アートディレクター戸田宏一郎さんに聞く、企業の課題を視覚化する、新しいプラットフォーム作り

2017年1月、電通を退職しCC INC.を立ち上げた、戸田宏一郎さん。社名のCCとはCreative & Consultingの略で、企業やブランドにおけるさまざまな課題を発見し、クリエイティブとデザインの力で解決することを目指しています。

戸田さんが始動させたのは、仕事の初期段階では視覚化しづらいモノやコトを可視化することで抱えている課題をあぶり出し、価値やビジョンを生み出していく新しいクリエイティブプラットフォーム。広告を作るだけではなく、もっと前の段階から企業と伴走していく姿勢を打ち出しています。

スタートして7カ月が過ぎた今、戸田さんが目指している方向性や現在の状況はどのようになっているのでしょうか。ビジュアルがどんなサポートになったのかも含めて、お話を伺いました。

広告表現の前の段階から関わりたい

ビジュアルシフト編集部(以下、編集部):今年の1月にCC社を立ち上げられたとのことですが、独立したのはなぜですか?

戸田宏一郎さん(以下、戸田。敬称略):それまで在籍していた広告代理店のクリエイティブ部署では基本的に広告のアウトプットに関わり、その部分でフィーを得るというビジネスモデルが主体でした。次第に自分がやりたいスタイルとの間で相違が生まれ始めてきたというのが一番の理由です。

その中で私達がアイデアを生み出し表現に定着させるプロセスにおいても、広告のかなり前の段階から関わるプロジェクトも多様化して行きました。同時に評価や対価が直接、クライアントからはあまり理解されていないのではないかと感じることが増えました。パートナーとして中期的に取り組みのあるクライアントは年間のバジェットの中で、案件ごとにではなくさまざまなオーダーをいただきます。その場合のクリエイティブの主なモチベーションは、よくも悪くもアウトプットである広告表現に対してになります。そのような理由から、出口である広告表現だけでなくスタートアップなどの事業設計などの段階から関われないものかと、思う気持ちが強くなっていきました。

戸田 宏一郎|koichiro toda CC INC. 代表 Art director/Creative director コミュニケーションのアウトプットをイメージしたブランド開発からTVCM、ポスターの広告全般、ロゴマークなどシンプル&ボールドなデザインを得意とする。朝日広告賞、OneShow Design、D&ADなど国内外で受賞多数。(株)電通を経て、2017年1月クリエーティブコンサルティング会社CC INC.設立。

戸田:同様に広告代理店のADという立場で企業に向き合うことで、自ずとスタート地点は広告制作の話からになってしまいます。新しい価値作りみたいなところから一緒にやっていきたいと考えている自分にとっては違和感を感じ始めていったのも事実です。大きな組織の中では迅速に対応できないことも多くなってきたので、時期もいいと思って独立を決めました。

編集部:時期がいいというのは、どういうことなんでしょうか。

戸田:従来のCMやポスター、新聞中心の広告表現から出力先のメディアも多様化し、生活者とのコミュニケーションの設計なども変革期、過渡期にきている今、これから広告ってどうなるの?広告の未来は、広告ではないんじゃないか?と、業界全体が意識し始める中、広告表現やメディアだけのコミッションで自分たちの価値を稼ぎ出すという方法論ではなく、「問題解決」だけではない、社会に対して「問題提起」ができるポジションにシフトした方がおもしろいのではないかと考え始めました。

もちろん電通でもコンサルティングの領域は今後必要不可欠でありデジタルとの組み合わせで、戦略的に企業とタッグを組んでやるという仕事の方法論も模索している真っ只中でしたし、そこに広告の活路があるんじゃないかなと意識し始めている人間もたくさんいました。

編集部:起業のパートナーである齊藤太郎さんはどのような方ですか。

戸田:彼は物事や人をプロデュースする能力が非常に高く、事業計画などの一般的なビジネス領域とコミュニケーションの設計が主なフィールドです。僕はクリエイティブやデザインの力を使って問題を解決していくことが基本のスタイルでありお互いに別々の領域からのコンサルティングを行う、違う能力を持った人間が2人いるという構成です。そのほうが物事を俯瞰で捉えられるし新しいことにチャレンジしやすい。広告制作だけをやるつもりで独立したわけないので。

編集部:広告制作だけではないというのは、先ほどの「前の段階」からの関わりということでしょうか。

企業が抱える問題点を見えるようにするには

編集部:すでにCC社としての業務がスタートしていますが、企業の方は「前の段階」からの伴走を理解されているのでしょうか。ズレが生じたりはしませんか?

戸田:もちろんわかった上でお付き合いいただいております。我々には議論を可視化してビジョンとして表すやり方で「前回お話したことって、こういうことなんだと思います」とビジュアルにして行くと、「そうそう!」とすぐに納得してもらえます。

元々、プレゼンテーションについては日々行ってきたことで、「こういうCMを作りたい」「キャンペーンで人の気持ちをこう動かしたい」という企画をわかってもらうための見せ方のテクニックは、すでに持ち合わせています。最適化したものを見せていくことは、さほど難しい作業ではありません。企業の方にとっては、自分が思っていることをリアルな絵や言葉に置き換えて形にしてもらうことがどれだけ理解を助けるかわかってもらえるし、とても喜んでいただけます。

その際に必要なのは、アウトプットの技術。自分はアウトプットを作る前の段階のことを「こういうものを作ったらいいんじゃないか」と考える仕事をしているので、じゃあその表現をする仕方は写真なのか映像なのか、造形物が必要なのかを選択していきます。その部分に関してはアライアンスを組んでいるプロフェッショナルチームと一緒にやっていきたいですね。

編集部:企業の課題を視覚化する際に、ポイントとなることは何でしょうか。

戸田:メーカーであれば、その商品が世の中に何を生み出そうとしているのか、商品と世の中の接着の仕方というか、ビジョンを共有する作業がまず先です。すべての経営者は社会に対して、強い思いや意義をすでに持っています。どういう人に買ってほしいかと話す前にその大きい目標や大義を聞いておきたい。問題解決の前に、その問題を提案する側の人間に自分達がなるべきだと思うんです。

たとえばビールを作っている会社とは、今後もしかしたらビールは(今までの)ビールではなくなるんじゃないか、ということまで極端ではありますが想定しながら進めようと思っています。お酒を取り巻く文化がすでに変わってきています。若い世代はお酒を飲むスタイルが変化し、これまで飲んでいた大人達も健康のことを考えて控えるムードが訪れるかもしれない。今までと同じイメージで作って売っていたら右肩上がりのイメージはありません。その状況に基づいたビールの開発の方法論がきっとあるはずで、そこを外部の人間である自分達がメーカーの方々と意見交換をし一緒にアイデアを探すことで、何か糸口が見つかるのではないかと思うし、見つかるとおもしろいなと感じています。

SUNTORY / 金麦 / 交通広告

本田技研工業 / 企業 / 屋外広告

鼓童 / EARTH CELEBRATION / Symbol mark
TONE / TONE MOBILE / C.I.

 

新たなプラットフォームを作るために

編集部:企業側にも、今のままではいけないと危機感を持っている人はいると思います。ですが、上層部がこうしたいと言ったら、企業の中にいる以上はそれに従わなくてはいけない面もあります。戸田さんのように、案件の川上から関わってくれて、いいことも悪いことも指摘してくれる外部の存在というのは、重要になってくるのではないでしょうか。

戸田:メーカーの商品開発の場合、機能とパッケージなどの商品だけじゃなくてマーケットの創出まで考えないといけません。そうすると、具体的なアウトプットを作るわけではないので何の作業をしているのかわからない状態が続くから、社内だけで話し合っているとどうしても煮詰まってしまう。そういうときに、外部から自分達のような人間が参加して、全く違う方向から話をしてみると、「もうちょっと話を聞かせてほしい」となる。本当に新しくしたい、チャレンジしたいと思っている企業ほど、そのような反応がありますね。

これらの取り組みを、CC社としてはシステム化して取り組んでいけるようにしたいです。

今新しく進んでいるCC社の案件の特徴は代理店時代とは異なるメディアがひもづいていない内容の、アイデアを用いた開発系の仕事が多いです。たとえばロボット事業の案件などは、従来のロボット文脈とは違う新しいロボットの価値を世の中に提案するコミュニケーション設計のお手伝いや、スポーツ分野の新しい取り組みとして選手の自分達の活動以外のソーシャルな分野の取り組みを応援していく仕組み作りなど、今までになかった新しいプラットフォームを作り出す作業などです。

編集部:アウトプットの仕事はしていかないんでしょうか?

戸田:そんなことはありません。実際に、広告コミュニケーション制作なども多数行っていますし、アウトプットも含めてのコンサルティングですから。

アウトプット……形を作る手段や人というのを、アライアンスを組みながら増やしていきたいと思っていて、頭で描いたものをすぐに形にできるといいなと。

今後は、デザインの可能性に少なからず興味を持っている人と我々と一緒に学べる、そういうスクールのような環境にもチャレンジしたいと思っています。オリンピックに関係する亀倉雄策さんの本を読んだときに、ご自身が企業のトップと直接会って仕事を決め進めていくなど、当時のアートディレクターやデザイナーの意識と比べ、今はずいぶん細分化されているなあと感じています。本来デザインは世の中に対してもっと影響力を持ち寄与できるものだし、このCC社がコンサルティング領域に足を踏み入れてもクリエイティブやデザインの力をベースにするという点はブレないように意識しています。

編集部:さまざまな方との協業になりそうですね。

戸田:違う能力を持ったクリエイター達と自由にアライアンスを組みながら今までにない視点から案件を進める、そういうプラットフォームになりたいなと考えています。

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