COLUMN2017.8.9

【VISUAL INSIGHT vol.03】自販機で車が買える?! 視覚に訴える店舗演出とVR活用

SXSW2017の会場近くに設置されたクルマの巨大な自動販売機。実は、カーバナをプロモーションするための大掛かりなギミックで、右下のバーを握って揺するとミニカーが出てくる仕掛けになっており、人々が列をなして試していた。

テクノロジーライターの大谷和利さんが注目した、世界の先進的なビジュアルユースのトピックを取り上げる連載「VISUAL INSIGHT(ビジュアル・インサイト)」。第3弾は、2017年3月にアメリカで開催されたSXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)で見つけた、一風変わった車の販売方法をピックアップ。
 
アメリカにおける中古車販売のタフな状況と、それに風穴をあけることとなるビジュアル戦略の方法について、実際に行われた施策を例にご紹介します。

 

中古車の自動販売機?

筆者が、革新的なユーズドカー・セールス・カンパニーであるカーバナのことを知ったのは、SXSW2017の折だった。同イベントでは会場展示のほかにも、街中でさまざまなプロモーション活動が行われている。その中の1つが、カーバナが設置した自動車の巨大なベンディングマシン(自動販売機)だったのだ。
 
自販機内には、何やらBMWのスーパーEVスポーツカー「i8」を思わせるクルマが縦に収まっているが、さすがにこれはダミー。コインを入れる代わりにバーをつかみ(品物が出てこないときに人々がよくやるように)機械を揺すると、ミニカーがもらえるという仕組みである。

アメリカは自動車大国だが、実際の販売体制は旧態依然としている。セールスパーソンは歩合給のことも多く、値引きに関しても個々の裁量に任されている(つまり、自分の取り分と顧客への値引きを天秤にかける)ため、筆者も経験したことがあるが、えてして交渉はタフなものとなる。
 
ユーズドカー市場では、その傾向がさらに顕著となり、映画などでも中古車業者がずる賢く描かれることが多いのも、現実を反映している部分がある。
 
そんな中、ビジュアルとテクノロジーの力で業界に風穴をあけようと、2013年にアメリカ・アリゾナ州のフェニックスで設立されたのが、カーバナなのだ。
 
同社はもともとオンラインでユーズドカーを販売し、全米の顧客の自宅まで届けるというサービスをメインに行っていた。そして設立からほどなくして、試験的に実店舗も開設し、顧客が自分で購入車を受け取りに来たり、その場でセールスパーソンを介さずにクルマを購入できるようにした。
 
さらに、2015年になって、現在の同社のシンボル的存在でもあるガラス張りの全自動ガレージを備えた実店舗を整備し始め、自販機感覚でユーズドカーを購入できる仕組みを作り上げたのだった。

カーバナの実店舗には、専用端末に特製コインを入れると起動する、ロボティックな全自動ガレージが併設されている。

すると、あらかじめ顧客がオンラインで選択しておいたユーズドカーが、ガラス張りのガレージ内のコンベヤーシステムによって移動し始める。

出典:Carvana - Car Vending Machine

指定されたクルマは、ガレージ中央のエレベーターによって地上レベルまで降ろされ……。

出典:Carvana - Car Vending Machine

さらにフロア面の搬送システムによって、正面ドアのところまで運ばれてくる。

出典:Carvana - Car Vending Machine

「そう、これはまさにクルマの自動販売機なのだ」というメッセージを、アメリカでポピュラーな菓子の自販機に入れたカードでアピール。

 

もちろん、事前にオンラインで支払い条件などを決めて契約を済ましているから、このような受け渡し方法を採れるわけだが、サービスの新しさや簡便さを視覚的にアピールすることの重要さを真剣に考えたからこそ、ここまでの投資を行えたのである。
 
ちなみに、「試乗できない」問題は、購入車を受け取ってから1週間は無条件で返却ができ、払い戻しを受けられるというクーリングオフ制度を利用することで、実質最初の7日間が試乗期間となるシステムを採用して解決した。
 
その結果、実際の顧客の評価も上々で、8300件を超えるレビューコメントの平均が5ポイント中4.7であることが、それを物語っている。

 

自社の専用スタジオでVR撮影

全自動ガレージがカーバナの表舞台のテクノロジーならば、それを裏で支える黒子的なテクノロジーもある。それが、同社のオンラインセールスサイトで中心的な役割を果たしているVRイメージだ。
 
オンラインショッピングでは、実車を見ずに、また試乗もできずに購入を決断しなくてはならないという点が、特にユーズドカーの世界では顧客が不安を感じる部分といえる。そこでカーバナは、その問題を解消することに真摯に取り組んだのである。
 
同社は、特許技術の専用VR撮影ブースを持ち、販売するすべての車両(在庫数は常時7300台以上)のエクステリアとインテリアの高解像度VR撮影を行っている。これらのイメージをWebページ上で自由に回転させたり、ディテールを拡大して見られるようにすることで、顧客が自分の目で確かめた感覚が得られるようにしたのだ。

販売される車両は、すべて実車のエクステリアとインテリアをVR撮影して、細かなところまでチェックできるように工夫されている。

出典:Carvana: The Company

車両のVR撮影は、クルマがそのまま乗り入れられる自前の専用ブースで行われる。

出典:Carvana: The Company

円筒形のブースの中央に設けられたターンテーブルの上までクルマを移動させるだけで、ライティングなども含めて短時間で効率的にVR撮影を進められる仕組みが整えられている。

出典:Carvana: The Company

パソコンを操作中の女性は、実際の撮影ブースの責任者。ハイライトのチェックや、トリミングなどを行ってVRデータを完成させる。

出典:Carvana: The Company

オンラインのセールスページのVRイメージには、ターンテーブルやブースのドアなども写っている。これは、CGではなくきちんと実車を撮影したものであることを顧客に理解してもらうための工夫といえる。

出典:Carvana: The Company

インテリアのVR撮影は、エクステリアとは異なるライティングが求められるため、異なるブースで特殊なカメラ機材を用いて行われる。

出典:Carvana: The Company

狭い空間内で解像度の高いVR撮影を実現するために、あえて超広角レンズによる一発撮りではなく、アームの先につけたスリットカメラを回転させながらスキャンする方式を採用している。

出典:Carvana: The Company

専用アプリケーションでスキャニング中の画面。

出典:Carvana: The Company

座標変換されてインタラクティブなVRムービー化されたデータは、美しく滑らかで破綻がない。

出典:Carvana: The Company

ここまで手をかけても、高品質で価格競争力のあるユーズドカーを送り出せるという事実は、従来の中古車販売がいかに非効率的で無駄な費用がかかっていたかということの裏返しといえるだろう。

他のビジュアルデザインも抜かりなく

もちろん、オンラインのセールスサイト全般のビジュアルデザインやユーザー体験にも気を配っており、購入を決断するまでのストレスを可能な限り少なくし、一連の体験が楽しいものに感じられることが最優先に考えられている。

ローンシミュレーターなどの操作画面も、単に数字を打ち込むと結果が表示されるような味気ないものではなく、メーター類を模したインターフェースによって、楽しく操作ができるように配慮されている。明細の表示も明確で、顧客を迷わせないことを重視した設計だ。

カーバナは、おそらく世界で最もVRイメージの価値を信じ、実用的に応用している企業と考えられる。そこに可能性を感じるならば、一般的な企業では社内にVR撮影ブースを設けるようなことはなかなか難しいとしても、その部分は外注するなどして、有効に活用するやり方もあるはずだ。

出典:Carvana: The Company

自社のコアバリューと製品の魅力を消費者に伝えていく上で、無形の価値を見える化し、有形のものをより効果的にアピールするためにビジュアルを活用する。その潜在的な可能性がまだまだあることを、このカーバナの事例は示している。

プロフィール

大谷 和利|Kazutoshi Otani

テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー

デザイン、電子機器、自転車、写真分野などの執筆活動のほか、商品企画のコンサルティングを行う。著書に『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(アスキー新書)。『iPhoneカメラ200%活用術』(枻出版社)、『スティーブ・ジョブズとアップルのDNA』(マイナビ)『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社)、『ビジュアルシフト』(宣伝会議)、『ICTことば辞典』※共著(三省堂)など。

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