THINK2017.12.5

ビジュアルリポート vol.02 丹青社/未来創造にかける思いを空間にデザイン分散していた事業部をすべてワンフロアに集結

 

オフィスやホテル、美術館など、空間におけるビジュアル戦略が、そこで働く社員や訪れる人々にどんな効果をもたらすのでしょうか。さまざまな建物の空間デザインを見ながら、ビジュアルが人に与える印象やそのデザインを作った狙いについて考察してくこの連載。
 
第2回は、2015年9月に品川シーズンテラス(東京都港区)に本社を移した、丹青社本社のオフィス空間をご紹介。同社の上垣内泰輔さん(プリンシパル クリエイティブディレクター)と、安藤健介さん(デザイン統括部/デザイナー)にお話を伺いました。

 

まずは、オフィスの様子を拝見!

丹青社は、商業施設やホテル、オフィスや博物館など、さまざまな空間づくりを行っています。そんな空間づくりのプロフェッショナルのオフィスは、JR品川駅近くのビルのワンフロア、1,500坪もの広いフロアに広がる。インフラが整いアクセスにも恵まれた将来性のある立地で、丹青社及びこの業界の未来が創造できる拠点にしようと作られたオフィスには、どのような特徴があるのでしょうか。

▼受付エリア
エレベーターホールから受付に向かって進むと、白でまとめられた受付ロビーと、ガラス張りの向こうに木製のビッグテーブルが設置された広々とした空間が目に入ってきます。

受付エリア

クリエイティブミーツ

 

このガラス張りの空間はクリエイティブミーツと呼ばれ、内外のクリエイティブが出会い交流する場となっています。
 
窓に向いたスペースにはライブラリーがあり、デザインにインスピレーションを与えるような、知的刺激を起こさせるさまざまな雑誌や書籍が置かれています。また、東京大学総合研究博物館とのコラボレーションによる「モバイルミュージアム」として、さまざまな学術標本を展示。文化情報の発信
として機能しています。

ライブラリー

モバイルミュージアム

▼執務エリア
ワンフロアで1,500坪。ここに本社社員のほとんどが集約されています。デザイナーは固定デスクで全事業部門のクリエイティブ職が集まっています、それ以外の営業職や制作職はフリーアドレスのため、目的や気分によって働く場所を自由に選ぶことができます。

固定デスクエリア

フリーアドレスエリア

さまざまな資料を集約した、サンプルルーム

▼コリドーエリア
フロアの中央部分に執務エリアがあり、それをぐるりと取り囲むように窓に面した四方がすべて共有エリアになっています。コリドー(回廊)エリアと呼ばれ、打ち合わせ、休憩、ランチなど、必要に応じて自由に使える場所になっています。

コリドーエリア

レインボーブリッジが見える側には「HASHI」のアイコン

 

前オフィスでの課題を解消する、働きやすい空間を目指して

以前は、上野に拠点を構えていた丹青社。老朽化に伴い、約37年間過ごしたビルからの引っ越しを敢行しました。
 
引っ越しの1年前からこのプロジェクトに関わったという上垣内さんは、分散していた社員がワンフロアに収まることがこのプロジェクトの最重要課題だったと言います。

 

「以前は、いくつものビルの17のフロアに事業部が分かれていて、相互のコミュニケーションがスムーズにできませんでした。当社には、博物館など文化空間を担当する事業部、ショールームや展示会などを担当する事業部、商業施設などを担当する事業部、チェーンストアを担当する事業部、の4つの事業部があり、それぞれにデザイン、制作、営業がいます。最近では、たとえば車のショールームを作る場合、あえて車を置かないショールームにしてカフェなどを併設し、家族連れを取り込む、という施策を行ったりします。そのようなときには、展示のノウハウに加え、物販や飲食などのノウハウも必要。このように、我々の事業部すべてのスキルやナレッジを融合していくとよりよい空間づくりにつながるプロジェクトが増え始め、特に重要な川上段階の企画やデザインを担当するデザイナー達を1カ所にまとめたいという話になりました」と、上垣内さん。

デザイナーは固定アドレスで1カ所に集約、それ以外の社員はフリーアドレスにして、働く場所を自由に選ぶスタイルに。オフィスはフロア全体が見渡せる空間が広がり、中でも特徴的なのは、四方をぐるりと囲む「コリドー」という共有のコミュニケーションスペースです。

発案した上垣内さんによると、「コリドーをぐるっと回ると、フロアにいる全員の顔を見ることができます。またオフィス内の移動の際には、デスクの間をジグザグと動くよりもいったんコリドーに出てしまってからのほうが効率的。さらに、固定アドレスの人は自分のデスクで作業をしてコリドーで他の人と打ち合わせをする。フリーアドレスの人はデスクそのものがフリーで、そこで打ち合わせをしながら仕事を行うこともできるので、コリドーでは個空間にこもって集中することができるスペースも設けました。多様なスペースの中に、さまざまな機能が入っていて、創造性と効率性を高められるよう自由に選択できるんです」。
 コリドーにはさまざまな名作家具も置かれています。実際に自分で使ったことのある家具であれば、プレゼンの際により臨場感のある説明が可能。個人では手が出ない価格帯の家具も置かれており、自由に試すことができます。上垣内さんは、「コリドーのエリアについては、働く空間が変わったことで自分達も変わったんだ、また変わらなくては、ということを視覚的に実感できる場所であってほしいと思いました。当社は、デザインをなりわいの一つとする会社。その“らしさ”をわかってもらうために、真面目で地味な空間にするよりは、ショールームのような、また博物館のような、いろいろな顔を見せるカラフルでバリエーションのある世界を求めて作りました」と言います。

以前のビルは内装がグレー一色だったそうですが、ここには色とりどりの家具が置かれ、全面ガラス張りでレインボーブリッジが見えたり品川駅前の雑踏が見えたり。何より、空に近いシチュエーションは、そこにいるだけで気分が高揚します。

「気づき」を生む、空間デザインの手法

オフィスにおける空間づくりは、社員のモチベーションを上げ、気づきやアイデアの想起、コミュニケーションの活性化など、さまざまな効果をもたらすものとして企業からの注目を浴びます。丹青社が展示デザインを担当した事例では、2016年3月にオープンした日東電工の「inovas(イノヴァス)」が象徴的。「inovas」は研究開発と人材育成を行うためのイノベーションセンター。研究達者が執務する研究所やオフィスとしての機能をベースに、ショールームなどで使われる「展示」の手法を取り入れた空間がつくられています。

展示デザインを担当した安藤さんは、「「inovas」はオフィスではあるけどただの働く場所ではありません。会社に蓄積された製品や技術の情報を自ら働く空間に散りばめて、日常的に目にしながら仕事をする。訪れたお客様も会社のことを知る。そういった「気づき」の視点を取り入れており、展示のノウハウがオフィス空間に生かされた事例です」と語ります。「研究者は実験室にこもりがちで、なかなか他者と顔を合わせないことも多かったそうです。人と雑談をすることで、アイデアが生まれる。フォーマルにもインフォーマルにも交流することで、仕事の幅が広がる。人と人をつなげるために、また形のないものを引き出すために、展示の手法をオフィスにミックスしていく必然性がありました」。

「たとえば、技術年表。100年に及ぶ技術や製品の系譜を示したものですが、Nittoの粘着テープを使っていて、自由に組み立て直すことができる“未完成”の年表です。固定的な歴史にとらわれず、自由な発想を引き出せるようにと考えました。また、館内のいたるところに歴史上のイノベーター達の名言を配置しています。食堂の近くには食にまつわる名言、休憩スペースには気分転換できる名言、といった具合に場所ごとに相応しい言葉を選定して配置しています。窓ガラスや天井などにも貼ってあって、見つけた人がちょっとしたサプライズを感じて、人に話したくなるように工夫しました」と安藤さん。

技術年表

名言や格言があちこちに

 

会話や交流のきっかけ作りを、展示という「見せる」スタイルで行う。オフィス空間の新たなあり方が提示されています。

働き方改善につながるオフィス作りとは

最近のオフィスの空間づくりで、よくある課題は「働き方改善」なのだそうです。ワークライフバランスを実現させる、コミュニケーション不足を解消する、そういった働き方全般に関わる課題を空間づくりでなんとかならないかと問われる場面が増えている、と上垣内さんは感じています。
 
「丹青社のお客さまに対しては、“働き方改善”といっても会社のポリシーや構想によって空間の作り方が変わってくるので、無理に型にはめ込まないように作っていくことが大切だと思います。当社については、コワークスペースでの仕事や在宅で作業なども始まっているので、そのような状況の中でオフィス空間が交流の場となるようにしていきたいですね」と、上垣内さん。

 

安藤さんは、「執務スペースや研究所などであっても、展示の手法や商業的なホスピタリティの感覚を取り入れて、目の前の仕事だけではない感性に触れるものをミックスするといった、いろいろな手法を取り入れることを試行錯誤しています。大切なのは、その際に押しつけがましいデザインにならないこと。執務環境と融和するような自然なビジュアルやデザインのあり方を、今後も模索していきます」とのこと。

空間づくりを通じて、事業のサポートをするという広い視野が必要となる、丹青社の仕事。お客さまの課題解決を行う視点を持ちながら、仕事を進めなくてはなりません。今回は自分たち自身がクライアントでもあり、自身の課題解決にも取り組むという貴重な経験となり、そして新しいオフィス空間に移って、意識の変化も実感したという。社員のみんなが「自分達が働く場所を、自分達でなんとかしよう」という姿勢が生まれたと、上垣内さんは感じています。

また、今年5月には関西支店も新たな地に移転しました。「西の“未来創造拠点“」というテーマで、本社と連動してクリエイティビティと業務効率の向上に取り組んでいます。「まだまだ、改善すべき点はある」と意欲は持続している。発展し続けるオフィスが作るこれからの未来が楽しみです。

<撮影協力>
丹青社オフィス:ナカサ&パートナーズ、PIPS
inovas:永禮賢・日下潤一

プロフィール

上垣内 泰輔

株式会社丹青社
プリンシパル クリエイティブディレクター

1965年広島県生まれ。1988年 丹青社入社。
飲食店からアパレルまで専門店の店づくりを数多く手がける。分析と考察をもとに、老舗の品格やブランドの神髄を抽出するデザインの技術を駆使。対話の積み重ねを大切に、事業をサポートしている。

プロフィール

安藤 健介

株式会社丹青社
デザイン統括部/デザイナー

1982年福岡県生まれ。2006年丹青社入社。
商業施設や展示施設等のデザイナーを経て、現在はオフィスデザインチームに所属。施設カテゴリにとらわれない横断的な視点で、新しい価値を生むデザインに取り組む。
 

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