユニークさが一発でわかっちゃう。タイトルがストレートにキャッチフレーズとして機能しています。そのせいでしょうか、結構人気も高いようです。面白い傾向だと思いますね。
 
たまたまかも知れないけれど、どれもコトバが成功の大切なカギになっている。でも広告作りの場合、これは決して珍しい現象ではないのですね。実はドラマや広告に限らず、どんなコンテンツにとっても重要なのはコトバなのではないか、と常々僕は考えているのです。それは僕が元々コピーライターであったから、というだけではなく、一応クリエイティブディレクターとしてさまざまな仕事に携わっているうちに、クリエイティブの本質とは、まず「コトバを見つける」ことだと実感して来たからです(結果的にそのコトバが、前面に出て来るか、来ないかは別として)。

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どんなコンテンツも、戦略なしで作られるわけではありません。はっきりとした目的があり、それを実現させるべきコンセプトも、一貫した力強いものでなければならない。その狙いを明快に実現するのは、やっぱりコアとなるべきコトバです。仕掛けや仕組みを考える前に、まず何を言うか、何が背骨になるかをしっかり固める。特に広告の場合、どんなメッセージを送るかが最大の課題です。これがうまくいかなかった仕事は、やっぱりうまくいかない。結果を生まないし、長く記憶に残ることがない。そしてブランディングということを考えたとき、この「長く記憶に残る」というのは結構大事な要件です。
 
たとえばTVCMの場合、記憶に残るのは意外なことに「耳からの」情報だと言われているのですね。歌であったり、台詞であったり、ナレーションであったり、サウンドエフェクトであったり。これらをうまく設計しておかないと、なかなかいい結果が得られない。だから、当たり前のことですが、ただ映像の力にだけ頼っていたのではダメなんですね。眼からの情報、耳からの情報を立体的に構成した、総合的なディレクションが大変重要になってくる。特に耳から入って来るコトバはキモになります。
 
すべての情報を集約し、コミュニケーションに明確な方向性を与えるのは、まさにこの極め付けのたったひと言と言っていい。だから僕は、普段から若いCDやプランナーに「まずキーワードを見つけなさい」と、口を酸っぱくして言っているのです。

 

プロフィール

西村 佳也

株式会社アマナデザイン
取締役 クリエイティブディレクター/コピーライター

多摩美術大学教授等を歴任し、現在は株式会社アマナデザイン取締役。主な仕事は、サントリー山崎「なにも足さない。なにも引かない」、ウールマーク「触ってごらん、ウールだよ」、西武百貨店「女の時代」、資生堂、日産、トヨタ、日本生命、キリンビール、NTT等。著書に「閑休自在・悠々自滴」、「句集可不可」等。

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