THINK2017.11.28

半導体加工からワイン醸造へ。デザインマネジメントで魅せるストーリー

 

2017年4月、日本のワインの一大生産地、山梨県甲州市に新たに誕生した「MGVs/マグヴィス」は、半導体加工会社が経営する異色のワイナリー。半導体とワイン。一見、何の関係性もなさそうですが、ストーリーを知れば知るほど共通点がありました。
 
山梨県の第6回「美しい県土づくり大賞」の【広告景観賞】にも選ばれたワイナリーを訪ねて、そのトータルデザインとブランディングを担当した田子學さんに、デザインマネジメントの視点から、お話をうかがいました。

 

“理系”をコンセプトに、半導体とワインの関係性を語る

なだらかな丘陵地帯にぶどう畑が広がる山梨県甲州市。大小数々のワイナリーが集積するこの地で「MGVs」は最も新しいワイナリーの一つ。多くのワイナリーがクラシカルで農業的なのに対して、「MGVs」は見るからにモダンで工業的です。オーナーは塩山製作所の社長であり、エンジニアの松坂浩志さん。半導体加工の生産を海外移転したことによって使わなくなった工場を利用して、地域に貢献できる新事業を始めようと設立したのが、このワイナリーです。

 

 

「松坂さんの話を聞けば聞くほど興味深く、やろうとしている事業の理念に共感しました。この工場施設を再利用することによって、理念を具現化するいいワイナリーを造ることができるのではないかと思いました」と話すのは、「MGVs」という新しいブランドのトータルデザインを手がけた田子學さん(エムテド代表)。
 
田子さんの専門はデザインマネジメント。かいつまんで言うと、経営手法にデザインを取り入れることで、ビジョンを視覚化してカスタマーとブランドの関係性を深め、ブランド力をつけることで企業価値を高めるという考え方です。

 

「このワイナリーの際立った特徴は、オーナーがエンジニアで建物が工場だったということです。ワイナリーに転身したときにその部分を捨ててしまうのは、過去の歴史を捨ててしまうことになります。そこを残すことで、ブランドのフィロソフィーを感じ取れるデザインにしたいと思いました」
 
ワイナリーのデザインコンセプトは“理系”。象徴的なのは、建物の脇に立つタンク。今はそのボディに「MGVs」のロゴがデザインされていますが、かつては大きく「液化窒素」と文字が書かれていました。前庭のアプローチから建物に入ると、フロアにはクリーンルームで使われていたアルミ製のグレーチングパネルが活用され、機械室にあったバルブの付いた配管が柱として使われるなど、工場にあったものが資材として再利用されています。過去に、ここが重要なインダストリーの拠点であったことを、あえて表現する試みです。

(左)改修前の半導体加工工場 (右)新規事業のワイナリー

「半導体の生産とワイン造りは通じるものがあります。半導体は精密でクリーンな環境でしか造ることができません。とても神経を使う仕事です。ここでは、その哲学を以てワインを醸造しています。つまり、いかに品質を伴ったワインを安定的に製造していくのか、という文脈で、半導体とワインを繋げています」
 
実際、このワイナリーでは、ぶどう作りにおいても、データ化や分析に取り組んだり、半導体製造で培ったノウハウを生かしながら産業化することに取り組んでいます。感覚や経験もさることながら、客観的指標をもってぶどうの生育に取り組むあたりは「理系」ならでは。前出のタンクの液化窒素も、ワインの酸化を防ぐために必要な要素であることなど、半導体製造というインダストリーの文脈が、新しい事業に継承されていることが感じ取れるようにデザインされています。

プロダクトの価値をラベルにビジュアル化して情報発信

特徴的なのは施設だけではありません。「MGVs」のワイン事業は、ぶどうの栽培から醸造まで一貫して行っています。ワイナリーの向かいの畑は、オーナーの松坂さんのご両親が営んでいたぶどう農園。高齢化が進んで手をかけることが難しくなったぶどう畑の管理もし、栽培をしています。また、甲州のぶどう畑は棚作が主流ですが、垣根作を従来とは違う方法で実験するなど、理系企業らしい研究開発が行われています。
 
ワイン造りのコンセプトは、その土地ならではのテロワール(気候風土)の味わいを表現すること。その土地で採れたぶどうの味わいを素直に出すことがワインの価値だと考えています。そのため、日本の古来品種に特化し、白ワインは甲州、赤はマスカット・ベーリーAの2種のみを栽培。収穫地によって、山の土には動物の匂いがあったり、川の土にはミネラル感があることを伝えることで、ワインの愉しみを表現したいと考えています。

 

「ワインはぶどうの品種、テロワール、醸造方法によって、味の個性が決まります。これまで、ぶどう栽培からワイン醸造までを一気通貫で取り組み、なおかつ“見える化”しようとする人は少なかった。そのチャレンジを、ワインを飲む人に理解してもらえるように表現しなければならないと思いました」
 多くのワインラベルが情緒的だったり雰囲気を重視するものであるのに対して、「MGVs」のワインラベルは、理系らしく、ワインの内容がアルファベットと数字3桁で表されています。

ワインラベルの表記内容

これらの掛け合わせで、理論上1つのぶどう品種から200種類のワインを造ることができるといいます。
 
「オーナーの松坂さんが、2種のぶどうを使って、どのようなワインの造り方をするのかを、マトリックス表を作成されていました。その工程が面白いなと思って。このワインは、この土地のぶどうで、こういう造り方をしているということが、お客さんにわかりやすく伝われば、自分の好きなワインの個性がわかり、わかると人に教えたくなりますよね。その仕組みを作りたいと思いました」
 
さらに広い視野で見ると、将来、日本の産業界がたどる道には、人口減少による生産能力の低下という問題があります。その中で、日本のプロダクトに国際競争力を持たせるためには、その土地ならではの価値を生み出せることが重要になります。このワインのラベルは、生産地の安心・品質を保証するものであり、製品をトレースできる仕組みにもなっているのです。

新たなチャレンジに、デザインのチカラを

デザインは従業員のモチベーションにも働きかけます。ガラス張りの醸造室に並んでいるのは、チェスのアイコンが入ったステンレスタンク。本来なら番号管理でもいいものを、理系企業でありながら、あえて遊び心のあるデザインにしているのには理由があります。

醸造タンク

「愛すべきアイコンがあって、ここで醸造しているものを数字で言うのではなく、『今、ホワイトナイトには何が入っている』という会話が自然に出てくれれば、いい雰囲気が生まれるのではないでしょうか。商品を箱詰めするときも、ただの段ボールの箱ではなく、かっこいいデザインの段ボール箱だったら、気持ちもアガりますよね」
 
従業員も楽しめる工夫。その効果は、確かに表れています。ユニフォームを決める際、ワイナリーの従業員が自分たちで最終決定したハンチング帽を、みんなが被って醸造している姿がとても素敵です。
 
ここでは、従業員とお客様のコミュニケーションもデザインされています。買ったワインの瓶は、包み紙をしてシールを貼り、最後にわざわざスタンプを押してお客様に手渡されます。最初からスタンプが押してあるほうが効率がいいはずで、オペレーション的にはありえないことですが、ひと手間かけることが大切。接客を担当する武井達哉さん(総務課)によると、手押しのスタンプは、ほぼ100%お客さんとの会話のきっかけになるそうです。

 

「ただ試飲するだけではなく、ここではワインの文化やこのワイナリーの存在意義を感じてもらいたいので、見て楽しめて、お客さんが試飲したときに話が盛り上がるコミュニケーションができるのではないでしょうか」
 
理系的なワイナリーですが、コミュニケーションは有機的なアプローチが感じられます。
グレーチングパネルや液化窒素のタンクが象徴的にありながら、窓枠や床、カウンターに木材を使い、質感や音楽に気を配っています。試飲カウンター越しのチョークアートもしかり。

 

 

砂利とアスファルトの駐車場だった敷地には、1メートルの盛り土をして芝生を敷き、大きな木を植え、アプローチが造られています。エントランスを入ったすぐ左の、工場の受付カウンターと事務所があったところには、大きな木製のテーブルが。ここは、ワークショップやイベントなどのコミュニケーションの空間として、どうしても作りたかった場所だったそうです。
 
「本来はBtoB企業で最終カスタマーには知られない存在でしたが、今はワイナリーとして最終カスタマーと会話をすることの意義を大切にしています。ここでは、おいしくてクリアで正確なワインが提供されると同時に、ワインという文化そのものである“豊かな時間”を楽しんでほしいですね」
 
ワイナリーの落成式で初のワインが開栓されたとき、関係者が口をそろえてファーストビンテージの味わいに驚いたと言います。最新鋭の発泡用タンクが導入され、2018年春にはスパークリングワインがリリースされる予定。ちなみに、世界でも最新鋭の除梗機が日本に数台しかなく、そのうち1台がこのワイナリーにあるそうです。初期投資として、長く使えてより正確なものを導入するという経営判断からも、ものづくりへのこだわりの姿勢が伺えます。

 

「今後、日本が国際競争力を強化する品目にワインが入ってきます。海外の人たちに求められているのは、日本の一次産業からできた日本産のワインのはずなので、胸を張って日本のワインです、と言えるものを造っていかなければなりません。価値ある1本としてのプレゼンスを上げていくには、積極的なデザインの活用が有効です。ワイナリーが切磋琢磨して、10年後、20年後に日本のワインはカッコイイよねという認識がスタンダードになることを望みたいですね」

 

後発でワイナリーを始めるにあたり、ありふれた文脈で、一般的なマーケティングをしていては、特徴的な世界観を表現することはなかったでしょう。まったく真逆の目線で、他とは違う文脈でデザインされているからこそ「MGVs」は注目を集め、新たな挑戦を可能にしています。
 
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<MGVs(マグヴィス)ワイナリー詳細>
所在地:山梨県甲州市勝沼等々力601-17
営業時間:9:30~16:30(ショップ、試飲)
定休日:火曜日(9~10月は営業)
※最新情報はWebサイト等でお知らせいたします。

プロフィール

田子 學(Manabu Tago)

MTDOinc. 代表取締役 アートディレクター/デザイナー

東京造形大学II類デザインマネジメント卒。東芝にて家電、情報機器に携わり、家電ベンチャーリアルフリート(アマダナ)の創業期に参画した後、MTDO inc.を設立。企業や組織デザインとイノベーションの研究を通し、広い産業分野においてコンセプトメイキングからプロダクトアウトまでをトータルにデザインする「デザインマネジメント」を得意としている。ブランディング、UX、プロダクトデザイン等、一気通貫した新しい価値創造を実践、実装しているデザイナー。2013年TEDXTokyo デザインスピーカーとして登壇。

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