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  • ジャクエツが取り組む、未来価値をつくるデザインのかけ算
デザインを取り入れた組織の“動かし方” | vol.3 2021.02.18

ジャクエツが取り組む、未来価値をつくるデザインのかけ算

児玉 秀明
株式会社アマナ クリエイティブエバンジェリスト
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福井県敦賀市を拠点に、玩具から教材や遊具、園舎の建築設計に至るまで、「あそび」の環境づくりを手掛けるジャクエツ。デザイナーや建築家、研究者等との共創コミュニティ「PLAY DESIGN LAB」を立ち上げ、多様な分野の専門家とともに開発を続けています。そんなジャクエツが考える、デザインの力とは?
CDO(Chief Design Officer)の吉田薫さんを、アマナのクリエイティブエバンジェリスト・児玉秀明が訪ねました。

あそびの専門家集団がつくる、共創コミュニティ

児玉:クレヨンやハサミから園舎の設計まで、ジャクエツさんの手掛けるものは幅広いですよね。「PLAY DESIGN LAB」には、プロダクトデザイナーの深澤直人さんや、アフォーダンス研究者の佐々木正人さんなど、錚々たるクリエイターや専門家の方々が参加されていますが、この取り組みはどういう経緯で始められたのでしょうか?

ジャクエツが深澤さんと手掛けた遊具「OMOCHI」。丸みを帯びたフォルムに登ったり滑ったり、全身で形状を体感するように“つい遊んでしまう”つくりになっている。(提供:ジャクエツ)

吉田:今、子どもたちが遊んでいる玩具や遊具は、本当に良いものなのか?保育業界に限らず、クリエイターの創造性や研究者の学術的な知見も交えて、複眼的に最良の環境を考えてみたい。

そんな思いから、2004年に「D- Plan(デザイナープラン)」としてプロジェクトを立ち上げ、それが今の「PLAY DESIGN LAB」につながっています。

吉田 薫 | Kaoru Yoshida 1978年ジャクエツ入社。関東エリアでの営業店長を経て、ユニフォーム部門、顧客のCIをデザインする部門の事業部長に。2009年に企画開発担当部長に就任し、数々の新商品開発やデザイナーとの共同開発を推進。現在は、常務取締役兼CDOとして、デザインの力を活用した取り組みを進めている。

吉田:当時印象深かったのは、クリエイティブディレクター・佐藤可士和さんとの出会いです。2003年に佐藤さんが出演されたテレビ番組で、今後やってみたい仕事について聞かれた際、「今まであまりデザインの力が入っていない領域、医療とか教育とか、たとえば幼稚園などをぜひデザインしてみたいですね」とお話されていて。それならばと、その後すぐに佐藤さんに会いにうかがいました。

佐藤さんとともに新しい幼児教育の可能性を探っていける幼稚園はないか。そんな思いから、「ふじようちえん」(東京・立川市)の園長先生をご紹介し、佐藤さんディレクションのもと、建築家の手塚貴晴さん・手塚由比さん(手塚建築研究所)とともに、園舎そのものが巨大なあそび道具になる素敵な新園舎を手掛けていただきました。

その後、佐藤さんから深澤さんをご紹介いただいたり、多くの方からいろんなご縁をいただきながら、ビジョンに共感してくれる方々と取り組みを進めています。

児玉:思いが重なると、知見も人も集まりやすいですよね。まさに“かけ算”。プロダクトの開発や園舎の建築設計以外にも、デザインを活かした取り組みはあるのでしょうか?

児玉 秀明 | Hideaki Kodama 多摩美術大学卒業。1980年マッキャン・エリクソン博報堂(現マッキャン・エリクソン)入社。フリーランスデザイナーを経て、1990年にアマナグループの前身であるアーバンパブリシティに入社。長らくアマナグループのコーポレートブランディングや次世代クリエイター育成に従事するほか、企業ビジネスにクリエイティブの力を活かしていくためのノウハウを伝える活動を続ける。

吉田:2年に一度、「こども環境サミット」という展示会を開催しています。あらゆるかけ算をしていく中で、やはりその真ん中には「教育」という概念があります。私たちは文房具屋でも玩具屋でもなく、すべての創造の源となる「あそび」を育むための活動をやっている、そういう認識で、さまざまな分野の専門家の方々とご一緒させていただいています。

「こども環境サミット」では、ジャクエツの新商品発表の場にあわせて、多彩なトークを開催。2019年開催時には、教育経済学者の中室牧子さんや、世界的なマクロビオティック料理家・西邨マユミさん、神社を舞台にしたアートプログラムで注目を集める太宰府天満宮権宮司・西高辻信宏さんなど、さまざまな分野からスピーカーが集まった。

ジャクエツの考える「こども相関図」。子どもが育つ環境を、あらゆる視点から考察し、アイデアをつなげていく。
(提供:ジャクエツ)

児玉:アイデアを捜し歩き、つなげ、文化をつくっていくことも、CDOとしての大事な仕事というわけですね。

吉田:私はもともと営業畑で、人に会いに行くことも好きなので、性分にあっているのかもしれません(笑)。今年も5月にサミットを開催予定で、また新たな方々との取り組みが始まりそうです。

大正5年、いろがみづくりからスタートしたジャクエツ

児玉:今年で105周年を迎えられたわけですが、「子どもたちのために」というキーワードは創業当時からあったのでしょうか?

吉田:ジャクエツはもともと、創業者の徳本達雄が、大正5年に福井県敦賀市に設立した早翠(さみどり)幼稚園で使用する教材を自前で開発・製造したことから始まっています。

まだ幼稚園が少ない時代、当時23歳で浄土真宗の住職だった創業者が、“日本のアンデルセン”と呼ばれた児童文学者・久留島武彦さんに影響を受けて開園しました。

ジャクエツの「いぬはりこ」マークは、子どもの守り神「犬張子」をモチーフに、久留島武彦が敦賀を訪れた際に描いたものがもとになっている。久留島は「桃太郎主義」という児童教育観を掲げ、桃太郎が自分と異なる犬、猿、雉と仲良くなって力を合わせて困難を乗り越えていくように、互いの違いを認め合って共に生きていこうという考え方を提唱。伝統を未来に受け継ぐべく、2019年にグラフィックデザイナーの佐藤卓さんにより現在のかたちにリデザインされた。

児玉:なるほど。寺子屋的な発想から始まっているんですね。

吉田:当時はモノのない時代でしたが、福井県は越前和紙の産地であったことから、高品質な和紙を使ったいろがみなどをつくって販売していたようです。創業当時から、自社生産し、直販体制でお客さんと向き合っていくやり方は変わっていません。

児玉:大人でさえマーケティングは難しいのに、子どものマーケティングは尚更に難しい。そういう意味でも、直販体制で現場からフィードバックをもらうことは大切ですね。

吉田:全国67箇所の直営店で、自社営業社員が現場のフィードバックをダイレクトに持ち帰ります。また、グループで運営する4つのモデル園で試作品の安全性や耐久性テストを行い、開発に活かしています。

児玉:開発の拠点は福井に?

吉田:福井と東京の両方にありますが、2019年に福井本社工場内に「INUHARIKO LAB」を設立し、現在はここを主な開発拠点としています。豊かな自然の中で、ものづくりや検証の現場に触れたり、アーカイブを通してものづくりの歴史を感じたり。日々さまざまな刺激を受けられる環境の中で開発を行うことで、新たなクリエイターの方々とご一緒する際にも、会社の思いをうまく伝えられる効果もあると思っています。

1Fには歴代の製品がアーカイブされ、2Fには本社の開発チームが集結。アイデアを工場エリアですぐにプロトタイプに起こせる環境が整っている。

外壁には、コンセプチュアル・アーティストのローレンス・ウィナーによる作品が描かれ、工場内にもさまざまなアーティストの作品を展示。働く人にとっても刺激的な環境の中で、日々新たな「あそび」が生み出される。
(提供:ジャクエツ)

児玉:「環境が人をつくる」とも言いますが、アイデアが生まれる環境や働き方をつくっていくことも大事ですよね。

活動の意味を言語化し続けることで、文化は育まれる

児玉:ジャクエツさんの企業文化として、「社員一人ひとりの人格的成長が会社の発展を生む」という儒教的な考え方が垣間見えます。社内のコミュニケーションで心がけていることはありますか?

吉田:我々は、「子どもたちの未来のために」という目的のもと、クレヨンから遊具、園舎まで扱っているので、一見何の会社かわかりづらいんです。それを日頃から社員も意識して考えることが重要で、今自分がしている仕事は何なのか、ジャクエツとはどんな存在なのかを表現し、言語化していくことは大切にしています。

ジャクエツのものづくりを一枚絵で表現した「エントリーブック」。ビジュアルで直観的に認識でき、会社案内資料として活用されている。

全社員が携帯するクレド。「私たちの使命」の横にはその年の努力目標が記され、開いた中面には行動指針・行動規範が記載されている。

吉田:行動規範は「ジャクエツ・ベーシック」とも呼んでいますが、これを毎日、朝礼で読むんですよ。自分は何に向かって仕事をしているのか、私たちの使命は何なのか。目の前の仕事に集中してつい視点が狭まってしまいがちですが、毎日続けていると、考える習慣を体で覚えていくんです。

児玉:こうやって受け継いでいくからこそ、100年企業になるわけですね。「ベーシック」という言葉にも表れていますが、それをいかに日常的に、自然に行動に移せる文化をつくっていけるか、というところは大事ですよね。

吉田:「デザイン経営」とよく言われますが、デザインを導入したから会社が発展していくわけでも、売上があがるわけでもない。あくまで私たちは、「子どもたちの未来価値をつくっていく」という目的のためにデザインはどうあるべきかを追求してきたのだと思っています。

児玉:デザインの取り入れ方も企業によってさまざまですが、ジャクエツさんの場合は、デザイナー個々人の能力云々というよりも、吉田さんが中心となってあらゆるかけ算が起こっていくことがエコシステムになっている、そういう印象です。

吉田:子どもにとって「あそび」は生活そのものです。だからこそ、あらゆる分野とのかけ合わせが重要で、社会をより良くするためには、やっぱり子どもたちの環境を整える必要がある。

できるだけ安全で質の高いあそび環境をつくっていきたいですし、それがジャクエツの使命だと思っています。まだまだ活動領域としては小さいですが、これから少しずつ領域を広げていきたいですね。

 


 

子どものためのモノをつくるメーカーから、「あそび」を通して未来をつくる企業へーー。時代に応じて形を変えながら創業時の思いを受け継いできたジャクエツ。

事業や組織の姿かたちが変わっていくと、自社は果たして何屋なのか、ビジョンなきままに競争力を失っていく企業もあるでしょう。

「かけ算」で広げ、「言語化」で立ち返る先をつくるというジャクエツの取り組みは、一人ひとりの社員が目の前の仕事と社会との関係性を意識し、その集合体として企業文化を育んでいくことを考えるうえで、一つのヒントとなりそうです。

撮影[top]:広光(UN)
レタッチ[top]:カワノミオ(amana)
AD[top]:片柳 満(amana)
撮影[interview]:Kelly Liu(amana photography)
文・編集:高橋 沙織(amana)

Contributor:広光|Hiromitsu(UN)

宙を舞う、煌めくアクリル文字を真俯瞰から撮影した今回のビジュアル。
文字も、ある意味では人がコミュニケーションすることに最適化されたデザインであり、良いデザインとは、文字や言葉のように無意識に私たちの日常に溶け込むものなのかもしれません。だからこそ、文字をあえて立体で表現し、光をあてて角度を変えて見てみることで、“デザインされたもの”であることに意識的になってみたい。そんな思いを込めています。
amana visual | 広光

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