メタバースは、デジタルマーケティングが抱えるプライバシー問題の突破口になり得るか
近年、デジタルマーケティングを考える中で中心課題に据えられている、プライバシー問題。メタバースの概念が広がり、マーケティング戦略に取り入れる企業も増えてくる中、私たちはこの課題をどのように捉えるべきなのでしょうか。Marketing Dive(アメリカのマーケティングメディア)のAsa Hikenによる解説記事でお届けします。
メタバースは、デジタルマーケティングが抱えるプライバシー問題の突破口になり得るか
現在、マーケティングでもっとも注目されている分野の一つである「メタバース」。急成長を遂げるなかで、消費者にとって看過できないプライバシー問題に関する懸念の声も多くあがっています。マーケターは、拡張現実(AR)や仮想現実(VR)に関する技術的知識の欠如、進まない規制政策、そして消費者の懐疑的な見方といったさまざまな課題に向き合いながらも、メタバースの社会的関心レベルをより押し上げていくためには、今こそメタバースにおけるプライバシー問題について真剣に議論する必要があります。
多くの課題を抱える一方、一部では、メタバースがプライバシーに準拠したデジタルマーケティングの突破口になるかもしれないとも言われています。その理由は、ユーザー同意の必要性やユーザーコミュニティへの傾聴の重要性など、従来のデジタルマーケティングから学んだ教訓をメタバースプラットフォームの開発に適用できると考えられているためです。また、メタバースは、まもなく訪れるサードパーティCookie廃止後の世界で、よりプライバシーに配慮した代替のトラッキング手段をもとに、新たな仕組みの構築を図るための土壌になり得ると考えられているのです。
「ブランドにとって、メタバースは“Wild Wild West(未開の地)”のようなもの。インターネットの仕組みを理解し、そこに従来のデジタルマーケティングからの教訓を掛け合わせて、メタバースの概念を自社の取り組みに適用する方法を考えましょう」と、Jam3(トロントを拠点とするエージェンシー)の戦略ディレクターであるRachel Noonan氏は語ります。
新たなプラットフォームにおいて広告主が消費者に与える影響を考えるうえで、メタバースの開発は、これまでのインターネットの発展と同じような道をたどっています。したがって、プライバシーに関する議論は先行して進めるべきだとNoonan氏は強調します。
歴史は繰り返されるもの。Meta(旧Facebook)は、ソーシャルメディア同様、メタバースでも支配権を狙っています。しかし、Web2.0で起こったように多くの企業が同じように消費者へ不信感を抱かせてしまうと、メタバースの真価が発揮されず台無しになる可能性もあるでしょう。
では、いかにしてこの不信感を払拭しながらいち早くメタバース領域に取り組み、他社や消費者の正しいアクションを促していけるでしょうか?
Cookieがなければ、問題は起きない
メタバースにおけるプライバシー問題は、Cookieの非推奨と関係します。というのも、Googleはこのトラッキングメカニズムを2023年までに段階的に廃止すると発表しており、それが、メタバースの主要な機能が一般化するまでの開発時期とほぼ一致しているためです。
これは、Cookieがもはやオプションとして存在しなくなった後、メタバースが、コンテクストマーケティングをはじめとする、より安全なトラッキング方法を加速させる概念になることを意味します。
「メタバースの台頭とそれに関する多くの話題で議論が盛り上がっている背景には、メタバースが何らかのかたちでCookie非推奨の論理的帰結になっていると考えられているためです」と、Aqilliz(マーテック企業)のCEOでWPPの元グローバルクライアントリードであるGowthaman Ragothaman氏は述べます。
ユーザーは各セッションでメタバースに入る際、その都度オプトインしなければなりません。このプロセスは、AppleのApp Tracking Transparency(ATT)フレームワークの根底にある考え方と似ています。つまり、ユーザーが許可し、データの使用方法について理解していることが前提にあるということです。
「消費者は繰り返し体験を求めますから、その都度、データの使用について尋ねることもできます」。
Noonan氏によると、消費者はパーソナライズを望んでいながらも、侵襲的な方法は望んでいないという押し問答が、新しいプライバシーパラダイムの中心になっているといいます。メタバースにおけるマーケティングを検討する際には、透明性と同時に、消費者が理解できるデータ戦略も構築しなくてはなりません。
「家を建てるときには必ず基礎を作りますよね。木とレンガだけで建てようとしたとしたなら…その家は頼りないものになってしまうでしょう」とNoonan氏は言います。
メタバースを成功させるポイントは「コミュニティ」と「ユーザーの同意管理」
これまでのデジタルマーケティングの取り組みを通じて、ブランドは、ユーザーコミュニティを優先したアプローチがプラットフォームへの信頼構築に役立つことを学びました。例えば、TikTokでは、オーガニックコンテンツの一部かのように見えるマーケティングアプローチによってエンゲージメントを高める「コミュニティベース・コマース」によって、ブランドは成功を収めています。
メタバースソーシャルネットワーキングサイトのIMVUを運営するソフトウェア会社・Together Labsのマーケティング担当副社長、Maura Welch氏は、メタバースにおいてもユーザーを意思決定プロセスへと誘導するアプローチを用意すべきだと述べます。
「“何がクールなのか”。それを決めるのはユーザーコミュニティです。“何がクールなのか”についてコミュニティも巻き込んで会話していく。これこそが、ブランドがメタバースにアプローチすべき方法です」とWelch氏は言います。
例えば、春のファッションショーにおいてIMVUは、現実世界のデザイナーたちと同社のプラットフォーム上の3Dクリエイターをペアリングし、ユーザーが実際に購入できるアパレルラインを共同開発。また、IMVUのコミュニティからプロデューサーを起用し、イベントを盛り上げました。
「ブランドと直接交流を持ち、そのアイテムを身に着け、自分が尊敬する人や著名な人たちと一緒にデザイン・共同制作したメタバース空間を歩くという体験は、これまでにない特別な体験になるでしょう」とWelch氏は言います。
コミュニティの構築・運営と同様、ユーザーから同意を得ることは、デジタル空間で信頼関係を構築したいブランドにとって欠かせない要素です。しかし、これまでにFacebookのような企業がユーザーの同意を繰り返し悪用しているため、消費者はプライバシー慣行に警戒し、不当な扱いを受けたと感じた場合、他のプラットフォームを選ぶようになります。
「消費者は自分のデータが悪用されていると気付いた瞬間に不信感を抱きます。消費者の信頼を裏切るような行為をしないよう、ブランドは細心の注意を払わなければなりません。さもなくば、あっという間に信頼関係は崩れてしまうでしょう」とRagothaman氏は言います。
ブランドは、CRM(顧客管理システム)と同じように、ユーザーに関するデータを記録しておくべきです。そこで蓄積されたユーザーデータは、ブランドが規制政策を始動させる際に、役立つ可能性があります。実際、EUではCRMプラットフォームを使用することが、一般データ保護規則(GDPR:General Data Protection Regulation)に準拠するうえで有効な手段とされています。
主流なメタバース空間への参入方法の1つであるNFT(Non-Fungible Token /非代替性トークン)は、メタバースにおけるユーザーの同意管理がどのように改善され得るかをわかりやすく示しています。ブロックチェーンの背後にあるテクノロジーがデジタル世界でより安全な取引を可能にし、流動的かつ保護された方法で商取引を行う手段を提供してくれるとRagothaman氏は述べています。
メタバースが発展していくと、安全なNFTウォレットを可能にするブロックチェーンテクノロジーがデータウォレットを正規化できるため、消費者は体験やコレクション、その他の資産と交換したいデータのビット(断片)にスムーズに同意できるようになる、とRagothaman氏は述べています。
「メタバースはこれらすべてを提供します。今よりはるかに優れた方法で消費者データを活用できるのです」。
分散型か、それとも集中型か
もう1つの教訓は、「壁に囲まれた庭(GAFAを指す、客の囲い込みを意味する)」は、すべての関係者にとって厄介だということです。 FacebookやGoogleなど、一部の堅固な企業はインターネット上の集権化による恩恵を受けますが、他のマーケターには消費者の行動を読み取りづらくさせ、消費者は必然的に関連性の低い広告を目にすることになります。そうした理由から、メタバースは、ブランドにとってより分散化された広告環境を形成する機会になり得ると考えられているのです。
「囲い込みは、消費者に緊張と摩擦をもたらします」とNoonan氏は言います。
多様なプラットフォームが互いに会話し合い、消費者が往来できるメタバース空間が理想的である、と同氏は加えました。集権化された環境は、1つあるいは複数の場所で特定かつ厳格な規則が設けられており、流動性がありません。
インターネットの発展と同様、法律や政策によってこのナビゲーションがどのように機能するかが決まります。それまでの間、マーケターは法整備を待つのではなく、積極的に戦略を練る必要があります。
例えば、何がプライバシーを遵守しているとみなされ、何がそうでないかについて、詳しい知見を有した企業と提携することは、ブランドがメタバースで時代を先取りするうえで役立つだろうとNoonan氏は述べています。
Electronic Frontier Foundationは、ブランドにとって有益なデータを膨大に保有するグループの1つです。また、メタバーサルテクノロジーのプライバシー問題についてこの記事で具体的に書いています。そのほかにもNoonan氏は、メディア擁護団体のHarmony Labsと、デジタル空間の未来について専門家の意見をまとめているPew Research Centerも例にあげています。
既存の製品に新しい規制を後付けすると膨大なコストがかかるため、ブランドは連携や今後の取り組みについて早急に検討を始めるべきだとNoonan氏は言います。しかし、仕事とタスクフォースを再構築すると、既存の製品開発に影響を与えることも考えられます。そのため、すでに仕組みを持つ企業との連携がカギとなるのです。
メタバースの発展に向けた課題は、集権化だけではありません。VRプラットフォームを試すことへのためらいや、メタバース空間に関する技術的知識不足など、消費者の信頼獲得に向けての障壁はまだまだ数え切れないほどあります。ブランドが成長していくには、デジタルマーケティングの進化を振り返り、そこから得たインサイトを活用して、メタバースに落とし込むことが重要なステップになるのです。
「この数年間にデジタルマーケティングで学んだことを全て活かし、人々が望むものを、望む方法で、望む場所に、しかし人々が安全だと感じる場所で提供できるようなパラメーターを設定しましょう」とNoonan氏は呼びかけます。
元記事「Why the Metaverse Could Be a Breakthrough in a Privacy-Compliant Digital Marketing」は2021年12月16日にspringboardに掲載されました。
この記事は、MarketingDiveのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。
撮影[top]:Addictive Stock Creatives(EyeEm / amanaimages)