COLUMN2017.3.27

【インタビュー】これからのデザインの可能性を考えるビジュアルを創る人 vol.01 廣村正彰さん(グラフィックデザイナー)

 ▼ 廣村正彰さん(グラフィックデザイナー)

一つの標(しるし)が、その場の世界観を決定することがあります。空間全体の印象や建物の使い勝手を印象づけるのは、デザインの仕事。だとしたら、デザインはその空間と人とをつなぐコミュニケーションツールなのかもしれません。サインやピクトグラムで訪れる人を導く機能性、場の雰囲気を作り出すビジュアル表現。それらを作り出す人は、何を考え、何を表そうとしているのでしょうか。 
 
ビジュアルが持つ力やビジュアルコミュニケーションについて、各界で活躍する人々にインタビューする連載「ビジュアルを創る人」。今回は、横須賀美術館やすみだ水族館のサインデザイン、展覧会「Junglin’(ジュングリン)」を開催するなど、グラフィックデザイナーとして活躍してきた廣村正彰さんに、お話を伺いました。

▼(左)すみだ水族館(右)展覧会ポスター「金沢でJunglin’」金沢21世紀美術館(photo:吉田 明広) 

 

 

「いいデザイン」とはどんなデザインなのか


ビジュアルシフト編集部(以下、編集部):このブログメディアのタイトルは「VISUAL SHIFT(ビジュアルシフト)」。ビジュアルコミュニケーションを軸として、伝わるコンテンツを生み出すためのヒントを紹介しています。グラフィックデザイナーという立場から、「ビジュアル」がどのような可能性を持っているかについて、まずはお考えをお聞かせください。

廣村正彰さん(以下、廣村。敬称略):目から入ってくる情報は、五感の中でも80%から90%を占めると言われていて、そのくらい視覚情報は脳と直結していると考えられています。となると、ビジュアルが持つ可能性というのは、人間の根幹に関わる問題。脳はビジュアルに反応しやすく、それには脳科学的に何らかのポイントがあるのだと思われます。僕らの作るデザインはビジュアルに直結しているので、デザインの世界に身を置いている自分としては、ビジュアルコミュニケーションというものがすごく重要な要素になります。

ただ自分はデザインを職業としていながら、そのデザインというものを心底信じていないところがあります。デザイン的な感覚って何だろう、いいデザインって何だろう。人々が反応するポイント、なぜそういうデザインが好きなのか。主観的に考えるよりは、脳が反応しやすいものを探し出せばいいだけなのではないか、と思うわけです。

編集部:「いいデザイン」というのは、何か具体的な形やイメージがあるのですか?

廣村:そもそも、いいデザインってどんなデザインなんでしょうね。他人から「これはいいデザインだから」と見せられると、他の人が言っているんだからそうなんだろうと思いますが、そういうデザインを山ほど見ているのに自分で作ろうとするとなかなかできなくて。
いいデザイン=人々が好むデザイン、ということになるとしたら、僕にとって一般的に「デザイン」と言われているものは今ひとつ信用できないなと思うところがあります。


編集部:いいデザインは人に伝わるデザインである、と考えると、伝えるためにデザインでどう見せたらいいかがわからないときがある、ということなのでしょうか。

廣村:伝わることと共感することはちょっと違いますよね。まず伝わることが大事。伝わったうえで、どう共感を生むか。
コミュニケーションにもいろいろな種類がありますが、その中に「ビジュアルコミュニケーション」があって、それはどのような人種の人でも「これはいい」と感じるものがあるということです。たとえば、黄色人種が見ても黒色人種が見ても、「あの人は美人だ」と思う要素は世界共通で、誰が見ても「あの人は美人だ」と思う要素があらかじめ決まっている。としたら、デザインは「あのデザインはいいデザインだ」という要素にたどり着けばいい。けれども、そこにたどり着くことができない。どうしたらいいんだろうと、悶々とした気分でいます。
 

デザイナーが作るのは、未来。それには美意識がある


編集部:廣村さんといえば、ピクトグラムやアイコンなどを含めた、サインデザインを作られる方として今や第一人者という印象もあります。前回の東京五輪では、初めて日本でピクトグラムが制作されたとの話がありますが、次の東京五輪のときには新しいピクトグラムができるのではないか、という予想や予感はありますか? 

廣村:ありますね。ただ、ピクトグラムは、何かを知るための代用品。五輪会場で言えば、ここにプールの会場があるよ、柔道ってこういうスポーツですよ、ということ概念的に知るための手段であり表現です。代用品は、いずれ何かに取って代わられるということで、それを薄々感じています。映像になるのかホログラムのようなものなのか、人の脳に直接働きかける何か。そうすると、コミュニケーションデザインというのは、脳に直接入ってくればいいじゃないかということになる。
たとえば、あるビルの中に入ると、入り口に人を感知するセンサーがあり、そこから情報を対象者に向けて流すとビルの構造やどこにどんな部屋があるかを脳に直接教えてくれる、というような。それができると、ビルの入り口にいろいろな案内を置く必要がなくなります。将来はそんな時代になるのではないかと思っているし、その点で言えば今僕たちがしているデザインという仕事は何かの代役でしかないということです。

編集部:では、人の手によるデザインは不要になると?

廣村:そうかもしれませんが、僕らが切磋琢磨して作っているものには「美意識」があります。人が理解する、伝えるものの先に、「美」というものをどう感じるかがデザインの根幹に関わることかなと思っています。目的が「伝える」だけなら代用品はいくらでもあり、それが脳に直接届くのであれば表現などはいらなくなるかもしれません。ですが、おそらく未来永劫、「美」に対する意識だけは人は渇望し望んでいくのではないでしょうか。人によって選り分けられたところに、デザインの凝縮した本質だけが残るような気がします。
デザイナーは未来を作っているのだと思うのですが、それは遥か先の未来ではなくて今年の終わりとか来年とか、ちょっと先の未来なんです。「君は生まれてくるのが早かったね」と言われるのはデザイナーとしてはあまりうれしくなくて、もっとも「遅かったね」と言われるよりはマシですが、半年くらい先を行っているあたりがちょうどいい。そのうえで今持っているスキルの中でどんな表現、伝わり方をするのがベストなのかということを、いつも考えています。

▼ 横須賀美術館(photo:近藤 泰夫)

デザインが持つチカラとは

編集部:デザイナーは、クライアントからの依頼、つまり悩みや要望をデザインで解決したり道筋をつけることが仕事なのかと思いますが、その際に気をつけていることはありますか。

廣村:なるべく「知る」ことですね。クライアントの現状だとか、すべきことに対しての知識とか。クライアントに何度もヒアリングをしたり、現場に行ったり。地域性とか時代性とか、属性みたいなことを拾えると、デザインに役立ちます。属性って、その地域の独特なものとか、その年代が共通して持っている特別なこととか、対象が持っている潜在的なチカラみたいなもの。それをうまく生かすのがデザインなんだと思います。

 

編集部:ではそのチカラを生かせるようなアイデアは、どこから生まれてくるんですか? 

廣村:今話した「属性」は大きなヒントになるんですが、アイデアの発想となると常におぼろげで、具体的に表現してみないとわからないところがあります。僕はいわゆる雑談というか四方山話のような意味のない会話が好きなんですが、その会話に時間をかけると求めているものが浮き上がってくる感じがあります。曖昧な会話をしながら、デザインの根幹となるような何かを、脈々と流れる川の中から拾おうとしていますね。

編集部: そうやって生まれたデザインが、クライアントの悩みや課題を解決する。そこにデザインのチカラが働くような気がします。

廣村:デザインのチカラって何でしょうね。一生かかって勉強しなくてはいけない命題です。
ただクライアントは、「こういうことが特徴なんです」と自分たちではわかっていても、それを生かせていないこともあります。それがデザインのチカラで魅力的な何かに変わるかもしれないですが、僕たちもやってみないとわからない。解決できているかも、やってみないと本当にわからないです。たぶんこうして、手探りの中をまた進んでいくんだなと思いますが、最終的には今の自分がおもしろいと思ったことを信じるしかないと考えています。

プロフィール

廣村 正彰|Masaaki Hiromura

グラフィックデザイナー

1988年廣村デザイン事務所設立。グラフィックデザインの他、商業施設や美術館などのサインデザイン、CI、VI計画を多く手がける。東京工芸大学教授、多摩美術大学客員教授、一般社団法人ジャパンクリエイティブ代表理事。主な仕事に、日本科学未来館、横須賀美術館、9hナインアワーズ、東京ステーションギャラリー、すみだ水族館、TOTO MUSEUM、台中国立歌劇院、そごう・西武、ロフトのアート・ディレクションなど。
www.hiromuradesign.com

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