COLUMN2017.9.29

【ビジュアルを創る人 vol.05】相場正一郎さん(オーナーシェフ)生活の心地よさを「LIFE」という名前に込めて

 

東京・代々木八幡にオープンして14年。カジュアルイタリアン「LIFE」は、地元に愛され、遠方から訪れるお客さんもいる人気店。その理由は、料理のおいしさだけでなく、居心地のよさにありました。
 
全国に4店舗の「LIFE」を経営し、オリジナルプロダクトや雑誌・書籍の制作、レストランのプロデュースも手がける相場正一郎さんに、居心地のよい店のつくり方についてお話を伺いました。

 

等身大の目線で、手の届くセンスのよさを日常に

ビジュアルシフト編集部(以下、編集部):時代が変わっても愛され続けている「LIFE」ですが、どのようなコンセプトで店をオープンしたのですか。
 
相場正一郎さん(以下、相場。敬称略):僕が料理人になろうとしたのは、イタメシブームがきっかけです。18歳のとき修行のためイタリアに渡り、帰ってきたらバブルが終わって、カフェブームというか、地域に小さい店が点在し始めていました。それで、音楽好きや家具好きのオーナーがやっているような、料理はおいしいけどコンセプトが食以外にある店作りに興味を持ちました。
 
帰国後3年間は、東京・原宿のイタリアンレストランで働いていましたが、当時25歳の僕らの世代では、特別なことでもなければレストランで食事することもありません。だから、自分でも毎日通えるような「カフェ卒業生、レストラン入学生」ぐらいの、料理に満足できてカジュアルな店をやろうと思って「LIFE」をオープンしました。28歳のときです。
 
編集部:カジュアルという意味では、「LIFE」の内装は手作り感がありますね。
 
相場:DIYが好きなんです。1号店の「LIFE」は、資金の節約という口実で、自分たちが楽しみながら内装の仕上げの部分を作業しました。プロの仕事は完璧ですが、僕の感覚でいうと面白みがなくて。
 
「LIFE son」と「LIFE sea」(共に後述)は、建築デザイン会社のLandscape Products(ランドスケーププロダクツ)にディレクションをしてもらいました。その2店舗も仕上げはお店のスタッフたちと一緒にお手伝いしています。だから、僕たちの手で仕上げた綺麗すぎない部分と、プロがセンスよく仕上げた部分のバランスが絶妙なんです。

オリジナルプロダクトも販売されている「LIFE」

編集部:店ごとのテーマを言葉で表すと?
 
相場:2012年、東京・参宮橋にオープンした「LIFE son」は、「Mountain Dish」。ヨーロッパの山の料理を意識しています。オープンと同時にパン職人の樽井勇人さんをお誘いして、一つの物件をシェアする共同店舗というかたちで、「TARUI BAKERY」もオープンしました。このお店はサンフランシスコにあるTARTINE BAKERY(タルティーン・ベーカリー)というパン屋とレストランが合体した素敵なベーカリーレストランに影響を受けました。
 
2014年、神奈川・藤沢の湘南T-SITEにオープンした「LIFE sea」は、文字通り「海」。「FOOD FOR ADVENTURE」をテーマに、気持ちいい風が通り植物に覆われた広いテラスを作りました。藤沢は地域柄としてサーフィンやアウトドアが好きな人が多くて、寒いときでも、わざわざ外で食べることにこだわっているお客さんも多いですね。

「Mountain Dish」がテーマの「LIFE son」にはアウトドアを想起させるグッズも

「FOOD FOR ADVENTURE」がテーマの「LIFE sea」。テラスにはグリーンがたくさん


一つひとつの場所で、それぞれの体験を大切にする

編集部:「LIFE」の空間作りには家具も大きな役割を果たしていますね。
 
相場:家具は気に入ったものを見つけたときにストックしておきます。選択肢には中古もあるので。「LIFE son」の入り口にある大きなダイニングテーブルは、あらかじめ買っておいたもので、これに合わせて内装を設計してもらいました。席をたくさん取ることは優先しませんでした。
 
たとえば、座り心地のいい椅子を置いたとしても、居心地がいいとは言えません。トータルのバランスだと思うんです。照明の明るさだったり、外の景色の見え方だったり、風が通って気持ちがいいとか、スタッフの動きが見えるとか、挙げればきりがないですね。自分がどこかへ行ったときに、心地よく感じたものを店に持ち帰って構成しています。
 
編集部:ダイニングテーブル、ソファなどの席は、どんなことを意識して配置しているのですか?
 
相場:イタリアの店は多くが家族経営をしていて、友達が来ると入り口の横のダイニングテーブルでしゃべりながら仕事をするという雰囲気があったので、「LIFE son」は入り口に大きなテーブルを置きました。1号店の「LIFE」は、キッチンの奥にカウンターを作りました。当時、僕はキッチンをやっていたので、友達が来たらカウンターに座らせようと考えたんです。
 
「LIFE」は入り口が2つあるんです。商店街側の表口にはダイニングテーブル、遊歩道側の裏口はソファ席にして雰囲気を変えました。僕にはうれしいことですが、別の店だと勘違される方もいて、数年経ってから、お客さんに表と裏は同じ店だったんだ、と驚かれたこともあります。
 
編集部:そのおかげで、お客さんも一軒の店でいろいろな体験や使い方ができるわけですね。
 
相場:入り口の大きなテーブルで食べるのと、奥の2人席で食べるのでは、感じが違うと思います。座る向きでも見え方が違います。フロアに段差を作ってコーナーごとに高さを変えていますが、それはお客さんにそれぞれの場所での体験を楽しんでもらえるように考えてのことです。隣のテーブルと目線の高さが違うと、近さを感じさせない効果もあります。それから、視界の抜け感だったり、外と中の連続性があるほうが気持ちいいですね。

「LIFE」というブランドを好きになってもらう仕掛け

編集部:「これいいな」と気になる音楽や道具・雑貨など、店内にはお客さんの生活との接点がたくさんあるように思います。

 

相場:せっかくお店にお客さんが来てくれるのだから、料理を食べておいしいというのは当然ですが、それ以外にも「LIFE」の何かを持ち帰ってもらいたいと思っています。
 
音楽が心地よいと感じたら、そのアルバムの名前をメモして帰るとか。代々木公園エリアのフリーペーパー「PARK LIFE」を作って地域の新しいお店を知ってもらおうとか。店の雰囲気を気に入ってくれたお客さんに、家に帰っても「LIFE」の余韻を楽しんでもらえるように、テーブルまわりのオリジナルプロダクトの製作・販売も始めました。
 
編集部:店舗でのイベントやワークショップも、お客さんとのコミュニケーション手段ですね。
 
相場:「LIFE」のファン作りの最初は、料理教室なんです。地域のママさんと仲よくなろうと思って。その後も、お客さんに何かやってもらえないかと場所も無料で提供しました。初めてのワークショップはニット教室で、自分たちもそこに参加しました。そんなイベントから常連になってくださった方もいます。
 
こうして、常にクチコミでお客さんが増えているので、リラックスした空気感があります。初めてのお客さんばかりでなく知っている顔を見ると、ホーム感があって、働く人も居心地がいい。顧客作りって、大事ですよね。

クリエイターの視点からも、ライフスタイルを発信

編集部:情報発信に関しては、雑誌の取材なども多く、メディアに登場されたり、ご自身でも書籍や雑誌を制作するなど、クリエイティブな活動をしていらっしゃいますね。
 
相場:『DELICIOUS LIFE OF THE BOOK OF ITALIAN COOKING(デリシャス ライフ オブ イタリアン クッキング)』の制作が、そういう活動を始めるポイントになりました。1号店をオープンして5年目ぐらいのとき、レシピ本を出したいという思いがあって、スタジオ撮影で知り合ったカメラマンの近藤泰夫さん(hue)と意気投合して自費出版しました。お互いに、これからもっともっと仕事をしたいという時期だったので、自分たちの世界観を出した作品を作ろうと。イラストレーター、デザイナーも、知り合いに協力してもらって作りました。

レシピ本『DELICIOUS LIFE OF THE BOOK OF ITALIAN COOKING(デリシャス ライフ オブ イタリアン クッキング)』

「LIFE」の10周年で、本当はビジュアル本を作りたかったのだけれども、料理の取材で知り合った編集者に、このタイミングなら読み物本を作るほうが意義があるとアドバイスをいただき、出版社に紹介してくれました。この本があるから、後に大手企業から店舗プロデュースの話をいただいたのだと思います。
 
編集部:あらためて今後の活動の方向性を聞かせていただけますか?
 
相場:来年、2018年は「LIFE」の15周年なので、その節目に本を作りたいです。それに、その先は小さな店をやるんじゃないかな。直営の地域密着店。けれど、意図的にこうしたいというものはなく、偶然から生まれることをやっていこうと思います。
 
編集部:日常の生活や出会いが、「LIFE」という店名にリンクしているのですね。
 
相場:毎日の生活が重なって人生になっていくというのもあるし、もう一つの意味合いとして、みなさんの生活に溶け込みたいという思いがあります。店をオープンした頃は、イタリア語の店名が主流でしたが、そこから一線を引くという意味で英語の「LIFE」にしました。そのブランドロゴの下に、sonやseaのように、その場所やその時々のライフスタイルがついてくる、というイメージです。
 
時代がまわれば、自分たちのスタイルが、そこにフィットする時期もあるし、ズレる時期もあります。でも、努力して合わせようとしなくても、またフィットするときがくることが、一つのことを長くやる醍醐味でもありますね。

プロフィール

相場 正一郎|shoichiro aiba

「LIFE」オーナーシェフ

1975年、栃木県生まれ。18歳で単身イタリアにで料理修行。帰国後、原宿のレストラン勤務を経て、2003年に代々木八幡にイタリアンレストラン「LIFE」をオープン。2012年に参宮橋にTARUI BAKERYとともに姉妹店「LIFE son」を、2014年には藤沢市辻堂の湘南T-SITE内に「LIFE sea」をオープンさせる。レシピ本の出版、フリーペーパーの発行、プロダクトの製作、イベントやワークショップのほか、レストランのプロデュースなど幅広い活動が注目されている。

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