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  • 日本のコンテンツマーケティングに欠けているものは何か
2021.10.19

日本のコンテンツマーケティングに欠けているものは何か

大谷 和利
テクノロジーライター / ITジャーナリスト、AssistOnアドバイザー
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特にBtoB領域においては、日本の数年先を行くといわれているアメリカのコンテンツマーケティング。世界標準に追いつき、変化の激しい時代に着実に成果をあげていくためには、どのようなマインドセットが必要なのでしょうか。海外のマーケティングトレンドに詳しい、ITジャーナリスト・大谷和利さんの寄稿をお届けします。

コンテンツマーケティングこそマーケティング

世界的な視野で俯瞰すれば、コンテンツマーケティングは、すでに、マーケティング活動の一部という扱いではなく、「コンテンツマーケティングこそがマーケティングである」といえるほど常識化している。そうなった背景には、消費者の心情的な理由と、昨今のプライバシー重視の流れがある。

具体的には、消費者はデジタル技術の発達によって容易になったプッシュ型の広告配信などに不満を持っており、それと対局に位置するプル型、すなわち積極的に閲覧したくなる情報を揃えて自発的にWebサイトを訪れてもらうスタイルのマーケティングのほうが、長い目で見てコンバージョンに有利だとわかったことが1つ。

そして、Webブラウザ用のいわゆる広告ブロッカーが普及したり、Apple製品のようにトラッキングを防ぐ仕組みを標準で用意するケースも出てきたことから、早晩、従来方式のマーケティングでは行き詰まることが明らかになってきたというわけだ。

日本の企業でも、コンテンツマーケティングを意識したマーケティング戦略を採っているところはあるものの、多くはまだそのような自覚に乏しく、製品やサービスそのものを主体とする、旧来の広告的なマーケティングに終始している感が強い。ここでは、日本のコンテンツマーケティングに欠けている要素を挙げ、世界標準に追いつくためのポイントを明らかにしていく。

「オウンドメディア=コンテンツマーケティング」ではない

読者の皆さんはすでにご存知のことと思われるが、コンテンツマーケティングとは「顧客にとって価値のある情報や興味を惹く情報をコンテンツとして提供することによって、企業やブランドへの信頼感を高めて熱心な支持者になってもらい、最終的に自社製品やサービスの購買につなげる」というマーケティング手法である。

しかし、これは日本に限らないが、コンテンツマーケティングが主流化する以前のマーケティングの軸が広告にあったため、今もそうしたマインドから抜け出せない企業が存在する。その場合には、意識するしないにかかわらず、自社の商品や技術を主体にした情報発信を行ってしまう可能性が高い。

この違いを端的に示すのが、先進的な欧米のBtoB企業のコンテンツマーケティング戦略だ。たとえば、企業向けにBtoBのビデオホスティングサービスを提供し、すでに375,000社ものクライアントを有するWISTIAは、企業マーケティングにおける映像コンテンツの重要性をアピールすることで、最終的に自社サービスを利用してもらえるよう誘導することに成功した。

トップページにもガイドブックや動画へのリンクを用意し、”Consider us your personal video marketing encyclopedia”(私たちのことを、あなたのためのビデオマーケティング辞典だと思ってください)というコピーを配しているほか、Leaning CenterやOriginal Seriesという独立したセクションで企業が興味を持ちそうな映像関連の情報提供を行い、自社を映像のエキスパートとして位置付けている。

独自のビデオやポッドキャストのシリーズによって映像に関する有用な情報提供を行い、顧客との信頼関係を築いている企業向けビデオホスティングサービスのWISTIAは、BtoBのコンテンツマーケティングの好例といえる。

具体的には、Leaning Centerではマーケティングや映像制作のヒントになるブログの提供をはじめ、顧客事例、および自社の企業文化などを紹介したり、Original Seriesではシリーズ化された独自のビデオとポッドキャストを用意して、自社サイトを訪れるリピーターを増やしている。後者は、どれも3分から30分ほどで視聴できるようにし、WISTIAのCEO自身がスピーカーやインタビューのホストとなって、顧客企業のCEOをゲストに迎えるなど、魅力的なコンテンツが満載だ。

さらには、それぞれのコンテンツの更新の知らせを受け取りたい人に、名前とメールアドレスを登録させることで、誰がどの分野に興味を持っているかを把握できる仕組みになっており、その情報が自社マーケティングにも活かされている。

広告マインドが起点となったWebマーケティングは、「既存メディアでの広告展開よりもコストをかけずに済む」という点に意識が向かいやすく、「オウンドメディアを構築して製品・サービスに関する情報発信を行いさえすれば、コンテンツマーケティングになる」という誤った認識につながりがちだ。

しかし、実際のコンテンツマーケティングでは、製品やサービスに関する情報提供よりも「顧客との信頼関係の確立が優先される」ことはいうまでもない。そのためには、以下のアンディ・クレストディナによる「コンテンツマーケティングの元素表」が示すように、オウンドメディア以外のペイドメディアやアーンドメディアも有効に活用しながら、自社に最適のバランスを見つけることが求められる。

ひと口にコンテンツといっても、これだけの切り口があり、それぞれに固有の役割がある。コンテンツマーケティングを成功させるには、これらペイド、オウンド、アーンド、それぞれのメディアをバランスよく利用することが求められる。

このことから、アメリカでは、ペイド(P)、オウンド(O)、アーンド(E)メディア(M)の頭文字を採って「コンテンツマーケティングはPOEM」と表現されることもあり、ポエム(詩)のように研ぎ澄まされ、しかも過不足のないセンスを以って、積極的なメディアのブレンドに基づいたコンテンツの重層的な発信が重要となるのだ。

DXと同様の誤解がある

コンテンツマーケティングは、広告とは違い、着手から成果をあげるまでにそれなりの時間がかかる。また、POEMのすべてをバランスよく満たすこと自体、一朝一夕に達成できるものではない。加えて、DX(デジタルトランスフォーメーション)でつまずく企業があるように、どうしても、その名称に惑わされて、本質を見失ってしまうケースがある。

DXにおける失敗が、XではなくDへの偏り、つまり「デジタル化すればよいのだ」と勘違いして、変革を実現するための根本部分の見直しがなおざりになることに起因するように、コンテンツマーケティングも、単に「コンテンツを継続的に用意すれば機能する」わけではなく、あくまでも「マーケティング施策だという前提を忘れない」ことが必要だ。

この意味で、見込み客であるリードを増やす集客目的のコンテンツも重要だが、それ以上に、「最終的なアウトプットとなるコンバージョンにつながるファネルの下位の部分からコンテンツを組み立て、リードの育成と選別のための道筋を立てておく」ことが最も大切だといえる。

この点が押さえられていれば、リードが育成されているか、選別が進んでいるかなどの測定を行うことで、成果につながるまでに多少時間がかかったとしても、それを正当化するだけの理由づけが可能となるはずなのである。

加えて昨今のように予測が難しい社会情勢においては、市場や顧客のニーズの変化に合わせて、アジャイルにコンテンツの構成や内容を柔軟に変えていくことも求められる。このあたりの世界的な潮流に関しては、先日アメリカで開催されたコンテンツマーケティング系カンファレンス、Contents Marketing Worldでも語られており、今回の記事に続いてカンファレンスのレポート記事を公開予定だ。

すべての要素の整合性を重視する

コンテンツマーケティングを自社のマーケティング戦略に採り入れる際にありがちなのは、とりあえず部分的に採用して様子を見ようとすることだ。確かに、新しい施策をいきなり全面的に採用するという考え方に抵抗がある点は理解できる。しかし、現実は、そのような部分的な採用ではマーケティング全体を通じて顧客/見込み客に伝えるべきメッセージが曖昧なものとなり、結局はうまく機能しなくなってしまう。

コンテンツマーケティングにシフトする際には、その規模の大小に関わらず、また、最初からPOEMのすべての要素を満遍なく揃えることが叶わないとしても、マーケティング施策のすべてにおいて、コンテンツマーケティングを念頭に置いた整合性を常に意識することが必須条件となる。そうでなければ、有望なリードを獲得して、優良な顧客へと育成していくことは難しいのだ。

その意味で参考になるのは、日本国内でのベストプラクティスを選定した資料「25 Featured Content Marketing in Japan:今注目の国内コンテンツマーケティング25選」である。ここにリストアップされた企業でも、POEMのすべてを満たしているケースはないのだが、特に充実が見られる領域を「コンテンツマーケティングの元素表」に基づくアイコンで示したことで、日本型のコンテンツマーケティングの姿が浮かび上がっているといえる。

「25 Featured Content Marketing in Japan:今注目の国内コンテンツマーケティング25選」では、日本国内におけるコンテンツマーケティングのベストプラクティス25例を紹介している。

【PDFをダウンロードする】

自社に近い業態の企業の例を参照して、その根本にある考え方を学び、元素表の穴を埋めていくことが、コンテンツマーケティングを始める、あるいは完成させるうえでの早道となるだろう。

根底に求められる意識改革

実際に企業のコンテンツマーケティングに関する取り組みについて取材すると、たとえば、広報部門が本来の意味合いに沿って推進しようとしても、製品やサービスそのものをアピールしたいセールス部門や、技術的な優位性を主張したい開発部門が、それぞれの思惑に基づく情報発信を要望して、伝えるべきブランドメッセージにぶれが生じるケースも少なくない。

たとえば、公にできる範囲では、筆者がイギリスで取材したエネルギー企業のロイヤル・ダッチ・シェルの例で、技術部門が北海油田などで石油を採掘している写真を記事などで掲載して欲しいとブランドマネージャに依頼してきたことがあった。しかし、ブランドマネージャは、油まみれの採掘現場のイメージがブランドメッセージとして相応しくないと判断して拒否。自社のエネルギー供給によって団欒を楽しむ家族の写真などに置き換えたのである。

この他にも同社では、利用するすべての写真に、コーポレートカラーである赤と黄色をイメージさせる要素を入れ込むなど、潜在的な認知領域に至るまでブランドを意識させる工夫を盛り込んでいる。こうしたエピソードは、コンテンツマーケティングの意義の1つでもあるブランディングにおける写真の重要さに着目した拙著『成功する会社はなぜ『写真』を大事にするのか?』(講談社)に詳しいので、興味のある方は、ご一読されたい。

また、すでに様々な分野で、モバイル状態にあるユーザーを念頭におくモバイルファーストの考え方が浸透しているが、これは当然のことで、約79億人という地球の全人口に対して、スマートフォンの台数は64億台にも達しており(※1)、1人で複数台を所有している場合もあるものの、数字の上での普及率は80%を超えているのだ。

さらにアメリカの場合には、インターネットユーザーの8割がネット検索をモバイルデバイスから行い(※2)、たとえ実店舗内で目の前に実際の商品や係がいる場合にも、その商品情報をスマートフォンから取得するという割合が7割弱に達している(※3)。さらに、モバイルサイトのユーザー体験が悪ければ、ライバルの商品やサービスに乗り換えるというユーザーも半分近くいるとの調査結果も出ている(※4)。

このようなトレンドが日本でも普通になっていくことを考えると、コンテンツを発信するためのWebページは、あらゆるデバイスでレイアウトを崩さずに表示できるというレベルではなく、モバイル状態でこそ優れたユーザー体験が得られるような構成が求められる。

そして、グローバルコンテンツサービス企業のStudioIDによる調査では、コンテンツマーケターの60%が、2022年にはより多くのポッドキャストを利用するようになると回答している(※5)。ポッドキャストは、日本では今ひとつ普及していない感もあるが、「コンテンツマーケティングの元素表」ではリードの獲得や育成に有効な手段と位置付けられる情報チャネルだ。そして、通勤途中などのモバイル状態でも容易に利用できるメディアであるため、欧米企業に倣って積極的にコンテンツ発信に活用していくべきだろう。

さらに、すでにモバイルデバイスからのネット検索の2割が文字入力ではなくボイスによって行われ、特にティーンエイジャーは過半数が毎日ボイスサーチを利用するようになっている(※6)。このことを考えれば、今後はWeb上の問い合わせ窓口をAIによるボイス対応として迅速に応答し、AIでは解決できない問題を人間の担当者に回すようにすることも、顧客満足度をアップしてブランドに対する信頼感を高めるうえで有効といえる。

いずれにしても、こうした施策を徹底するには、すべての部門がコンテンツマーケティングの本質を理解し、同じ意識の下で協力する体制づくりや、場合によっては企業カルチャーの根本からの見直しが必要となる。そのためには、社内セミナーなどによって、コンテンツマーケティングの意義や必要性を周知させることも考えておきたい。

先進的な企業は、すでにコンテンツマーケティングの延長として、ブランドそのものの価値観を見込み客に浸透させることによって、購買サイクルの節目で自社の製品やサービスを自然に選択してもらうための「ブランドパブリッシング」に取り組み始めており、この手法は特にBtoB企業と顧客の関係を深めていくうえで有効とされている。

このような中・長期的な展望を持ってマーケティング戦略を推進するためにも、コンテンツマーケティングは、担当部署のひとり相撲ではなく、全社的なコンセンサスに基づいて、様々なメディアを統合的に利用しながら戦略的に行っていくことが重要なのである。

※1…調査会社のStatistaによる調査
※2,4,6…マーケティング会社のQuoracreativeによる調査
※3…デジタルマーケティング会社のeMarketerによる調査
※5…グローバルコンテンツサービス会社のStudioIDによる調査

制作[TOP]:ROSLEY(EyeEm/amanaimages)

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