脳を持つアバターとは? SXSWに見た未来の技術達

SXSWのメイン会場となるオースティン・コンベンションセンター

アメリカ・テキサス州オースティンで毎年3月に開催される、音楽・映画・インタラクティブの祭典「SXSW」(サウス・バイ・サウスウエスト)。1998年から新たに加わったインタラクティブ部門は、Twitterや配車アプリUberなどのIT企業の成功を生み出し、SXSWが日本でも広く知られるきっかけになりました。

日本ではIT系スタートアップの登竜門として注目されているSXSWですが、実際に訪れてみると、非常に幅広い分野の企業と人が集まるイベントだということがよくわかります。

ITやソーシャルサービス以外にも医療、食、生物、農業、宇宙科学など多方面からイノベーターや研究者が参加し、これまでの活動の成果を発表する研究者や、ダウンタウンのバーを貸し切って体験型コンテンツを展示する企業など、来場者とのつながり方もさまざまです。

ここでは2017年3月10日~3月16日に開催された「SXSW 2017インタラクティブ」の中から、私がとりわけユニークで先進的だと感じた3つのプログラムを紹介します。

 

SFの世界を現実にしたCEO

最初にご紹介するのはDRL(Drone Racing League)の取り組み。最近注目されているドローンレースをリーグ化して、コンスタントに収益をあげている企業です。

CEOのニコラス・ホルバチェフスキ氏の抱く信念は、“未来のスポーツは今よりエキサイティングであるべき”ということ。

「最新のドローンを使っていても、おじさんが河原で遊んでいるだけでは誰も面白いと思わず、誰もお金を払いません。多くの人はドローンレースに『スター・ウォーズ』や『トロン』のような未来の世界を期待しているのです。新しい技術だけでなく、SFの世界観を取り込むことが、みなさんを熱狂させる秘訣です」と語ります。

長期に及ぶリーグ戦では、こうして引き入れた観客達のコミュニティを維持し、発展させるための工夫が欠かせません。DRLではレースのストリーミング配信のほか、プロモーションビデオの企画・制作、ゲームの開発まで行っています。さまざまなメディアでプロモーションを展開することで、ドローンレースを人気競技へと発展させてきました。

また、ラボを開設してレース用ドローンを独自に開発。さらにドローンからリアルタイムで映像を取得するストリーミング技術や、よりエキサイティングな画が撮れるカメラ構成について研究し、パイロットの育成システムまで自社で開発しています。ラボでの様々な取り組みは、より質の高い独自コンテンツを生み出すことに貢献しています。

今後のビジョンとして、ロボットバトルにも力を入れていくとのこと。ネットニュースでも話題になった日米巨大ロボット対決「クラタス vs MegaBots」のような試みをスポーツとして実現するために、すでにロボットの試作に着手しているそうです。

ロボットが迫力あるバトルを繰り広げるためにはまだまだ時間はかかりそうですが、思えばドローンレースだって10年前には成立させることが難しかったと思います。信念を実現するために必要なものを次々と取り込んでいくDRLのような企業が、これからのスポーツを創っていくのかもしれません。

博士を魅了する、「脳」を持ったバーチャル・チャイルド

続いてご紹介するのは、『アバター』や『スパイダーマン』のVFXでアカデミー科学工学賞を受賞し、スタートアップ企業Soul MachinesのCEOも務めているマーク・サーガル博士による「Baby X」というプロジェクトです。

出典:BabyX v3.0 Interactive Simulation Official

 「Baby X」はひと言でいうと、人間のように学び反応する自律型アバター。対人・対面のコミュニケーションに特化して開発され、カメラとマイクを介して人の表情や声を認識します。

「つまりAIでしょ?」という方もいらっしゃるかもしれませんが、これまでのAIと大きく違うのは、バイオベースの 「脳」を持っているという点。「Baby X」にかわいらしい羊の絵を見せると、笑顔で「羊」と答えます。これはあらかじめ決められたプログラムを再生しているわけではなく、生物化学にもとづいてモデル化された脳が処理・反応しているんです。

Soul Machinesは人間の脳の仕組みを分析し、シミュレーションを元に豊かな表情モデルを作り上げました。上の動画でも紹介されているように、アバター内部には脳のモデルデータが可視化されていて、コミュニケーションの際に活性化している箇所までわかります。

この技術はAR や VRのゲームコンテンツへの導入を見込んでいるそうです。あらかじめ決められた分岐ストーリーをなぞるだけでなく、プレイヤーの表情や声を元に、アバターが臨機応変にリアクションを返す、近いうちにそんなコンテンツが実現されるでしょう。

天才ハッカーが思い描く自動運転の未来

最後にご紹介するのは、ジョージ・ホッツ氏による「The Real Future of Self-Driving Cars」。ホッツ氏は17歳のときに世界で初めてiPhoneをジェイルブレイク(※)し、22歳でPlayStation®3をハッキング。これまで世界的企業を相手にさまざまなトラブルを起こしてきた天才ハッカーです。
※ジェイルブレイク:未認可アプリの起動など、開発者が意図しない方法でソフトウェアを動作させること。

現在はcomma.aiという会社を立ち上げ、既存の自動車に自動運転機能を後付けするキットを開発しています。ホッツ氏は「このキットを使えば15万ドルもする新車を買わなくても、カメラとソフトウェアさえあれば今の車を自動運転車に置きかえることができる」と語ります。

仕組みとしては、まず「Chffr」(シェファー)というモバイルアプリで車載カメラの映像をcomma.aiに送信。集められた膨大なデータを元に学習を重ね、自動運転の精度を高めていきます。ドライバーにはデータ提供と引き換えにポイントを付与し、貯まったポイントはたとえば、自動車の自己診断機能の付いた電子パーツに交換することが可能。

また、自動運転中も、ドライバーが自動運転を解除したとき(=自動運転に何らかのミスがあったとき)のデータを蓄積し学習を重ねることで、さらなる精度向上を見込んでいます。これらのシステムはすべてのドライバーに無償で提供され、マネタイズには自動運転中の広告収入を想定しています。

2016年末にフリーソフトウェアとして公開したことで注目を集め、2017年の4月下旬にはTeslaに次ぐ自動車ネットワークに成長する見込みとのことです。

今はまだ特定の自動車で基礎となるシステムを開発している段階ですが、頭のなかに描く自動車の未来は明快です。

▼ ジョージ・ホッツ氏

「これからどんどん車を所有する人は少なくなり、シェアするようになる。さらにドライバーの役割をソフトウェアが代替するようになると、車は個性を失い、単なるハードウェアとして扱われるようになる」

確かに自動運転が導入されることで、自動車と人との関係はより一層希薄になります。これから自動車は「運転手のいないタクシー」のような存在になっていくのかもしれません。


今回の「SXSWインタラクティブ2017」では、人間の脳のようにいまだ科学で解明しきれていない複雑なものや、自動運転のように予測の難しいものをデジタルに取り込み、新たな価値を生み出そうとする取り組みが印象的でした。

自分の手の内にない物事をどうやって意図する方向へ導いていくのか、どうやって成長を促すのか、まだまだ知識として十分に体系化されたものではありません。そんな手探りの状態でも、彼らは優れた洞察力を元に、私たちを納得させる結果を導き出しました。今はまだ骨組みが出来あがったところですが、これから多くの人達を巻き込み、より強靭なシステムに成長しようとしています。

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<イベント概要>
South by Southwest® (SXSW®)
期間:2017年3月10日〜 2017年3月19日
会場:アメリカ・テキサス州オースティン
※このイベントは終了しています

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