御代田町長・茂木祐司さんに、浅間国際フォトフェスティバル開催の理由を聞いた

長野県御代田町(みよたまち)で開催中(2018年9月30日まで)の浅間国際フォトフェスティバル。山間の自然豊かな場所で、世界を代表するフォトグラファーのさまざまなアートフォトが展示されています。日本ではあまり例のない大型写真の屋外型展示が御代田町で行われてた経緯を御代田町長・茂木祐司さんに伺いました。

「アートってよくわからない」から開催にいたるまで

——御代田町でフォトフェスを開催することになったのはなぜですか?

茂木祐司さん(以下、茂木。敬称略):フォトフェスが開催されているこの土地は、もともとメルシャンのウイスキー醸造所で、メルシャン軽井沢美術館があったところです。2011年に閉館したため町が管理していて、代わりに運営してくれる企業をずっと探していました。

御代田町は軽井沢町の隣で自然環境もいい。企業を誘致する場合も自然環境に適した事業内容の企業に来ていただきたかったし、美術館の跡地でもあるので何か文化的な事業がふさわしいだろうと思っていました。

そこにアマナから「写真の美術館にする」という提案があり、町のイメージにも合うし文化的な事業という条件にもぴったりなので、協業することになりました。

御代田町長・茂木祐司さん。

——「アートフォト」という切り口についてはどのように感じましたか。

茂木:東京のアマナの本社に行ってアートフォトの説明を受けたんですけど、最初はピンとこなくて。浅間国際フォトフェスティバルのポスターの写真にも使われていますが、枯葉が写っているような写真とか、クマのぬいぐるみの足の間から叫んでいるおじさんとか……。アートってよくわからないなあという印象でした。

フォトフェス開催にあたっては、地元の人を写した写真とか御代田町の景色の写真なども飾っていただいて、アートフォトも含めていろいろな写真が見られるようになっています。展示の仕方も工夫されていて、子供も楽しめるイベントになったなと思いました。

——フランス・ラガシイのフォトフェスにも視察にいらっしゃったとか。

茂木:はい、行きました。ですが、ラガシイよりも御代田のほうがはるかにレベルが高いと思います。ラガシイのフォトフェスはただ写真が飾ってあるだけですが、御代田は見に来た人がいろいろなことができる。

アプリを使って写真を見るとおもしろい動きをしたり、自分たちが被写体になったり。参加して写真を楽しむという点で、おそらくラガシイを超えているなと。飾られている写真の点数はラガシイのほうが量が多いですが、レベルや発展性を見ると御代田のほうが上です。

——特に気に入った展示はありますか?

茂木:「猫も杓子も」(ダミアン・プーラン作)はおもしろいですね。あとは、水谷吉法さんや藤原聡志さんの巨大写真プリントとか。写真って小さいサイズで見るとなんてことはないですが、大きいサイズにすると芸術作品になるんですね。撮ってもらった自分たちの写真が、フォトフェスの会場に張り出されたりして。

あと、美術館の中のVRみたいないろいろな仕掛け。「こんなことができるのか」とびっくりしました。発想力やレベルの高さを子供たちに見せる必要があるし、感じさせたい。こういうことに触れることで、感性を磨くことが大事なんです。

オブジェの下に人が立つと、上空から猫が写真を撮影する作品「猫も杓子も」。

建物の壁に展示されているのは、大きくプリントされた水谷吉法の作品。

藤原聡志の作品も大きなサイズで迫力満点。

御代田町が目指すこと

——町の皆さん反応はいかがですか。

茂木:最初はねえ、アートって聞くと「ピカソかよ」って。そのぐらいの知識しかないし、なんでこんな物が写っているのがアートなんだろうって自分も首をひねったけど、だんだん目が慣れてきました。

普段のイベントならお好み焼きとか焼き鳥とかいった食べ物が並ぶけど、フォトフェスにドイツ料理のフードカーとかオリジナルのコーヒーゼリーとか、おしゃれな食べ物ばかり。

でもこれでいいんです。写真からアプローチする人もいるし、食べ物からアプローチする人もいる。写真に興味がなくても足を運んでもらえることが大切です。

ドイツ料理をメインとしたフードトラック。

こだわりのソーセージを使ったホットドックは、軽井沢町在住のドイツ人オーナーのプロデュース。

IMA cafe特製のコーヒーゼリーも。

——フォトフェスティバルを開催することで、何を目指そうとしていますか。

茂木:アマナは、この企画のコンセプトを「写真文化を広げる」に据えていますが、町としては、写真を通して人を集めることがまず第一。だけど僕の考え方は、移住定住なんです。こんな町に住んでみたいと思わせたい。

長野県全体ではここ数十年で人口減少が起きていて、とはいえ御代田町はいちばん人口が減らない町。これからは増やすという対策をしたいと考えています。

町の全ての事業は人口増に結びつけたいので、写真のイベントでどれだけの人がここに来て移住につながるか、こういう文化に関わっていくのか、そこがいちばん大事です。

——それに写真が役立つとお考えですか。

茂木:写真の可能性だよね。今はみんなが写真を撮る時代で。写真が持つ可能性を感じます。

小山一成が14カ月にわたって御代田を撮影した写真も、会場隣のエコールみよたに展示されています。

御代田町とフォトフェスティバルの未来は

——今回のフォトフェスは第0回というプレ開催の位置付けです。これからどのように発展させていくのでしょうか。

茂木:このフォトフェスティバルは、名前が「浅間国際」で世界に発信できるフォトフェスティバルであるし、そうしなければならないと思っています。

僕らの狙いは軽井沢町。軽井沢には外国人観光客がたくさん訪れていて、彼らにこちらまで足を延ばしてもらえるかがポイントです。いろいろな選択肢が近くに増えるので、軽井沢町にとってもいいことではないかなと、協力をお願いしました。これからはもっと近隣の町を巻き込んで、アマナが行っているような写真文化を確立していかないといけないですよね。

今は、写真や映像が無秩序に扱われているなと感じます。写真というものを将来に向けて発展性のあるものにきちんと作っていきたい。それから、企業を巻き込んでお金を生むようにしなくては。来年以降は、イベントを広げる可能性を我々がどうやって作り出すかが問われていると思います。

——町の皆さんの意識も大切ですね。

茂木:町の誰もが知らない初めてのことなので、まずは今年の様子を見てもらって町の人たちにわかってもらえるといいなと思います。

ラガシイでは、町全体が美術館のような感じで、個人が町の中で展示したり、マルシェ(市場)を開いたり。あのような感じで町の皆さんが自主的個人的に関わってもらえるように、御代田でも10年くらい続けていきたいし、いろいろな関わり方ができればフォトフェスにも町にも味が出てくるかなと。そういった「町をあげて」という雰囲気が出てくれば、自分たちが作っているフォトフェスなんだという意識になるかもしれないですね。

あとは、子供たちにどうやって広げていくか。間違いなくこれからは、写真と映像が大事です。子供たちも含めた住民に多く参加してもらって、これから発展させていきたいですね。

テキスト:ビジュアルシフト編集部
インタビュー撮影:小山一成

 

プロフィール

茂木祐司

御代田町長

長野県北佐久郡御代田町出身。オーディオメーカー就職後、36歳で町議会議員に当選。2007年御代田町長に就任し、浅間国際フォトフェスティバルの他、企業誘致などにも積極的に取り組んでいる。

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