意表をつく動画でマンネリを防ぐ!トルコ航空の機内安全ビデオ

テクノロジーライターの大谷和利さんが注目した、世界の先進的なビジュアルユースのトピックを取り上げる連載「VISUAL INSIGHT」。第7弾でご紹介するのは、トルコ航空の機内安全ビデオ。トリックビデオの第一人者として注目を集めているザック・キング氏を起用した、斬新なムービーに注目です。

オリジナリティのある演出で、見る人を引き付ける

企業の中には、動画を使ってアピールするのに適したサービスや商材を持ちながら二の足を踏んでいる会社もあれば、動画を作り続けつつも、なかなか興味を持って観てもらえないというジレンマを抱えているところもある。加えて、いつも同じテーマやモチーフを扱わなければならないとすれば、どこで新規性を出すかという点に悩むことになる。

後者の典型は、読者の方々にもなじみ深いと思われる航空会社であり、その動画とは、離陸前に必ず上映される機内安全ビデオのことだ。

この業界では、安全設備の進化や機種ごとの違いもあって定期的に新たな動画が制作されるが、安全ベルトの締め方や機内持ち込み手荷物の置き場などの説明は基本的に変わらないため、主に演出を変えたり、実写とCGなどの手法を工夫して、乗客の関心をひこうとする。しかし、たいていの乗客は「またか」という感じで機内誌や新聞に目を通したり、スマートフォンのチェックに余念がなかったりするのは、ご存知の通りである。

だが、真のクリエイティブというものは、制約が大きいときにこそ発揮される。トルコ航空は、インターネットの世界で知られたザック・キング氏に、今までにない機内安全ビデオの制作を依頼した。

キング氏は、2012年に開始された動画共有サービスVine(バイン)に数多くのトリックビデオを投稿して、一躍有名になった人物である。Vineは、共有される動画がすべて6秒間のループ再生スタイルをとることが特徴で、Twitterの傘下にあったが、利用者減などを理由に2017年初頭でサービスが終了した。そのため、キング氏のようなスタームービーメーカーのその後の活動がどうなるのか注目されていたが、トルコ航空がその才能と知名度に目をつけた格好となった。過去にない機内安全ビデオを制作するために、Vineで活躍していたザック・キング氏に白羽の矢を立てたのは、トルコ航空だった。冒頭シーンを見る限り、よくあるオーソドックスな機内安全ビデオのように思えるが……。実は、Vineのときと同じくキング氏自らが出演して、壁の一部に扮しているのである。冒頭近くに出てくる機内持ち込み手荷物の収納場所の説明では、座席に座ったキング氏がスーツケースを頭上の棚に向かって放り投げると……。そのまま棚の扉部分を通過して中に収まってしまうという様子を、リアルに見せている。

いかに面白く、飽きさせずに見せるか

キング氏は、もともとVineのような短い時間の中で、いかに面白く不思議な映像を作るかという点に力を注いできた。

機内安全ビデオも、限られた時間の中で必要な情報を次々と見せていく必要があるが、テンポよくまとめあげた手腕はキング氏ならではという印象だ。それも場面ごとにだまし絵的な手法やカメラワークによるトリック、スマートフォンを使ったイリュージョン系の見せ方などを取り混ぜ、飽きさせない工夫もしている。機内に立体的に描かれた赤いラインは……。特定の角度から見たときだけ、このように禁止を表すサインとなる。一時、YouTubeなどで流行ったスマートフォン手品のような演出も、デバイスを機内モードに切り替えるシーンで使われている。

ここでは航空会社の例を取り上げたが、自由度の少ない機内安全ビデオでもここまで面白くバイラル性の高いものが作れるのなら、他の分野ではもっと大胆でユニークな動画を使ったプロモーションができるはずだ。

まずは社内で知恵を絞り、手に余るようならプロの手も借りて、アイデアに満ちたビジュアルマーケティングを展開してみてはどうだろうか。
※キャプチャーは、YouTubeビデオ(https://youtu.be/9NqSg4dSBvI 現在、動画は非公開になっています)より。

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