『MilK』『北欧、暮らしの道具店』が語る、成功するコンテンツ

こんにちは。アマナの星本です。

多くの企業がオウンドメディアやSNSを運営するなか、購買や会員登録といった具体的な成果を得るためには、消費者の心を動かすコンテンツが欠かせないものになっています。企業に求められるコンテンツ力とは、どんなものなのでしょうか? また、コンテンツはどのように進化していくべきなのでしょうか?

そこで2017年6月6日(火)、コンテンツマーケティングでECビジネスを変えたと言われる『北欧、暮らしの道具店』を運営するクラシコムの代表取締役・青木耕平さんと、フランスの人気キッズファッション誌『MilK』の編集長を務めるイジス・コロンブ・コンブレアスさんをお招きし、セミナー“『MilK』『北欧、暮らしの道具店』が語る、いま企業に必要な「コンテンツ力」とは”を開催。

コンテンツの役割や効果、またコンテンツそのものの作り方まで、企業に求められるコンテンツ力についてお2人にお話を伺いました。

コンテンツの役割は何か

星本和容(以下、星本):最初のテーマは、コンテンツに求める役割についてです。『北欧、暮らしの道具店』ではコンテンツを作る際に、トレンドや話題性といったものを意識されていますか?

青木耕平さん(以下、青木。敬称略):私達は物販会社なので、コンテンツをお客様と継続的に関係を築いていくためのコミュニケーションツールとして捉えています。ニュースメディアなどと比べれば、トレンドや話題性を意識することは少ないかもしれません。

私達がコンテンツで成し遂げたいのは、満足度の高い美容師やマッサージ師のようなサービスです。腕のいいマッサージ師の施術を受けると「自分のことをわかってくれている」「自分が大事にされている時間を持てた」といった感覚になりますよね。

コンテンツもそれと同じで、ものすごくセンセーショナルで「何か新しいことを教えてくれた」というよりは、読んだ人が「自分のためのコンテンツ」と感じられるものが理想です。そうしたコンテンツを発信し続けていくことで、いずれお客さまがほしいものに出合ったときに「あのサイトで買おう」と思う関係性ができていくのだと思います。

星本:話題性より共感が大切なんですね。『MilK』の場合はどうでしょう?

イジス・コロンブ・コンブレアスさん(以下、イジス。敬称略):私達はまた少し違う立場にあるかもしれません。『MilK』は主にファミリーを対象に、現代生活におけるインスピレーションやアイデンティティを得るためのヒントを提供するメディアです。創刊から13年にわたって世界中のさまざまな家族やカップルを取材してきました。

パートナー企業が「この商品を売りたい」というときは、ただそれを取り上げるのではなく、国ごとの生活スタイル、価値観の違い、気候、人々の考え方などをふまえて、コンテンツを通じて読者に提案します。商品単体ではあまり魅力がないものも、相手(読者)を介在させることで魅力が増します。その両者をつなぐのがコンテンツの役割だと思います。

コンテンツの目標設定をどこに置くか

星本:コンテンツを作るうえで、数値目標、たとえばKPIなどは設定していますか?

青木:PVやシェア数など見られる数字はすべて見ます。でもその数字でコンテンツの担当者を評価したりすることはありません。

私達が重視しているのは2つ。1つは読了率です。どれだけたくさんの人に読まれたかより、読んでくれた人が満足したかどうかが大事。コンテンツ全体の平均の読了率が私達の考える適正値にフィットしているかどうか、常にチェックしています。

もう1つ、これは私たちの唯一のKPIなのですが、「過去20回以上サイトを訪問した人の割合が50%前後をキープしたまま、絶対数が毎月純増しているか」です。つまり常連=ロイヤルカスタマーが増えているかということですね。

もちろんただ常連が増えるだけではダメで、たとえば20回以上訪問した人の割合が70%を超えるということは、伸びしろが縮まってきているということ。あくまで全体の割合は50%前後のまま、絶対数としては増え続けているという状態が理想です。

コンテンツに求めてはいけないものは?

星本:では、コンテンツを作るうえで求めていないもの、求めてはいけないものというのはありますか?

青木:どれくらいたくさん読まれるかという観点では、コンテキスト(文脈)の薄いもの、つまり予備知識がなくても楽しめるコンテンツの方が多くの人に届きやすいのは事実です。

たとえば整理整頓術やレシピの記事は、ほとんどの人が関心を持つテーマです。私達がどんなメディアを作っているか、どんなコミュニケーションをしているかということを知らない人でも楽しめます。

でも、まだ同じ文脈を持つに至っていないお客様は、私達の商品を買ったり、他の人に薦めたりという、事業に対してインパクトを与える行動を取ることがほとんどないんですね。

その点でたとえコンテンツのPVが少なくなったとしても、ハイコンテキストなコンテンツを一定割合盛り込みながら、文脈・価値観を共有できる人を増やしていくことを目指しています。

『北欧、暮らしの道具店』に掲載しているスタッフの所感や社内風景の紹介は、私達のメディアを知らない人にとってはつまらないかもしれませんが、そういった意味で必要なんです。多くの人に受け入れてもらいやすいコンテンツのみを出すことは考えていません。

どうやってコンテンツを作ればいいか


星本:では、コンテンツの作り方について伺います。『MilK』はキッズファッション、ファミリーライフスタイルの分野でヨーロッパでは確固たる地位を築いていますが、具体的にどのような手順でコンテンツを作っているんですか?

イジス:金(Gold)を探す方法と似ているかもしれません。まず何か特別なもの、素敵なもの、他にないものを作る人を見つける。それにカメラマンが付く。ストーリーを作る編集者が付く。さらにPinterestなどのSNSで発信する担当者が付くという形。

順序としてはまず『MilK』が時代性や季節に合わせて、どこかにある“原石”を探し、フリーランスのクリエイターを含めてそれを消費者に届けるためのスタッフを加えていきます。

先ほど申し上げたように、13年の間、社会学的なもの、世界の異なる人々の動向、生活者のニーズなどを見てきました。スタッフに対しては、数字だけを追うのではなく、フィーリングやイメージを大事にしながら、企業のニーズに対して「このような読者にこういうニーズがある」といったアドバイスを行うようにしています。

その際、大切にしているのは「ビジュアル」。Webでも雑誌でも、ビジュアルとデータ、インスピレーションを連動させつつ、どんなコンテンツに結びつけるかを考えています。

そして、我々がメディアとして表現するときには、必ずポジティブなイメージを用意しておきます。読者に対しても、企業に対しても、です。『MilK』のアイデンティティとして、クオリティの高さがあります。アート的な部分においても文化的な部分においても、望んでいるクオリティが保てるものを作るようようにしています。


星本:一方で『北欧、暮らしの道具店』ではほとんど社内でコンテンツを作っていると思います。内制にはどういった理由・メリットがあるのでしょうか?

青木:記事作成、撮影、デザインまでほとんど社内でやっています。ほぼ全員未経験からのスタートで、社内で教育してコンテンツクリエイターに育てています。理由は、私達のコンテンツは表現やオピニオンのためにあるわけでなく、あくまでお客様とのコミュニケーションのためにあるからです。

たとえば新聞や雑誌などのメディアは客観的な視点が第一です。主観で語ったり、個人的な意見を盛り込んだりするのは、どちらかというと稚拙なこと、恥ずかしいことと捉える傾向がありますよね。それに対してコミュニケーションは相手の顔が見えるのが前提なので、主観で語ることが欠かせません。

他のメディアで編集経験がある方にこれまで恥ずかしいと考えてきたことをやってもらうより、何もできない人をできるようにする方が簡単で、コストもかからないんです。

星本:なるほど。先ほどおっしゃっていた美容師やマッサージ師の話と通じるところがあるかもしれませんね。

企業に求められるコンテンツ力とは?

星本:最後のテーマはずばり、企業に求められるコンテンツ力とは?です。

イジス:以前、ロレックスと仕事をしたことがあるのですが、フランスではロレックス=富裕層向けブランドというイメージで、あまりファッショナブルな印象は持たれていません。そこで私たちは有名なデザイナーや建築家にインタビューを行い、コンテンツを作りました。

インタビューのテーマは最近のトレンドや“時”に関すること。時計に関しては一切触れず、写真もロレックスのきらびやかなイメージとは対極のモノクロで撮影することで、「ロレックスがこんなメッセージを送るんだ……」という意外性を与え、反響を得ました。

コンテンツの力とは、企業の外から見たときに足りないものを埋められること。ロレックスのように時には既存のブランドイメージと真逆の形で効果をもたらすこともあります。

青木:イジスさんからはイメージのお話がありましたが、私は、そもそも生活者は商品と会社に興味を持っていると思っています。極論を言えば、商品と会社そのものがコンテンツなんです。たとえば新商品を特集したテレビ番組。視聴者の多くは買う・買わないは別としてそれ自体を楽しんで観ていますよね。

では何が嫌かと言うと、「嘘」と「退屈」です。押しの強い営業トークとつまらない話は嫌われます。商品の説明でもまっとうにおもしろく話せば喜んで聞いてもらえると思っています。


『カンブリア宮殿』というテレビ番組がおもしろいのは、社長が自分の会社を一方的に自慢するのではなく、村上龍さんと小池栄子さんがフェアな視点からユーモアを交えて話を聞き出す、優れたメディアのような役割を担っているからだと思います。そうしたメディアを持てるかどうかが企業にとっても大切なのではないでしょうか。


今回のセミナーでは、コンテンツに求められる役割や目標の設定、具体的な制作プロセスなどについて、お2人それぞれから詳しいお話を伺うことができました。

なかでも個人的に印象的だったのは、青木さんがおっしゃっていた「文脈を深く共有すること」の重要性です。私自身、『MilK JAPON WEB』というファミリーライフスタイルメディアの運営に携わっているのですが、メディアを運営していると、より多くの人に見てもらいたいという想いが先行して、広く浅いコンテンツ制作に知らず知らずのうちに流されそうになることがあります。しかし、『MilK』の読者はそれを望んでいません。

読者に寄り添う『北欧、暮らしの道具店』、読者の憧れ『MilK』。アプローチの形は違いますが、どちらも読者を巻き込む“深い”コンテンツを発信している点で共通しています。

大切なのは、その“深い”コンテンツを通して価値観を共有し見る人をコアなファン化すること。これが今まさに求められているコミュニケーションの一つではないでしょうか。オウンドメディアやSNSの運営に携わっている方も、今回の内容をコンテンツ作りに役立てていただければと思います。

セミナー情報

『MilK』『北欧、暮らしの道具店』が語る、いま企業に必要な「コンテンツ力」とは

日程:
2017年6月6日(火)19:00-20:15
会場:
IMA CONCEPT STORE
参加対象:
広告宣伝/商品企画/販売促進/広報PR 等のご担当者
参加費:
無料

*このイベントは終了しています

Profile

プロフィール

Isis-Colombe Combréas(イジス・コロンブ・コンブレアス)

『MilK』『MilK DECORATION』編集長

1970年パリ生まれ。大学にて近代文学および映画、マスメディアの修士号を取得。TVの司会者、ディレクターを経て、2003年に夫でありアートディレクターのカレルと共に、キッズファッション・ライフスタイルメディア『MilK』を創設。現在は編集長として、キッズモード誌『MilK』、インテリア誌『MilK DECORATION』の他、企業ブランディング、商品プロデュースなど、その活動は多岐にわたる。広告代理店FOVEA社の社長。2児の母でもある。

Profile

プロフィール

青木 耕平

株式会社クラシコム 代表取締役

1972年 埼玉県生まれ
2006年 実妹である佐藤と株式会社クラシコム共同創業
2007年 秋より北欧雑貨専門のECサイト「北欧、暮らしの道具店」を開業
現在は雑貨のEC事業のみならず、オリジナル商品開発販売、広告、出版(リトルプレス発行)事業など多岐にわたるライフスタイル事業を展開中。

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