COLUMN2018.1.17

【VISUAL INSIGHT vol.09】誰もが真似できる鬼才のiPhone映像テクニック

 

テクノロジーライターの大谷和利さんが注目した、世界の先進的なビジュアルユースのトピックを取り上げる連載「VISUAL INSIGHT」。第9弾でご紹介するのは、アップルが発注した短編映画。ただの短編映画でなく、実は身近なデバイスで撮影し、その機能が随所に使用されているのです。映像は、デジタルとアナログのよさを引き出すものとなっており、ついつい最後まで見てしまうストーリー性のあるプロモーションです。

 

アップルが発注! 鬼才が手がけた巧みな演出と映像美の真相

 

ミシェル・ゴンドリーといえば、日本にもファンが多いフランスの映像作家であり、ビョークやポール・マッカートニー、カニエ・ウェストなど幅広いジャンルのミュージックビデオや、ジム・キャリーとケイト・ウィンスレットの主演でアカデミー賞脚本賞を受賞した『エターナル・サンシャイン』などの映画作品で知られている。
 
彼の作品は、大胆な発想を巧みな演出と緻密な映像美でトリッキーにまとめているものが多く、中には、本当にどのように撮影されたのかわからないようなものまである。
 
そんなゴンドリーが、アップルのイギリス法人から依頼されて制作したのが、"Détour"(デトゥワー=まわり道)という短編映画である。本編とメイキングが、ここ(https://tinyurl.com/y8vskzuw)にまとめられているので、お時間のあるときにぜひご覧になっていただきたい。
 
さて、この作品は、何も知らずに見せられれば、プロの撮影機材を使って撮られたものとしか思えない出来だが、全編がiPhone 7 Plusを使って撮影されている。
 
実際には、これ以前にもiPhoneで撮影された映画やミュージックビデオは存在したが、"Détour"はアップルが発注しただけあって、iPhone 7 Plusの特徴的なカメラ機能を余すところなく使っている。しかし、それがあまりに自然で、プロモーション臭さがまったく感じられないところが、ゴンドリーの才能のなせるワザだ。
 
それでいて、この中で使われているテクニックは、ほとんどが簡単に真似のできるものなので、今回は読者の皆さんにも自分ならばどのように活用するかを考えていただきつつ、作品と撮影の舞台裏をのぞいてみたい。

まわり道が導く、ストーリー性のある作品

 

メイキングに登場するミシェル・ゴンドリー本人のセルフポートレートも、彼らしくひとひねり加えられている。
 
"Détour"のストーリーは、とある家族4人がバカンスで旅行に出かけるところから始まる。まだ小さな次女は、自分の三輪車も持っていくといって駄々をこね、父親は仕方なくゴムひもでくくって積み込むのだが、いかにも不安定で、観ているほうは嫌な予感がする……。

 

地図の上に文字が描かれていく"Détour"のタイトル画面。

 

楽しいバカンスへの積み込み作業は、車のリアゲートを支える夫と、あれこれと運んでくる妻の対比が、早回しでコミカルに描かれている。

 

次女は、何としても自分の三輪車を旅行に連れて行きたいのである。

 

根負けした父親は、仕方なく他の家族の自転車の上に、ありあわせ的にくくりつけてしまう。

 

愛車がバンプを乗り越えると……

 

家族全員と積み込んだ荷物が、大きく上に突き上げられる。

 

そして、案の定、赤い三輪車は路上に落ちて、置いてきぼりになってしまう。

 

次女が、途中のガソリンスタンドで給油中に車体の後部に回ると、大事な三輪車がないことに気づく。

 

そして、この表情である。余談だが、子役の演技もなかなか上手なのだ。

次女は悲しみ、三輪車をしっかり結びつけなかった父を責める。父は、もうお前は三輪車に乗るには大きすぎるとなだめるが、次女の機嫌は直らないまま、旅を続けることになる。
 
しかし、実は無人の三輪車も、風に吹かれたり、坂を下ったりしながら、移動を続けていたのである。

 

キャンプ地で、テントで寝た次女は、夢の中で三輪車と過ごした楽しい日々を思い出していた。

 

その間にも三輪車は、ハンドルに引っかかったポリ袋に風を受けて、家族からさほど遠くない場所まで走ってくるのだが……

 

あれあれ、いつの間にか三輪車が巨大になっている、というのもゴンドリーらしい夢か現実かわからないカット。

 

さらには、川に落ちてスローモーションで流れてゆき、漁師の網に引っかかって水揚げされてしまう。

 

漁師の車に載せられて、家族が食事をしているレストランの外までたどり着いた三輪車は、そっと様子をうかがうことにした。

 

すると父親は、次女に真新しい自転車をプレゼント。次女もすっかり三輪車のことを忘れて喜んでいる。

 

がっかりした三輪車の元に、漁師が孫を連れてやってきて、これはお前へのプレゼントだよという。

 

エンディングは、新しい相棒を得た男の子が、砂浜で祖父から聞いた海の話を三輪車にするシーン。彼が成長すれば、また別れのときが来るかもしれないが、しばらくの間、男の子と三輪車は一番仲のいい友達同士として過ごすことになる。

 

デジタルを最大化し、アナログらしさで魅了する

 

ゴンドリーは、ミュージックビデオなどではコンピュータ合成を多用するが、その場合でも、いかにもCGという使い方はせず、逆にCGかと思ったら完全にアナログな手法で撮影されていることもあるほど、映像手法に関して多くの引き出しを持っている。
 
"Détour"でも、タイトルは手描きでコマ撮りしたものを地図の上に合成したり、荷物の積み込みシーンをiPhoneのタイムラプス撮影機能で早回しにしたり、あるいは、自転車のクランクにiPhoneを固定して、グルグル回るシーンを撮影したりと、デジタルとアナログの撮影手法を自在に組み合わせて撮影が行われた。

 

タイトルの文字を手描き中のミシェル・ゴンドリー。

 

少し線を描いては、iPhoneのシャッターボタンを押して写真を撮る作業を繰り返し、後から静止画をまとめて動画にしている。

 

出発前に荷物を積み込むシーンは、古い映画のようなちょこまかとした動きを簡単に作り出せるタイムラプス機能を使って撮影された。

 

自転車のペダルの代わりにiPhoneを固定し、クランクを回して撮影するような、枠にとらわれない映像手法も採り入れられている。

 

キャンプ地でのシーンは、露出の調整がタッチスクリーンで簡単に行える利点を生かし、理想的な明るさのバランスを見つけ出して撮影された。

 

巨大化した三輪車は合成ではなく、実際に大きな三輪車を用意して撮影されたものだった。このあたりのこだわりは、ミシェル・ゴンドリーならではのものだ。

 

遠近法のトリックを利用して、小さな三輪車と大きな三輪車が自然に入れ替わって見えるアングルを探す。

 

川を流れていく三輪車のスローモーション撮影では、細いロープを使って流れるコースや動きがコントロールされていた。

 

このように"Détour"は、巨大な三輪車を除けば大がかりなところは一切なく、身近なiPhoneの機能を使って撮影されている。またiPhoneでなくとも、最近のAndroidのスマートフォンでも、似たような撮影は十分可能である。
 
ちょっとしたセンスがあれば、インハウスでWeb用にストーリー性のあるプロモーション動画などを作ることができ、プロに依頼する場合でも、絵コンテ代わりにラフなイメージ動画をこうした手法で用意すれば、コミュニケーションが取りやすくなる。
 
すでに手元にある最新鋭の撮影機材=スマートフォンを、もっと活用してみてはいかがだろうか。

 

プロフィール

大谷 和利|Kazutoshi Otani

テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー

デザイン、電子機器、自転車、写真分野などの執筆活動のほか、商品企画のコンサルティングを行う。著書に『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(アスキー新書)。『iPhoneカメラ200%活用術』(枻出版社)、『スティーブ・ジョブズとアップルのDNA』(マイナビ)『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社)、『ビジュアルシフト』(宣伝会議)、『ICTことば辞典』※共著(三省堂)など。

 

 

 
 

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