40周年の節目に70名の社員が集結。アマナの次の時代をつくるインナーブランディングプロジェクト

新型コロナウィルスの影響により、各社リモートワークが推し進められ、社員同士が直接顔を合わせない日々が続く今、いかに組織として同じ方向を向きながらも、個々が自走できるかが問われています。

社員数1000人を超えるアマナグループでは、創業40周年を迎える2019年にインナーブランディングプロジェクトが始動。現在も続くその取り組みについて、編集部が運営事務局の2人に聞きました。

きっかけは社長からの1本の電話。次の40年をつくるプロジェクト

創業40周年を迎えた2019年、アマナのインナーブランディングプロジェクト『Project4(プロジェクト・フォー)』が始動。「MOVER(ムーバー)」と名付けられた次世代のアマナをつくるメンバーが、チームごとに自社改善プロジェクトを企画立案し、全社イベントでプレゼン。社員投票によって選ばれた企画に予算が付き、実行できるという内容です。

「そもそもどのようにしてプロジェクトが始まったのかと言うと、ある日突然、進藤さん(アマナグループCEO)から僕に電話がきたんです。『来年の40周年を気に、次の40年のアマナをどうするか考えてほしい』と言われ、後日対面したときに、『ただ40周年をお祝いをするのではなく、若い社員に躍動してもらい、次のアマナを創造していってほしい』という想いを聞きました」(村上英司/クリエイティブディレクター)

CEOからの直電で依頼を受けた村上は、以前から多くの企業のブランディング、企業理念のアクティベートなどを手がけてきたクリエイティブディレクター。突然の連絡に驚きながらも、いつもはクライアントのCEOに実施するヒアリングを、自社のCEOに向けて行うことから始めました。

 「トップの思いを直接ヒアリングすると、会社をどうしていきたいか、そのために何が必要だと思っているのかがわかり、『ビジュアルコミュニケーションで世界を豊かにする。』という経営理念に対する解像度が上がりました

アマナの創設者である進藤さんの話から感じたのは、広告写真のフォトグラファー集団から始まり、常に時代の半歩先を見ながら、ビジュアルをコアに業態を変革してきたアイデンティティ。また、従来の広告制作のような受託型ビジネスモデルだけではなく、アートフォト事業やライフスタイルメディア事業をはじめとする、主体的に仕事を生み出していく新たなビジネスモデルへ変革していくべきだという問題意識を持っていることでした。

しかし、僕自身が受託型ビジネスで働いている立場から、多くの社員は新たな主体的ビジネスモデルへ進んでいくための内発的なモチベーションや理解が足りていないのではないか、というギャップも感じていたんです」(村上)

村上がヒアリングを進める頃、今回取材したもう1人のプロジェクトの立役者、ブランドストラテジーディレクターの森川綵がアマナに入社。これまで企業や商品のブランドコンサルを手掛けてきた森川は、アマナのブランド戦略室でクライアントワークを行いつつ、自社のインナーブランディングプロジェクトにもジョインしました。 

「プロジェクト参加後、社内を見渡して感じたのは、経営層と現場の社員の間に隔たりがあること、さらに社員の心の内にもっと理解してほしい、信頼してほしいというフラストレーションが溜まっているのではないか、ということでした。何人かの社員にヒアリングをしたことで、その感覚は確信に変わりました。そこで、そのャップを可視化する意味で実施したのが、全社員向けのアンケートだったんです」(森川綵/ブランドストラテジーディレクター)

アンケートであぶり出された現状と理想のギャップ

従業員アンケートは、インナーブランディングの常套手段。理念の浸透度や社員の帰属意識、市場成長性など、複数のカテゴリに関する質問を設けてリアルな課題を浮き彫りにするとともに、社員が「アンケートに答える」という行為を行うことで、プロジェクトを“自分ごと”にとらえてもらう効果があります。さらに、普段は経営層に届けられない社員の想いを伝えられるというメリットも。
参考:インナーブランディングの前に企業の“健康診断”を。効果的に施策を進めよう

 「アンケートでは、社員たちが日頃抱えている想いを少なからずあぶり出すことができたのではないかと思います。仕事にやりがいを感じている』人が多く、『ビジョンへの共感性』も高いことがわかりましたが、一方で『社内の横のつながりが希薄』、『もっと先進的な仕事に挑戦したい』など、普段は表に出てこない潜在的なニーズが浮き彫りになりました。

現場の課題を直接出してもらえたのは、とてもよかったと思います。これまでこうした機会はあまりなかったので、よい意見も悪い意見も透明性を持って共有できたのは成果の1つです」(村上)

森川は、アンケート結果から見えた「アマナの現状」と「理想とするアマナ」のギャップに注目しました。

 「アマナの現状については、多くの人が『自由』『クリエイティブ』『センスがある』『専門性が高い』というイメージを抱き、プライドも持っていました。けれど、将来の理想像には『先進的な』『国際的な』『ワークライフバランスがいい』などが挙げられました

今のクリエイティブなアマナらしさは十分に謳歌しつつもっとチャレンジングな仕事に積極的に挑戦したい、と言う前向きなエネルギーも感じたんです(森川)

アマナの全社大会「amana group meeting 2019 winter」で発表された資料より。

事務局は、このアンケートをもとにプロジェクトを設計。ポイントになったのは、進藤CEOがよく口にする言葉、「自己実現」です。「自己実現」は、マズローの欲求5段階説(※)で最上位を占める欲求。しかし、その下層に位置する根源的な欲求が満たされないままでは、「自己実現」までの距離が遠く、雲の上のことに見えてしまいます。そこにこそ、ヒントがあると考えました。

※…アメリカの心理学者アブラハム・マズローが提唱した理論。人間の欲求はピラミッドのように階層に分かれていて、最も低次な欲求(生理的欲求、安全欲求など)が満たされると、徐々に高次の欲求(自己実現欲求など)を求めるようになる、というもの。

 「マズローの欲求5段階、最近では8段階あると言われています。この8つの欲求を、今後アマナで実現していくべきことに照らし合わせ、『LIFE(生活)』『WORK(働き方)』『SENSE(センス)』『EARTH(地球)』の4つにカテゴライズしました。れからのアマナは、このすべてをバランスよく満たしていく必要があると考えたんです。

『SENSE』はそもそもアマナの得意領域ですが、台となる『LIFE』や『WORK』をしっかりと満たす必要があります。そして自らのセンスを磨き、世の中で活躍できれば、『EARTH』レベルの視座の高い社会貢献や自己実現へも、自ずと社員の意識が向かうことになるのではないかと思いました」(村上)

「amana group meeting 2019 winter」で発表された資料より。

「amana group meeting 2019 winter」で発表された資料より。

プロジェクト名は、「LIFE」「WORK」「SENSE」「EARTH」の4つの観点でアマナの未来をつくるという意味を込めて「Project4(プロジェクトフォー)」に。「4」には「For=〜のために」と言う意味も込められました。

 「社内からプロジェクトの参加者(アンバサダー)を募り、4カテゴリーに沿った企画を提案してもらおうと考えました。大きなフェスのような社内イベントを催して、そこで参加者が考えた内容をプレゼン。社員が投票して実現したい企画を決めれば、企画の立案者のみならず、投票した社員も含めて内発的なモチベーションにも火を点けられるのではないかと思いました」(村上)

プロジェクトの要、社員の心を動かすビジュアル戦略

アンケート結果の報告と共に「Project4」お披露目の場となったのは、2019年1月に開催された全社大会。一年に一度、その年の「経営方針を伝える日」として社外のホールを貸し切って開催される全社大会は、プロジェクトスタートにうってつけの場です。そのお披露目に向けて事務局が特に力を入れたのは、「Project4」オリジナルビジュアルの開発でした。

 熱量を伝えるうえで、オリジナルのビジュアルを作ることの意義は大きいと思います。会社を本気で変えようとしているかどうかが、ひと目で伝わるんです。

アマナはビジュアルコミュニケーションの会社なので、もともと社内向けのクリエイティブに対しても熱が高いのですが、過去に作られてきたクオリティの高いコーポレートデザインへのリスペクトを込めながら、ビジュアル開発は本気でやりきりました。プロジェクト内容をディスカッションする段階からクリエイターにジョインしてもらったのも心強かったです」(村上)

さまざまな場面で使われる「Project4」のロゴは、マズローのピラミッドを分解して、数字の「4」になるよう設計されています。

また、ロゴに施された4色それぞれにも意味が込められました。「LIFE」はくつろいだ家の明かりをあらわすイエロー、「WORK」は仕事への情熱を表すレッド、「SENSE」は感性の刺激を意味したパープル、「EARTH」は地球のブルーといった具合です。

「amana group meeting 2019 winter」で発表された資料より。

「さらに『4』の数字は方位磁針の記号にも見立てました。方位磁石が指すのは北の方角。企業理念を北極星のように指し示している、という意味も込められています」(村上)

このロゴをベースに、社員向けポータルサイトに掲載するバナーや、社内に貼るポスターなどさまざまなツールを制作。ポスターは多くの社員が目にできるよう社内のあちこちに貼り、プロジェクトのフェーズが「MOVER募集」→「企画プレゼンイベント前」→「イベント後」と進むにつれて、異なるビジュアルに貼り替えていきました。ポスターを変えることによって、プロジェクトを盛り上げていくという演出です。

左:全社大会でのプロジェクト発表後「MOVER」募集期間中に貼られたポスター、右:「MOVER」募集後プロジェクト始動時に貼られたポスター

MOVERがプレゼンを行う全社イベント「アマフェス」の告知ポスター。

さまざま作られたクリエイティブの中でも、最も社員の心を動かしたと言われているのが、プロジェクトお披露目時に流した「amana DNA」ムービー。40年の間に生み出されたビジュアルの数々、これまでのアマナを担ってきた社員の写真をふんだんに使い、アマナのDNAを浴びるように感じてもらうことで、「これからの時代は自分たちがつくる」と思ってもらえたら……。そんな想いが込められたムービーでした。

「amana DNA」ムービーのキャプチャー集。映し出されたのは、創業期から現在に至るまでの制作物や社員の集合写真、CEOの進藤がよく口にする言葉など。

 「ムービーディレクターの渡辺慶将が、コンセプト開発の前半から事務局にジョインしてくれていたので、ムービーの話が出たとき、すぐに台本を作ってくれました。制作の過程で私たちがディレクションすることはほぼなく、すべてお任せです。スピード感と熱量を保ったまま形にできるメリットは大きく、主要会議からクリエイターが参加することの価値を実感できました」(森川)

結果、「30名集まれば上出来」と考えていたアンバサダー「MOVER」の応募者は約70名に。社員が心の内に秘めていた想いは、ポジティブなエネルギーとなって吹き出し始めました。その後、どのようにプロジェクトが進んでいったのか、続きは後編でお伝えします。

インタビュー・文/箱田高樹 トップ画像デザイン/下出聖子(amana design studio)

 

メンバープロフィール

 森川 綵

  株式会社アマナ ブランド戦略室 ブランドストラテジーディレクター

マネジメントコンサルを経て、ブランドコンサルティングに従事して20年以上。企業CI、事業ブランド化、サービス開発、店舗ブランド開発など多様なブランディングを経験。戦略的クリエイティブで企業の進化や変革の支援を目指す。

 

メンバープロフィール

 村上 英司

  株式会社アマナ クリエイティブディレクター

グラフィックデザイナー、Webディレクター、インタラクティブプランナーを経て、現職。企業のインナーからアウターブランディングを中心に、デジタルプロモーション、イベント開発や店舗制作などコンテンツ制作を通して、多角的なブランド開発を行う。

 

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