脳科学を知れば、より効果的なブランディングが可能になる!?
人がブランディングされた商品やサービスを選ぶ際、脳の働きはどのように影響するのでしょうか。今回は脳の研究を専門とする医学博士で、「脳番地」の提唱者でもある加藤俊徳先生に、脳科学の視点から効果的なブランディングについて伺いました。
脳には人それぞれ“個性”がある
1000億個を超える神経細胞が存在する脳。このうち、同じような働きをする細胞集団が集まって、脳細胞集団を形成しています。
加藤先生の提唱する「脳番地」とは、場所によって働きの異なる脳を1枚の地図に見立て、その働きごとに住所(番地)を割り振ったもの。右脳・左脳にそれぞれ60ずつ、脳全体で120の脳番地があり、それらを機能別にくくると8つの系統に分けられます。
「この8系統の中で、ほかの脳番地に最も大きな影響を与えるのが思考系脳番地と感情系脳番地です。特に感情系脳番地は目的や意思に基づいて支持を出す前頭葉に位置し、かつ海馬を含む記憶系脳番地の近い位置にあり、その人の人柄を決定づける重要な役割を担っています。
また脳番地には神経細胞によって別の脳番地と繋がる傾向があります。たとえば相手の話を聞きながら何かを考えているときは、聴覚系脳番地と思考系脳番地が繋がっていますし、音楽を聴いて楽しい気分になったときには聴覚系脳番地と感情系脳番地が繋がっています。このように、脳の働きは脳番地同士の連携によって成り立っているのです」(加藤さん)
子供から大人に成長する過程で、脳番地は多くの情報を得て成長していきます。けれど、「その育ち方は人によって大きく異なる」と加藤先生。
「これが“脳の個性”です。人は生活パターンや思考の方法がそれぞれ違うので、どの脳番地をよく使っているかは人それぞれ異なります。たとえば営業職の場合、仕事中は人と多く会話をしますから、言語力を担う脳番地がよく使い込まれています。逆に言うと、それ以外の脳番地はあまり鍛えられていません。脳は誰もが同じ形なのに、人によって考え方が違うのは、このように職業や生活習慣によって脳の個性が異なるためです」(加藤さん)
ブランディングの本質は“繰り返される記憶”
では、消費者があるブランドに接したとき、一般的にどの脳番地が反応するのでしょうか。
「広告や商品パッケージから得られたブランドの情報は、まず聴覚系脳番地や視覚系脳番地に集積され、その後、感情系脳番地や記憶系脳番地を刺激します。ここで重要なのは、私たちは見たもの、聞いたものをありのままに捉えているわけではなく、過去の経験(記憶)によって脳が解釈をしているということ。脳科学的に言えば、ブランディングの本質は“繰り返される記憶”なのです」(加藤さん)
人の脳はブランドに対してさまざま情報を取り込み、その人の経験と結び付いた“記憶”として蓄積されます。そして、そのブランドに接したときに記憶が繰り返され、商品やサービスを選ぶ際の判断に影響するのだそう。では、自社ブランドの記憶を繰り返し脳から引き出してもらうには、どのようなブランディングが効果的なのでしょうか。
「ブランディングは“インパクトの大きさより、長く繰り返す”ことが大事。というのは、人の脳は新しい情報でどんどん上書きされていくものだからです。だから上書きをされないように、絶えず同じ刷り込みをする。このとき重要なのは、いい印象を与え続けること。人は嫌いなものの記憶は繰り返しませんから、一度でも印象が下がってしまうと修復しても効果が低下してしまうのです」(加藤さん)
下の写真は、広告においての物撮り写真とモデルを起用したイメージ例です。
広告のビジュアルひとつをとっても、商品のみのポスターとイメージモデルを起用した人物も写っているポスターでは受け手の印象に差が出るのだそう。
左は商品写真だけのもの。右は、商品を使ったモデルを起用したイメージ。
写真左/(c)TOMOHIRO IWANAGA/a.collectionRF/amanaimages 写真右/(c) EyeEm/amanaimages
「一般的に人物が写っている方がいい印象が残りやすいですね。イメージモデルを使った広告の役割は、憧れを作り出すこと。たとえば化粧品の広告の場合、パッケージだけが写っているのと、その化粧品で美しくメイクした女性が写っているのとでは、どちらが受け手の印象がいいかといえば、やはり後者ですよね」(加藤さん)
とはいえ、先に述べたように脳には個性があるため、個々人が受け取る印象にブレが生じるのも事実。ブランディングにおいて言葉よりもロゴやマーク、写真、動画などのビジュアルが多用されているのは、こうしたブレをできる限り少なくするためと加藤先生は言います。
「文章は脳の発達度合いによって、人ぞれぞれに理解度が異なります。ですから視覚的なアプローチのほうが誤解が少なくシンプルに伝わるのです」(加藤さん)
重要なのは属性より“脳の個性”
またブランディングにおいて、重要な要素のひとつが性別です。女性の脳は男性の脳より脳梁が太く、右脳と左脳の連携度が高いなど、脳のメカニズムは男女で異なるといわれていますが、こうした性差によっても共感の仕方に違いが出るのでしょうか。
「一般的に男性は視覚的なものへの反応がよく、女性は聴覚で感じる音に反応しやすいと言われています。だって女性って、ずっとおしゃべりしているでしょう(笑)。でも、最終的にそのブランド戦略が響く、響かないは男女差というより、個々人の脳の個性、つまりどの脳番地が発達しているかによるところが大きいですね。逆にいえば、ターゲットの脳番地が発達していないところにアプローチしてもあまり意味がありません」(加藤さん)
従来は性別、年齢、職業、家族構成などの属性でセグメント化し、ターゲティングするのが一般的だったブランディングですが、脳の個性を理解することで、新しいアプローチが見えてくるかもしれません。
体験を通じて消費者の脳を働かせよう
最後に、脳科学的な観点から効果的なブランディング施策とはどのようなものでしょうか。
「まずは消費者の脳を働かせること。たとえば私は、今日着けているこのエルメスのネクタイが好きなんですけど、他のネクタイよりエルメスのネクタイのほうがいいと思うのは、脳が働いているから。脳が働くという状態になると、初めてそのモノやコト、人に対していいな、素敵だなという気持ちが生まれます。逆に言えば、脳が働かない状態の時は、ネガティブな感情しか生まれません」(加藤さん)
つまり、脳が働くか働かないかがブランドの価値を決めるのです。では消費者の脳を働かせるにためにはどうしたらいいのでしょう。
「脳の仕組みから言えば、出会い方が大事。消費者とブランドが出会ったときの印象がその後を決めると言っていいでしょう。たとえば、楽しかった旅行中にたまたま空港でブランドバッグの広告を見たとします。すると楽しかった出来事とブランド体験が組み合わさって、より強い印象が残る。脳番地でいうと、感情系脳番地と記憶系脳番地が連動することで、強く記憶されるのです。そういう意味で、ポジティブな体験をともなうブランディングは効果的ですね」(加藤さん)
たとえば店頭でコーヒーをふるまっている食料品店。こうしたサービスには、顧客の気分をよくさせることで店やスタッフへの印象がよくなり、商品に対しても好印象を持つように脳が働く効果があるといいます。けれど近年のソーシャルメディアの普及で、消費者が日々接する情報量が爆発的に増えたことに伴い、実体験が希薄になっているというのも否めません。
「確かに、人は接する情報量が増えると実体験への依存度が低下します。昔の人のほうが情報量が少なかった分、むしろ経験値が大きかったし、1日の満足度を上げるような情報処理の仕方をしていたと思いますね」
人はさまざまな経験を通じて1日の満足感が上がると、日々の幸福度も上がっていく、と加藤先生。
お気に入りのブランドを手に入れたいと思うのも、それが自分の一部になったときに心地よさや幸せをもたらしてくれるから。これからの時代のブランディングに求められるのは、単に記憶に残るだけでなく、体験を通じて消費者の脳をポジティブに働かすためのアプローチと言えそうです。
まとめ
ブランディングを行う際、どんな人に商品やサービスを届けたいのかを定めるペルソナ設定や、世界観を表現するためのビジュアル化は必須です。ブランディングでは、当たり前のことではありますが、その重要性は、脳科学の視点からも裏付けできました。
生活習慣や職業によって脳の個性が変わるということは、年齢や男女差というよりもどんな生活をしていて、どんな仕事をし、毎日を過ごしているのかという視点が大切になります。ブランディングに脳科学の視点を入れて考えてみるのも1つの手ではないでしょうか。
監修:加藤俊徳(かとうとしのり)
医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社「脳の学校」代表。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。胎児から超高齢者まで1万人以上を加藤式脳画像診断法で診断し、治療を行う。脳番地トレーニングの提唱者であり、薬だけに頼らない脳トレ処方を行う。『脳の強化書』(あさ出版)、『片付け脳−部屋も頭もスッキリする!』(自由国民社)など著書多数。
テキスト:小川尚子 作図:メルクマール
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