EVENT2016.5.17

アートは効果測定できる?医療現場に見る、人を癒すアートの力連続トークセッションレポート「アートフォトは人の心を鎮めるか(2)」

六本木・IMA CONCEPT STOREにて開催されたトークセッションの2回目は、医療の現場におけるアートの活用がテーマ。アートで医療現場を癒しの空間に変える活動を続ける森口ゆたかさんと、アートフォトを病院に展示するプログラムを立ち上げた経験のある杉山武毅さんをゲストに迎えました。なぜ人はアートで癒やされるのでしょうか。そして、その効果は測定できるのでしょうか?
 

 


従来のイメージを変えていく、アートの力

「アート・イン・ホスピタル」という言葉を聞いたことはありますか? 病院と言えば、無機質で閉鎖的、なるべくなら行きたくない場所という印象をお持ちの方も少なくないはず。そうした病院の空間にアートを持ち込むことで、心地よい療養環境を作り出そうという取り組みです。ヨーロッパでは盛んに行われており、ようやく日本でも注目を集めるようになってきました。

森口「15年前にイギリスから帰国して以来、心に働きかけるアートの力で、病院に集う人々にとって過ごしやすい環境に変える『アート イン ホスピタル』の活動を行っています」

杉山「私が働いている西脇市立西脇病院は、2010年に行政の機関病院に指定され、今までよりもさらに魅力的な病院にする必要がありました。そこで、大きな可能性を感じたのが『アート・イン・ホスピタル』の導入です。アートは、昔から人の心や気持ちに作用するものであり、医療とアートをぶつけてみることによって、何かよい効果があるかもしれないと思ったのです」

心に働きかけるアートの力で、病院を過ごしやすい環境に変えていく。これはきっと病院に限ったことでなく、たとえば「アート・イン・オフィス」、「アート・イン・ファクトリー」としても通用する取り組みではないでしょうか。アートは、環境やイメージを向上させる道具にもなるのです。
 

“アートディレクター”が駐在する病院

アートが道具ならば、それをきちんと操ることのできる人が必要になります。森口さんたちは、すでに先を見越した構想を掲げています。

森口「私たちの目標は、病院にホスピタル・アートディレクターを置くことです。非常勤のスタッフを派遣したりして少しずつ叶いつつありますが、近い将来は、全国の病院にアートがあって当たり前、アートディレクターがいて当たり前、というふうにしていきたいですね」

杉山「アジアでは、シンガポールが『アート イン ホスピタル』の先進国と言われています。取材でうかがった病院では、療養環境はもちろん、サインなど環境デザインにもアートが使われており、さらにアートを使った治療も行われていました。隅々にまでアートの匂いが漂っている病院を見て、日本の病院もこんなふうにしていきたいと強く思いました」

数年先には、日本の病院でも専属のアートディレクターが役目を担い、アートが治療にも用いられているかもしれません。その時、病院のイメージは今とはかなり異なるものになっていることでしょう。

効果測定で作品選びの指針を導く

そもそもなぜ人はアートで癒やされるのでしょうか? このトークセッションの第1回で、アート鑑賞で得られる効果のひとつとして「リラックスする」というキーワードが挙がりましたが、それについても、医療の現場だからこそ見えてくる理由があるはずです。

杉山「多くの人たちが、自分自身と社会のせめぎ合いの中でストレスを抱えています。ストレスは、不自然なことを人間がやっている以上はずっとつきまとうもの。そのケアとして、アートを鑑賞することで自分のストレスを緩和しようとする。病院や自分の暮らしの中にアートを持ち込むことで、自然に回帰しているのだと思います」


アートが人を自然なかたちに導くことで癒すのだとしたら、その効果をどのように計り知れば良いのでしょうか? 測定できるのであれば、シーンやシチュエーションに合わせて、どんなアート作品を選べばよいか、その指針になるはずです。

森口「イギリスでは、病院内にひとつ絵を飾るのにもきちんとした理屈が必要になります。コンセプトや理由を積み重ねてきたからこそ、煉瓦を積み上げるように確固たるものができあがっています」

杉山「シンガポールでは、緩和ケアでフェイススケールというのが使われています。泣いている顔、普通の顔、喜んでいる顔など、5つの顔から患者が選ぶことでその人の状態がわかる。私の病院にアートプロムナードを設置した際にも、そうしたスケールでアンケートを実施しました。また、アートの前に立ってもらい、その前後でアドレナリンなどの血中濃度を比較測定する方法もありますが、これはもう完全にサイエンスですね」

フェイススケールの例。「笑顔」「泣き顔」などさまざまな顔を用意して、痛みを訴えている患者にどのぐらい痛むのかを示してもらう。

 




 


今、医療の現場だけでなく、さまざまな企業がアートを活用しています。そしてアートは、すでに「鑑賞する」だけのものではなく、企業に新たな価値を与えてくれるものとして認識されはじめています。その際に「どんなアートが」「どのような効果をもたらすのか」を把握した上で取り組むことができたら、より効果的にアートを活かすことができるはずです。さまざまな企業活動で効果を予測しながら、アートを活用していきましょう。


<今回のイベントについて>
連続トークセッション アートフォトは人の心を鎮めるか(※終了)
第2回「アートは心を開く~医療現場の実践から~」 
日程:2015年10月21日(水)19:00~20:30
会場:IMA CONCEPT STORE


(TEXT:VISUAL SHIFT編集部)

プロフィール

森口 ゆたか

美術家、NPO法人アーツプロジェクト理事長

1986年から現在に至るまで、毎年各地の画廊や美術館で作品を発表し、2011年徳島県立近代美術館にて個展を開催。1998年からのイギリス滞在中にホスピタルアートと出会い、以来、医療現場でのアートの可能性を探る活動を開始。2004年にNPO法人アーツプロジェクトを設立。これまでに関西を中心に30ヵ所以上の病院でホスピタルアートの企画、運営、実施に携わる。

プロフィール

杉山 武毅

医師、RAIEC代表、「Gallery TANTO TEMPO」ディレクター

医師として医療現場に立つ傍ら、2008年に写真専門企画展ギャラリー「Gallery TANTO TEMPO」のギャラリーディレクターに就任。2013年11月には、RAIEC代表として、六甲国際フォトフェスティバルを開催し、写真家や国内外のレビュワーの交流の場として高い評価を受ける。最近は、世界的なフォトレビューイベントのレビュワーや審査員に選出されるなど広く活躍中。

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