絵画の値段はなぜ高騰? 過熱するアート市場の今を知る本ベスト3

イラスト:高篠裕子(asterisk-agency) "

ビジネスパーソンの創造力を高める手段の一つとして、今や欠かせないのが「アート」。アマナ・アートプロジェクトの上坂真人が、教養として知っておきたいアートを学べる本3冊をご紹介。今回のテーマは「過熱するアート市場の今を知る」です。

国内外を問わず、富裕層によるアート作品購入の話題をニュースでもよく見かけるようになりました。

2017年5月に「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」を運営するZOZOの代表取締役で現代芸術振興財団の創設者・前澤友作氏が、ジャン=ミシェル・バスキアの作品を約123億円で落札しました。また2017年11月、クリスティーズのオークションにて、レオナルド・ダ・ヴィンチの名画『サルバトール・ムンディ』が、絵画としては史上最高額の4億5,031万ドル(約508億円)で落札されたことも記憶に新しいでしょう。落札された瞬間、あらかじめ額に仕込んだ仕掛けによって絵が切り刻まれたバンクシーの代表作『風船と少女』は、約1億5000万円の値がついていました。

世界的企業はArt Baselといったアートフェアに協賛し、そこに集まる富裕層に顧客サービスを展開しています。そのほか、美術館の活動をサポートして新たな表現創出に貢献したり固有のアートスペースを持つなど、企業はコミュニケーション戦略の中で新たな価値共創のパートナーとしてアートを選び始めています。

 

富裕層はなぜアートを買うのか?

世界的企業はなぜアートをサポートするのか?

アートマーケットはいかにして成立しているのか?

 

文化にお金の話はタブーといった向きのある日本にいるとなかなか見えてこない、そうした“ビジネスとしてのアートの世界”を知ることのできる3冊をご紹介します。

①加速するアートの産業化、拡大し続ける現代アートマーケット

 

著者は、二大オークション会社の一つ、サザビーズジャパン代表取締役会長兼社長の石坂泰章氏。「アートは生き馬の目を抜く肉食系ビジネスである」との言葉通り、華麗なるアートオークションの舞台裏から、アートを巧みにプロモーションに取り入れる企業の動き、グローバル化するアートマーケットの行く末とそれに立ち遅れる日本の現状まで、実にリアルなアートワールドの裏側が描かれています。“ビジネスとしてのアートの世界”を知る導入にふさわしい、とても読みやすい一冊です。

いわゆる超富裕層といわれるUHNWI(Ultra High-Net-Worth Individuals=3,000万ドル以上の投資可能資産を所有する個人)のアート関連資産は、1.62兆米ドル(2016年)から2.7兆米ドル(2026年)まで増えると言われています*。世界的に増大する富はアートに流れ込み、アジアや中東なども参入する中で、マーケットはますます拡大しグローバル化の一途を辿っています。

*Deloitte Luxembourg & ArtTactic Art & Finance Report 2017

②業界外のジャーナリストがアートワールドを徹底取材した、臨場感あふれるルポ

 

二人のフランス人ジャーナリストが、一種閉ざされた世界であるアートワールドを一から徹底取材し、その実態を客観的に伝えてくれる一冊です。アートのエコシステムがいかにして回っているか、具体的なキープレイヤーと共に紹介されています。

イギリスの美術雑誌『ArtReview』(ArtReview Ltd)は、アート界で影響力のある100人のランキング「Art Power 100」を毎年発表しています。興味深いのは、ここにランクインするようなスーパーコレクターや、市場を独占する大物ギャラリスト等も含めて、金融業、広告業、不動産業などの出身者がアートマーケットにおいてキープレイヤーとなっていること。つまりはビジネスで培ったノウハウをアートワールドに展開して“儲かる”仕組みを作り出し、それが少なからずアートビジネスを動かしているのです。

金融機関やラグジュアリーブランドなどは特に、富裕層相手のビジネスであるだけに、アートとの結びつきも必然的に強くなってきます。本書第6章では、アートでイメージを高めようとするラグジュアリーブランドと、ブランドを自身のプロモーションチャネルとして活用したいアーティストとの共犯関係ともいえる関わりについて、具体的な企業名と共に描かれています。

③行き過ぎたアートの産業化、グローバル化の末にあるものとは

 

表紙のビジュアルが印象的です。これは、近年カタールで行われた、ダミアン・ハースト展での様子。カタールは、明確に国の成長戦略としてアートを位置づけ、他の中東国とは違って自国のアートコレクションを増やしていくことで芸術文化を通じた国のアイデンティティを形成しようとしています。美術館庁のトップを務めるシェイカ・アル=マヤッサ・ビント・ハマド・ビン・ハリーファ・アール=サーニーは、前カタール首長の娘であり、現首長の妹に当たる人物で、村上隆のファンとしても知られています。その圧倒的な購買力で、数億ドル単位の作品を立て続けに購入し、2013年には弱冠30歳にして「Art Power 100」首位の座に輝きました。

アートはグローバル資本主義を批判しながらも、狭義のアートワールドはそれに支えられたシステムに依存せざるを得ず、本来批評を軸に決まっていく作品価値が、過剰なまでのアートワールドのパワーバランスによって決定されてしまうというという現実。「Art Power 100」常連メンバーのゴシップ的な裏話も交えながら、過度に産業化したアートワールドの現状を伝えつつ、後半では高騰し続ける現代アートの価値とはどこにあるのか、まさに「現代アートとは何か」という主題に迫る内容になっています。

 

アートとは、その個人が世界にどう向き合うかということの表出であり、人々の潜在的な意識や社会変化を予測するものであるとも言えます。先の見えにくい時代において、アートはビジネスに多くのヒントを与えてくれます。アートの世界に触れることで、ご自身のビジネスの見方や日常の捉え方が変わったり、少しずつ見える景色にも変化が出てくるかもしれません。

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