清水寺のInstagramが世界中から注目される理由

167,000フォロワーを有する清水寺のInstagram。取り組みの理由や込められた想いについて、写真を使ってコンセプトやメッセージを伝えるコミュニケーション=フォトニケーション(PhotographyとCommunicationを融合した造語)の考えをもとに、お話を伺いました。

目に見えない想いを伝える写真の役割とは

菊池英雄(アマナ/以下、菊池) : アマナはビジュアルコミュニケーションを得意としたコンテンツ制作の会社ですが、私は2004年ごろからフォトニケーションという、人の心を捉えて動かす視覚戦略として、社内外に推進してきました。

清水寺は知名度があるにもかかわらずインスタグラムを積極的に活用し、非常にキレイな写真を投稿して魅力を広め、フォロワーというたくさんのファンを作り、素晴らしい活動だなと思っています。どんなきっかけでインスタグラムを始めたのですか?

大西英玄さん(清水寺/以下、大西。敬称略) : きっかけは清水寺のホームページをリニューアルした後、アクセス解析をしたことです。ホームページには、私たちが参拝に来られる方々に読んでいただきたい思う祈りや仏の話、清水寺にまつわる豆知識などを載せていますが、アクセス解析をすると、圧倒的に拝観時間や交通アクセスに閲覧が集中しているのです。これは仕方のないことだと思いながらも、何か打開策がないか、ホームページ制作を依頼している会社と撮影をお願いしているカメラマンと話し合ったのです。

私の希望は、今日、明日のために行うのではなく、5年、10年を見据えた長いスパンでできることでした。動画やSNSなどさまざまな案を持ち寄り、そこで出てきた一つがインスタグラムだったのです。

今、インターネット上で清水寺の写真を検索すると山のように出てきますよね。いろいろな写真がありますが、これらを私たちがコントロールすることは現実的には不可能です。公式インスタグラムを設けて私たちから写真を発信することで、こうしたたくさんの写真に対して軸を設けることもできると思ったのです。

大西英玄さん。

菊池 : 全国のお寺ではインスタグラムのアカウントを持たないところも多いと思います。そんな中、なぜ公式として始めることを決めたのでしょうか。

大西 : 全国には75,000ぐらいのお寺があり、それぞれ宗を包括したり、修業の場であったり、異なる役目を担っています。清水寺は創建以来1,200年、宗教的素養が整っている人、いない人も含めて、多くの人へ門を開く入口のような存在だからです。

今は価値観が多様化しているので、宗教的素養が整っていない人もいます。たとえば仏像を見たときに手を合わせる対象ではなく、美術工芸品として見る方も多いのではないかと思います。そういった方も気軽に参拝できる入口として、大きな受け皿として担当するのが、清水寺の役割です。そういう意味でインスタグラムなどの活動は他の寺院と比べて積極的に行うべきことだと思いました。

菊池 : 公式インスタグラムは具体的にどんな想いを持って取り組んでいらっしゃるのですか?

大西 : 清水寺に参拝に来られたら、できればデジタルデトックスをしていただきたいのですが、今の時代にそれは難しいですよね。でも、我々の方で先に境内の今の姿を撮影した写真を提供することで、参拝時に写真撮影に気をとられることなく、たとえば1時間境内にいたとしたら30秒間だけでも、自身の形で結構ですので、仏に手を合わせたり、自身の無事を感謝したり、誰かのために祈ったり、といった時間を設けられるのではないかと思いました。

また、先ほど少し触れましたが、我々の伝統的な考え方では、仏像は美術工芸品ではなく、手を合わせる対象です。そういう意味で撮影禁止の場所もあり、参拝に来る皆さんの中には、そこを撮りたいと思う方もいます。そこで、写真についてのオフィシャルな場を設けることで、たとえば撮影禁止の場所でも公式インスタグラムに掲載しています、とお伝えすることもできると考えました。

菊池 : 最初の投稿から拝見していると、清水寺の四季や行事を映した写真もありますが、被写体に寄った写真、清水寺かどうかもわからない写真もいくつかありますね。広告の世界にも想いを込めるというか、ありのままを見せたのでは面白味がなく、1枚の写真から想像を促す手法を使うこともあります。なぜ、こうした写真も投稿しているのですか?

大西 : 写真については、こちらから年中行事などの撮影対象を依頼することもありますが、基本的に1人のカメラマンに一任しています。彼は公式インスタグラムの開始時から参加しているので私の想いも共有しています。また、私が彼に伝えていることは「いいね」の数を気にした撮影ではなく、木や石でも清水寺とわからなくてもいいから自由な発想で撮影してくださいということです。

なぜなら、私は写真を広報ツールではなく、もう少し宗教的純度の高いものとイメージしていて、見えているものを伝えるのではなくて、見えているものを通して、見えない想いを伝えられると思っているからです。

仏教の教えは日々をそれなりに無事に暮らしていくことです。現代社会ではなかなか難しいのはわかりますが、このインスタグラムの写真が一瞬でも人々の安らぎの一助になったらいいという想いもあります。発信者の想いを受け手にストレートに伝えるのは難しいかもしれませんが、少なくともそういった考えもあるということです。

菊池 : 感性が似ている人同士でさえ、あるテーマの下、思い描くイメージは違うこともありうるのですが、清水寺の公式インスタグラムでは、大西さんの考えをカメラマンの方が見事に表現しているようですね。撮影のテーマなどは、カメラマンとどう共有しているのでしょうか。

アマナの菊池(右)。

大西 : 私がこれまでたくさん話している中で考えを汲み取ってくれているのだと思います。それに、カメラマンの清水寺への愛情もあると思います。

菊池 : では、たとえばある日写真の雰囲気が変わってもいいですか?

大西 : かまいません。実は、音楽の祭日(2018年6月21日)で行われた「世界友愛100本のトランペット」は他の投稿と雰囲気が違うと思っています。でも、たくさんの写真がある中、多少枠からずれたものがあったとしても、大きな軸がブレていなければいいと思っています。

菊池 : 清水寺そのものが幅のある活動をしている限り、それを捉えるアングルやトーンに幅があって当然ということですね。こうして、インスタグラムなどで写真を利用して、写真について考えが変わることはありましたか?

大西 : そうですね。仏教で「三世不可得」という言葉があります。過去、現在、未来の三世はいずれも同時に手に入らないということです。仏教で「今」というのは「パンッ」と手を叩いたこの瞬間のことになります。写真というのは、この「パンッ」という瞬間を残せるツールなのだと思いました。清水寺でも皆さん一生懸命写真撮影していますよね。後からその写真を見て、あのとき暑い日に写真を撮ったなとか、修学旅行で来て楽しかったなとか思い出が広がっていくじゃないですか。そういう意味で、撮影した絵そのものだけではなく、今を切り取るということをし、未来に今のこの瞬間を、視覚のみならず、音や匂い、人の思い出までも残していくツールだと思うようになりました。

菊池 : 今後、写真を使った施策は考えていらっしゃるのですか?

大西 : 具体的には決まっていませんが、今、VRをはじめ時代の最先端を行くようなものがありますね。いきなり公式として利用するのは難しいのですが、奉納の機会などを通して一時的にでも利用してみたいというのはあります。お寺は伝統を重んじ、古いものは修復して存続させるイメージが先行していると思いますが、それだけではありません。たとえば、仏教の歴史の中で阿修羅や曼荼羅というのは出てきた当時はとてもセンセーショナルだったと思うのです。ですから古いものを受け継ぐことと、新しいものを取り入れることを両方やっていきたいと思っています。

菊池 : 柔軟性が必要なのですね。今日は公式インスタグラムについてお話を伺い、清水寺ではキャンペーン的な写真ではなく、写真に宗教性、精神性を盛り込むことを最初から目指していたと伺いました。それに対し多くの人がフォローされ、結果的に想いは達成されたと感じましたがいかがでしょうか。

大西 : そういう意味で人数というのは客観的事実としてあるので、想いは伝わっているのかとは思います。現在、清水寺は大修理を行っており、2020年3月には終了予定です。その頃はより大事な時期になると思っています。土壌は整ったので、公式インスタグラムもそこから新たにスタートするいい頃合いだと思っています。

テキスト:島村美樹
インタビュー撮影:川合穂波

プロフィール

大西英玄

北法相宗 清水寺

執事補

1978年、京都府・清水寺成 就院に生まれる。大学卒業後、米国留学、高野山で加行。2004 年より清水寺録事を務め、2013年より執事補。祖父は元貫主の故・大西良慶和上。

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