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  • ハナムラチカヒロさんが考える、コロナ後の“視点のデザイン”とは
2020.07.06

ハナムラチカヒロさんが考える、コロナ後の“視点のデザイン”とは

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コロナ禍を経て、人々の価値観が劇的に変容し、企業にもこれまで以上に視点の転換が求められています。ランドスケープデザイナーとして活躍しながら、 “視点=人のまなざし”をデザインすることで風景を変える“風景異化”を提唱するハナムラチカヒロさん。彼の目に今がどう映っているのか、お話を伺いました。

まなざしが異化されるタイミング

ハナムラチカヒロ|1976年生まれ。博士(緑地環境科学)。大阪府立大学大学院経済学研究科准教授。ランドスケープデザインとコミュニケーションデザインをベースにした理論をもとに、空間アートの制作、映像や舞台でのパフォーマンス、企業ブランディングなど領域横断的に活動する。代表的な作品に、大規模病院の入院患者に向けた霧とシャボン玉のインスタレーション「霧はれて光きたる春」、山の中に造花を紛れ込ませて本物の自然と造作物の認識の境界を問うた「ニテヒナル/the fourth nature」など。

―― ハナムラさんは環境をデザインするだけでなく、環境を受け入れる人間側の意識や見方をデザインすることで風景を変えていく“風景異化”の試みを続けられてきました。コロナ禍におけるさまざまな価値体系の変化は、ハナムラさんの目にどう映っていますか?

ハナムラチカヒロさん(以下、ハナムラ。敬称略):これまでの社会が共有してきた価値体系の根底にある偏りや歪みが徐々に積み上げられて、今にも崩れそうな矢先、コロナの問題をきっかけにそれらが表面化したということだと捉えています。

何か大きな変化があるときというのは、人のまなざし、つまりモノの見方や考え方が変わりやすいんですよね。僕自身は、もう元の世界は戻っては来ないと思っています。

価値体系もごろっと反転するんじゃないでしょうか。今まで強いと思われていたものが実は脆弱だったり、有利だと思われていたことが不利だったり、豊かだと思われていたことが貧しかったり。正反対になるのではないかと。だからこそ、これまでの在り方を見つめ直して、まなざしを切り替えねばならないタイミングに来ているんだと思います。

―― 今回のパンデミックがこれほど大きな変化につながったのは、やはり情報技術が熟してきたことの影響が大きいのでしょうか?

ハナムラ:世界中にSNSやインターネットが普及し、情報が一気に伝播する状態になっていることは大きいと思います。僕らが実際に直接見聞きしているものはほとんどなくて、世界の多くの物事はメディアを通して把握するしかない。SNSやネットの普及により、あらゆる人のまなざしがいろいろな角度から表出するようになり、メディアから流れてくる情報は果たして正しいのか、疑問を持つ機会も多くなっていると思います。何が事実で何が嘘なのか。判断が難しくなり、僕らは何を信じていいのかわからない状況に陥った。そういう意味で、今回の混乱は起こるべくして起こっていると思います。

自らの在り方やモノの見方を問い直す

―― あらゆる視点から物事を見てみるということが今まで以上に重要になりそうですね。

ハナムラ:2017年に、『まなざしのデザイン:〈世界の見方〉を変える方法 (ハナムラチカヒロ著 / NTT出版)』という本を出しました。

まなざしのデザインという意味は二つあって、一つは「他人のまなざしをデザインする」こと。マジシャンが我々の目をどのように操作するのかといった話から、商品やサービスを魅力的に見せるマーケティングや広告のテクニックまで、幅広い意味で使っています。裏を返せば、我々のまなざしはそうやって常に誰かの意図のもとデザインされていることに自覚的になったほうがいい、という警告でもあります。

もう一つが、「自分のまなざしをデザインする」こと。ほとんどの人が、自分はニュートラルに、客観的に、冷静に物事を見ていると思っています。しかし、私たちのモノの見方は知らず知らずのうちに固定化され、見たいものを見たいようにしか見られなくなってしまう。だからこそ、自分が信じていることを疑ってみたり、これまでの常識を見つめ直していく必要があります。

今回のように半ば強制的にウイルスの危険性にまなざしが合わせられ、その結果として価値観が大きく変わろうとするタイミングで、自分がこれまで見つめていたものに気づき、物事の別の側面を見ようと自らのまなざしをデザインし続けることができる人は、きっとこれから自由になっていくでしょう。

ハナムラさんが2010年に手掛けた空間インスタレーション「霧はれて光きたる春」。大阪市立大学医学部付属病院の入院病棟中央にある高さ50mを越す吹き抜け空間で、底から霧を立ち上げ、空からシャボン玉を降らせることで、空間の様相を一変させた。常識の範囲を超えた環境を一時的に立ち上がらせることで、まなざしが異化される瞬間をつくった。

入院患者、看護師、医師、お見舞いに来ている家族、事務職員に至るまで、全員が同じように空を見上げる。日常的な院内での役割や立場、年齢や性別の違いを超えて、互いにまなざしを交わし合うコミュニケーションを目指した。

同作品はその後、2012年に大阪赤十字病院、2014年に大阪府立急性期総合医療センターでも実施され、2012年日本空間デザイン大賞・日本経済新聞社賞を受賞している。

自分のまなざしを掘り下げた先に見えてくるもの

―― 企業活動においても、事業の本来的な目的は何なのか、さまざまな視点から改めて見直してみる必要がありそうです。

ハナムラ:なぜ企業活動が必要で、なぜ人は働くのか。それは本当に必要なことなのか。根底から仕事やビジネスを見直すタイミングにあると考えています。

これは僕の予想ですが、これまでのように一番安い国でつくって一番高い国で売るというグローバル経済のモデルは、今後成立しなくなる可能性が高い。そうすると、メディアのあり方やコミュニケーションのスタイルも、マスからコミュニティへ移り、パーソナルをターゲットにする形へと徐々にローカライズされていくでしょう。

そうなった場合、全員が同じように見ている世界はもう存在しなくなるかもしれない。情報がどんどんカスタマイズされていくと、広報やマーケティングの役割も当然変わってきますよね。広くあまねく周知するということから、顔の見える相手に本当に必要かつ大事なことをシェアしていくという方向になるかもしれない。

―― 共通認識を持つということも、ますます困難になってきます。

ハナムラ:自分が見ている世界と、相手がみている世界が同じであるという前提で、これまでのビジネスやマーケティングは組み立てられて来たと思うんです。でも、果たして僕が見ている「赤」とあなたが見ている「赤」は本当に同じ「赤」なのか。そもそも我々が共有する世界は「主観」の集合にすぎないとすると、「客観」的な指標をもとにした共通認識も難しくなってきますよね。好きなものだけを検索して欲しいものだけを見つめる情報社会では、自分だけを包む“フィルターバブル”に閉ざされて、ますます好みが細分化していくでしょう。レコメンド機能はその表れです。

―― そうして分断が進んでいくと、ニーズや人々の思いをくみ取ることも結構難しくなりますよね。

ハナムラ:だからこそ、外から借りてきた「客観」のまなざしではなく、個々人が自分のまなざしを掘り下げていった奥にある「普遍」的なまなざしが大事になってくると思うんです。

「これをやられると自分は気分が悪い」とか「こういう状態のときに自分は心地よく感じる」といった自分のまなざしをベースに考える。そうやって自分の中を見つめていくことで成立していくマーケティングというものが、これからは大切になるのかもしれません。「私は買わないけれど、人は喜んで買うだろう」といった、欲をたきつけるような商品やサービスは成立しづらくなっていくんじゃないでしょうか。

僕はもともと、生き物、いわば生命を扱うランドスケープデザインをやっていたので、自然のリズムや宇宙の法則をデザインの根拠に置いています。自分という生命を基準に物事を考えるところから始めてみると、見えてくるものがあります。

誰だって怒りたくないし、誰かに優しくされたい。人間に限らずどんな生命だって、死にたくないし、安らかにいたい。そういった生命が持っている「普遍性」が、これから物事を考える拠り所になっていくんじゃないかと思います。

クリエイションの原点は、今を観察することにある

―― そういう意味でも、想像力はますます重要になってきそうです。昨年発表された、異文化コミュニケーションについての課題を問うた映像作品「Seeing Differently」にもそれを感じました。

ハナムラ:あの映像では、オーバーツーリズムの中で、外国人に対して私たちが向けている不寛容なまなざしを問いかけました。私たちが見ている外国人の振る舞いと、外国人の実際の内面の両方を逆方向から描くことで、想像力を広げることができないかと考えたんです。

想像力が大事である一方で、観察力も大事です。あらかじめ自分の答えを持たずに、今目の前にあることをちゃんと観察すること。実はクリエイションの原点はこの「観察」の方にあると僕は思っています。観察力を普段の生活の中で培っておくと、何かをクリエイトしないといけないときに発見する力が働く。もっともクリエイティブな瞬間というのは、何か真理を発見した時。ぱっとつかんだ瞬間ですよね。

ハナムラ:自分が作品をつくるときや文章を書くときにも思うのですが、不思議なことに「こうしてやろう」と思って取り組むと、うまくいかないんですよ。自分がやりたいことを捨てたときに、伝わるものが生まれるんです。雑念や思考を一度追い払って、自分がいい媒体になれた瞬間にクリエイションが働く。状況の中で必然的に導かれる時、つまり状況が求めるものに自分が寄りそう感覚になる瞬間にクリエイティブなものは生まれるんじゃないでしょうか。

こんな時代に生きているからこそ

―― 今を丁寧に観察し、自身の状態に自覚的でいることはこれから重要になってくる気がします。

ハナムラ:そうですね。コロナ感染拡大前の今年2月に、哲学者であり宗教学者である鎌田東二さんとの対談本『ヒューマンスケールを超えて(鎌田東二・ハナムラチカヒロ著 / ぷねうま舎)』を出しました。この本では、今の文明の危うさと我々の心の不安定さを語っていて、ある意味で今回のパンデミックを予想していたかのような内容になっています。ここでも、「自分の見直し」「見つめ直し」「悔い改め」が中心的なテーマです。

知識や情報は思考の単なる入り口にすぎないのですが、思考のための材料にはなります。それを言葉として提供しながら、常識とされることを相対化することは、多くの方々のまなざしを自由にするかもしれません。こんな時代に生きているからこそ、私たちは大きなシステムに頼らず、誰かが言っていることを鵜呑みにせず、自分の感覚を丁寧に見つめていくことが大切なのだと思います。自分で腑に落ちたことしか伝えられないし、伝わらない。

きっと、これから大変になる一方で面白い時代になっていくと思いますよ。これまでのような豊かさはないかもしれないですけど、違う豊かさはやってきますから。

まなざしをデザインし続けるということ

コロナ禍を経て、多くの“あたりまえ”が変化しつつあります。人は存在や事象を認識を通してしか理解できない。だからこそ、自分が見ている世界と、相手が見ている世界が同じであるとは限らないという前提に立ち、想像の共同体の中で生きているということに改めて自覚的になる必要があるのかもしれません。

直接顔を合わせる機会が限られ、オンラインでのコミュニケーションが増えている今、改めて相手の立場に立って物事を考えることに意識的でありたいものです。自分のまなざしをどうデザインし続けられるかは、これからの時代を豊かに生きていくうえで重要なカギとなりそうです。

【関連特集】コロナ禍で変わりゆく企業のコミュニケーション

企画・文:高橋 沙織(amana)
撮影[top / interview]:秦 和真(amana)
AD:片柳 満(amana DESIGN)
編集:徳山 夏生(amana)

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