リモートで共創は生まれるか? 企業のDXを支援するNTTコミュニケーションズの挑戦

NTTコミュニケーションズが主宰する共創コミュニティ、C4BASE。大企業で新規事業やイノベーションを担当するビジネスパーソンが多く参加し、NTTコミュニケーションズが持つIT技術を使いながら新しいサービスやプロダクトが開発されています。以前は内容や演出にこだわったリアルイベントを定期的に開催し、会員と交流を深めていましたが、直接的なコミュニケーションが制限される今、どのようにしてコミュニティを形成しているのでしょう。C4BASEの運営を担当する柴田知昭さん、穐利理沙さんに伺いました。

オンラインでコミュニティを形成するリッチなコンテンツ制作

C4BASE
NTTコミュニケーションズが主宰する共創コミュニティ。個⼈の想いを起点に、夢を語り、旗を⽴て、仲間を集め、個⼈・企業・社会をつなぐ4thプレイス(新しい活動を行う場)として、社会的に意味のある・価値のあることへと繋げることを目的としている。

——まず、C4BASEではどのようなお取り組みをされているかお聞かせください。

柴田知昭さん(以下、柴田。敬称略):NTTグループというと通信サービスを連想する方も多いと思いますが、NTTコミュニケーションズ(以下、NTTコム)では、さまざまな企業で推し進められているデジタルトランスフォーメーション(DX)をサポートするため、データ利活用ビジネスに必要なすべての機能をワンストップで提供しています。

柴田:C4BASEでは、そうしたNTTコムの技術やサービスを提供しながら、会員のみなさんの新たなビジネス創造のアイデアを実現する取り組みを行っています。現在、会員は1600名ほど。今年度末までに3000名、将来的には1万名を目指しながら、年間約100件の共創案件を生み出すことを目標としています。

——会員の方々と交流を深めるために、定期的にリアルイベントを開催してきたと伺いました。

柴田:はい。C4BASEは“未来をつくる手触り感”を感じてもらうことを重要視しているので、DXに必要なテクノロジーや、その技術を使った実例を直接体感していただけるよう、物理的な空間でイベントを開催してきました。

これまでのイベントの様子。

——新型コロナウイルスの影響で、現在はリアルイベントを行うのは難しい状況かと思います。どのようにカバーしていますか?

柴田:実はコロナ禍に入る2ヶ月くらい前からデジタルに移行する話は始まっていました。リアルな空間でのイベントでは、NTTコムの営業メンバーがお客様の顔を見て直接お話できるのは1回あたり300人くらいが限界です。しかし、先ほども申し上げたように現在すでに会員は1600名ほどですし、ゆくゆくは1万名を目指すとなると、リアルイベントではいずれ限界がきます。コロナがなかったとしても、デジタルコミュニケーションの質を上げ、開催比率を高めていくことを考えていました。コロナによってデジタル移行が早まったという感覚です。

柴田さん。

――どのような形でデジタルに移行されているのでしょうか?

柴田:まず、イベントはウェビナーに移行しました。7月15日にC4BASEとして初めてウェビナーを開催し、「ニューノーマル時代のデジタル共創戦略」というテーマで、早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄さん、サブスクリプション総合研究所の宮崎琢磨さんに登壇していただき、講演とパネルディスカッションを行いました。参加者は1000名ほどで、初めてC4BASEのイベントに参加してくださる方も多くいらっしゃいました。

7月15日に開催されたウェビナーの様子。アマナの次世代型バーチャル・ライブ・ビジュアルソリューション「deepLIVE」を使い、C4BASEの世界観を演出した。

穐利理沙さん(以下、穐利。敬称略):もう1つの施策として、C4BASEのWebサイトにコンテンツを充実させていくことを考えています。これまで、Webサイトでの発信内容は、イベントの告知やイベントのレポートが中心でしたが、今後は対話性を重視し、よりC4BASEのコミュニティづくりに焦点を当てた内容にしていくつもりです。

――具体的にはどのようなコンテンツでしょう?

穐利: まず、今回ウェビナーに登壇していただいた入山さんや宮崎さんのような有識者の方に語っていただくインタビューコンテンツを考えています。有識者の方々のお話は勉強にもなりますし、会員の方たちのモチベーション向上にもつながると思います。

さらに、DXを基盤に新しいサービスやプロダクトを作ろうとしている会員のみなさんが「実際に自分たちには何ができるだろう?」と考えたときにヒントとなるよう、弊社の技術を使ったPoC(※)などもたくさん発表していきたいと思っています。冒頭で柴田からもあったように、C4BASEは“未来をつくる手触り感”を大事にしていますが、物理的な空間での“手触り”を感じられない今、そのPoCがどのようなイメージを元に、どのような過程で作られたかを見せていくことで、新しい事業創出の手助けになれたらいいなと思います。
※…Proof of Concept。新しい概念や理論、原理、アイディアの実証を目的とした、試作開発の前段階における検証やデモンストレーションのこと。

また、C4BASEは「共創」をテーマにしたコミュニティなので、オンラインであっても「一緒につくっていく感じ」というか、双方向性のあるコミュニケーションを生み出せるようにしたいとも考えています。

穐利さん。

――双方向性というと、たとえばコメント機能をつける、ということでしょうか?

穐利:そうですね、 構想は2つあって、1つはSNSのような機能をつけることで、会員同士やNTTコムとのやりとりの活性化を目指すこと。もう1つは、お客様の潜在的な需要を知るために、どの企業のどのような職種の方がどのコンテンツを見てくださっているのかを解析し、「DX Lander」と呼ばれる、お客様のDXをサポートするNTTコムのスペシャリストに情報を渡すことで、会員の方々一人ひとりに最適なアプローチしようと考えています。お客様の悩みを一緒に考え、場合によってはNTTコムからリソースやお金も出しながら、DXを取り入れた新しいサービスやプロダクトを一緒につくっていきたいんですよね。

オンラインでつくるC4BASEの“手触り感”とは?

——会員のみなさん一人ひとりに寄り添うために、アクセスの解析をしていくと。

柴田:C4BASEの会員の方々は大企業の中で新規事業を担当している方たちがメインなのですが、大企業の中で新しいことにチャレンジすると、共通してぶち当たる壁があると思うんです。C4BASEに入る目的が、共創のパートナーやアイデアを一緒に考えてくれる人、伴走してくれる人を探すことだと想定すると、一人ひとりが持つ悩みをC4BASEで共有し、共感しあいながら一緒にやっていけるような雰囲気づくりをすることが重要なのではないかなと。

一緒につくっていくことで、C4BASE独自の“手触り感”を感じてもらえるのではないかと思いますし、実際に共創して生まれた内容をコンテンツ化し、C4BASEのWebにアップすることで、それを見た他の会員の方にも「こんなふうに共創できるのか」と思ってもらい、次の取り組みにつながる。そんな流れができればいいなと考えています。みなさんがやりたいと思っていることを実現するためにC4BASEを使っていただきたいですね。

——C4BASEでは会社単位ということよりも先に、一人ひとりの悩みややりたいことに注目されているのですね。

柴田:C4BASEで一番大切にしているのが、「個人視点」をビジネスや社会につなげていくことです。会員のみなさんは大企業の中でも新しい事業を担当されている方ばかりで、個性がとても豊か。複数の副業をしながら視野を広げていらっしゃる方や、企業でもともと持っている技術を従来の事業とはまったく異なる分野にどう活かすかを考えていらっしゃる方などさまざまです。従来の枠組みに当てはまらない働き方や考えを持つ方が多いからこそ、一人ひとりの個性や考え方を反映させていきたいと考えています。

共創で生まれたプロトタイプの数々

――C4BASEで生まれた案件にはどのようなものがありますか?

柴田:たとえば、このコロナ禍に着目すると、ソーシャルディスタンスを考慮した顧客接点に関する案件相談が多くなっています。特にリアル空間での顧客接点を持っている企業にとっては大きな課題の一つです。

私たちC4BASE、中でもDX Landerのメンバーはそんな会員の皆さまの相談に対し、NTTコムが持つ3Dホログラム技術を使って非接触型タッチパネル「エアリアルUI」を活用した未来型の顧客体験を提案し、店舗の受付に導入するケースが出てきました。具体的には、空中に浮きあがった画面にタッチ操作することで、店頭商品の詳しい説明を見ることができるユーザーインターフェースです。「3Dホログラムというテクノロジーを使ってワクワクする世界観を提示する」、そんな案件を増やしていきたいです。

「エアリアルUI」は、画面に触れることなくパネルの操作を行うことができる。

柴田:別の案件では、自然言語処理や音声の認識・合成ができるAI「COTOHA® API」の利用シーンをふまえたプロトタイピング「AI SCANNER powered by COTOHA®」 をC4BASEの会員であり、パートナーであるアマナさんと一緒に作りました。

 

柴田:「COTOHA® API」は、通信事業で蓄積された音声認識やキーワード抽出の技術を盛り込んだAIなのですが、NTTの研究所が電話の時代から数十年間ずっと研究していたもので、数年前から商用化が始まり、言語翻訳や文章の要約、特定のキーワード抽出など、機能ベースのサービスはすでにいくつかラインナップされています。機能だけに注目すると、Google翻訳をはじめとする他社の類似サービスとの差別化を求められてしまうため、C4BASEでは「意味」をつくりたいと思いました。

——どのような意味づけを行ったのでしょうか?

柴田:書店など店舗での利用を想定し、書籍の内容をカメラで読み取りテキスト化、そこから要約したものを手のひらサイズの紙に印刷できるプロトタイプをつくりました。さらに、音声合成の機能を使って、要約した内容をさまざまな話者の音声で聞くこともできます。店舗利用の他、社内コミュニケーションの活性化や業務効率化などにも使うことができるよう、今後も進化させていく予定です。

こうした案件は、現在進行中のもので50~60件ほどありますが、C4BASEで生まれるものは、単に技術を紹介するのではなく、使用シーンを想像できるよう、ストーリーを反映させたい。それがC4BASEらしさにつながるといいなと思っています。

ポジティブにDXを進めていくために

――C4BASEは貴社の中でも新しいお取り組みだと思いますが、社内へのブランディングはどのように考えていらっしゃいますか?

柴田:C4BASEはもともと全社的な取り組みではなく、営業部の中の閉じた取り組みで、こじんまりとしたものでした。しかし、NTTコム全体が企業のDXパートナー=「DX Enabler(イネーブラー)」としての認知を拡大していくという方針になったことで、C4BASEの活動も徐々に広げていくことになりました

当初は社内の理解が得られないときもありましたが、社内向けイントラネットで活動内容を公開したり、お客様向けのセミナーを社内のイベントホールで開催して社員にも見てもらったり、商材をつくっている部署に対して会社全体のマーケティング活動の一貫だということをPRしたりしていくことで、少しずつ認知度が上がっていったと思います。

――社内認知度が上がったと感じるタイミングはありましたか?

柴田:新しいサービスが開発・検討されていると、開発担当部署から「C4BASEで宣伝できないか」、「利用シーンをお客様と一緒に考えられないか」と相談を持ちかけられることが少しずつ増え、認知度が上がったことを感じました。

穐利:NTTコムでは、これまでマーケティングに対する意識が醸成されていなかったため、「なぜ我々が稼いだお金をそんなことに使ってしまうのか」と思う営業担当者もまだまだいると思いますし、私も以前は営業を担当していたので、その気持ちもわかります。だからこそ、いろんな部署と丁寧に調整を重ねていますし、そのおかげもあってようやく社内認知度が上がってきましたね。

――コロナ自体はよくないことですが、DXが急務になったことで社内外問わず意識が変わった方もいるのではないでしょうか。

柴田:そうですね。ですが、DXに対する認識は人それぞれで、デジタルの活用による効率化や、コロナで会えないからデジタルでやろうということだと認識している方もいると思います。でも、DXは単なる効率化ではなく、デジタルを使ってビジネスをトランスフォーメーションし、新しい事業やサービスを作っていくことであり、新しい社会を考えていくということなんですよね。

穐利:新しいもの、新しい生き方を生み出すには、会員のみなさんに対しても、社内に対しても、楽しい雰囲気である必要があると思っています。シビアなビジネスの世界では、ギスギスした現場にいる方も多いと思うのですが、DX分野では自分のやりたいことに忠実であるかどうかが大事で、楽しんでやっている雰囲気でないと新しいアイデアや発想は生まれにくいのではないでしょうか。営業担当も含め、そのことを意識して会員のみなさんに接し、それが社内にも伝播していくことで、C4BASEとしても、NTTコムとしてもポジティブにDXを進められたらいいなと思っています。

C4BASEらしい、未来をつくるワクワク感

加速するDXを背景に、C4BASEを通して企業のDXパートナーとしての存在感を徐々に大きくするNTTコミュニケーションズ。会員とともに悩み、考え、つくるため、時には忖度ない意見を交わし合うこともあるといいます。

共創には技術や機能面で足りない部分を補完しあうことも必要ですが、悩みや課題、思い描く未来のイメージを共有することも欠かせません。大企業にとって新しいことを実現するには、風当たりの強いときもありますが、お二人は「アイデアを思いついた瞬間のワクワク感と、それが一歩ずつ形になっていく瞬間が楽しい」と語ります。このポジティブにチャレンジし続ける姿勢を共有できることが、C4BASEの魅力の一つとなっているのではないでしょうか。

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撮影[top]:秦 和真(amana)
撮影[interview]:川面健吾
AD[top]:片柳 満(amana DESIGN)
文・編集:徳山 夏生(amana)

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