製品がもたらす世界中の人々の夢を可視化、ブランド理念を共有するには?(セイコーエプソン)
2015年にブランド40周年を迎えたエプソン。自社製品がお客様の思いや夢の実現に貢献していることを、社員をはじめ広く社会に伝えようと、ブランドビデオ「VISIONS」の制作に取り組みました。
エプソンとアマナがチームを組んで世界5カ国でドキュメンタリーを撮影。その映像は、国内外の社員にブランドの価値を伝えることができたのでしょうか。エプソンのブランド・コミュニケーション企画部の矢ケ崎正徳さんとアマナの宮下広臣に、プロジェクトの成果を聞きました。
ビジュアルの力を知る会社だからこそ、映像に思いを託す
編集部:今回のブランドビデオ「VISIONS」は、フィリピン、メキシコ、イタリア、台湾、そして日本でエプソン製品がお客様の夢をかなえるストーリーを映像化していますが、その制作を決めた背景からお聞かせください。
矢ケ崎正徳さん(セイコーエプソン/以下、矢ケ崎。敬称略):2015年にブランド40周年を迎えるにあたって、社長からこれまでの感謝を社員、株主様、お客様に伝え、社内の一体感を高めて次の歴史を作る機運を醸成したいと話がありました。
私達、ブランド・コミュニケーション企画部としても、社員のブランド意識を高め、お客様と株主様に対しては、ブランドをよく知って、好きになっていただけるポジティブな循環をつくりたいと考えていました。こうした機会が重なり、グローバルの周年事業の一つとして、ブランドビデオ「VISIONS」の制作をスタートさせることになりました。
編集部:映像でビジョンを伝えようということですね。
矢ケ崎:エプソンはプリンターやプロジェクターを製造販売しています。映像や画像は常に事業の中心にあり、それらが持つビジュアルの力も知っています。だからこそ、そこにある思いやお客様の夢がかなう様を伝えるために、社員が感動するほど強い映像をつくりたいと考えました。
宮下広臣(アマナ/以下、宮下):矢ケ崎さんから最初に話をいただいたとき、現地の人達の声を使った強い映像でメッセージを発信したいという方向性は決まっていました。そのとき、サンプルとして示されたのが『世界の果ての通学路』という映画で、アフリカのサバンナやチベットの山岳地帯などを片道2時間かけて、命がけで学校に行くという内容に強く心を打たれました。
さらに、矢ケ崎さんが話してくださったプライベートな体験にも、とても感銘を受けたんです。
矢ケ崎:私は新婚旅行で日本から20時間以上かけて南アフリカに行きました。地球の果てのような空港に降りたときに、ボロボロになったプリンターが、カバーも割れてガムテープで補修された状態で発券をしていたんですよ。そこに「エプソン」のロゴを見たときに胸を打つものがありました。ブランドの誇りやエプソンの社員であることの嬉しさをあらためて認識したのです。
ですので、今回、「VISIONS」を企画したとき、製品の開発、設計、製造に携わりつつも、実際にお客様が使っているところを見たことがない社員にも、ぜひ世界中のいろいろなところで、私達がつくった製品が使われ、お客様の夢の実現や期待に応えているのを見てもらいたいと思いました。
宮下:アマナとしても何としてもいい形にしたいと強く思いました。どう具現化するかを社内でも考え、ドキュメンタリー専門のディレクターを立てたのです。2014年11月に正式に依頼していただき、1回目のローンチとして、ブランド40周年を迎える2015年の3月に社内キックオフで社長のメッセージがあるのでそのときに映像を流そうと、急ピッチで制作を進めました。
その先にいるお客様の喜びを、社員に伝える
編集部:「VISIONS」はお客様の先のお客様まで、BtoBtoCのストーリーを展開していますね。
宮下:製品を現地でどのように使っているかを紹介するビデオは、事例紹介としてたくさんあります。でも、私達が求めているのはそこではなく、その先をくみ取ることです。製品から生み出された価値を、実際に夢を実現した人、これから実現したい人からメッセージとして引き出し、一つの物語にするためにはリアルな映像の力が必要でした。広告の映像とはまったく違うテイストで、映画のような構成を意識しています。
矢ケ崎:これまでに、5本の映像を制作しました。フィリピン、イタリア、メキシコ、台湾、日本の5カ国で、どの動画も、世界中のお客様や社会が描く「VISIONS(夢・期待・希望)」と、それを支えるエプソンとのつながりを映像で紡いでいます。
エプソン製品で作成された酒造会社のラベル
たとえば、日本編「不易流行 秋田の酒」では、日の丸醸造株式会社様に出演していただき、秋田のキレイな水と伝統を重んじた製法やお酒に込められた思いを可視化しました。その思いを受け止め、ラベルという形で貢献している地元の印刷会社様と我々の製品が少し登場します。醸造の工程やラベルデザインの過程を通して、お酒を手に取る消費者の機会や喜びをしっかりと支えていることが伝わるストーリーで、エプソン社員でも普段、目にすることのない、消費者との接点の背景を丁寧に映像化しました。
難しい取り組みでしたが、伝統を重んじる酒造りの生の現場で撮影に挑むことで、地域や文化にも触れる心打つ内容に仕上がったと自負しています。
宮下:広告の撮影はすべて香盤表が組まれますが、ドキュメンタリーの場合は一応の想定をしても、その通りにはいきません。エプソンさんのお客様だけでなく、その先のお客様が通常の営業や活動をしている現場へ行くので、突発的な商談などが入り、予定していたインタビューが撮れなくなることもあります。ですので、制作チームだけではなく、「VISIONS」チームとして連帯感を持ち、臨機応変に乗り越えていくチームワークも必要でした。
編集部:海外の事例もありますが、ストーリーはどのようにして発掘されたのですか。
矢ケ崎:基本的には、販売会社のお客様のところで製品がどのように使われているかが、ストーリーをつくるときのいちばんの元になるので、販売会社にコンセプトに合うお客様をピックアップしてもらい、映像化できそうなところは深堀りをしていきました。
VISIONS CASE フィリピン編 確認チャート
宮下:アマナとしては、最初にそれがテーマとして成立するかのジャッジを慎重に行いました。事例紹介で終わるのか、その先まで掘り起こせるのか、チャートをつくって検討し、すべてにキーワードが当てはまるようだったら、仮のストーリーを起こし、それを英語にして現地の販売会社に展開してジャッジをしてもらい、行けそうだとなったらすぐに制作の準備を進めました。
矢ケ崎:いいテーマがあっても、映像にするとなると非常に難しいです。アマナさんに伝える前に不可と判断したものもあれば、撮影の直前までいって断念したものもあります。安全性を確保して、海外の文化・宗教、経済状況の打ち出し方にも配慮しなければなりませんでした。
宮下:製品や地域が被らないことも重視しました。そこの兼ね合いもあって選定は難しかったですね。
編集部:企業が動画をつくるときはコンテの段階で見えないところが多いと思いますが、不安はありませんでしたか。
矢ケ崎:アマナさんに対しては心配していないです。1作目のフィリピンを撮ってもらったときに泣けるほど素晴らしいものができたので。むしろ課題は私達がテーマを発掘して、アマナさんにお願いしますと言えるところにもっていくまでが難しいことでした。海外の販社のお客様のそのまたお客様となると、どういう状況なのかまったくわかりませんから。
そこで、アマナさんをすごいなと思ったのは、販社がリサーチした情報をお伝えすると、すぐに現地の産業や生活などを調べてくれるんですよ。
宮下:海外の事例は、その国の文化や撮影にあたってのハードルも国内とは違うので、事前によく調べておく必要があります。最初に提出したストーリーは文字ベースで絵コンテはないんですよ。協力していただける販社の熱を冷ましてはいけないという気持ちが強くて、実現できるかわからなくても、どんどんストーリーを投げるよう意識的に進めていきました。
編集部:アマナに信頼を置かれたポイントをお聞かせください。
矢ケ崎:コンセプトの「思い」を映像にできたかどうか、その映像を私達が見たときに感動できたかどうかです。
それに、実際の撮影の難しさを味わい、現場での調整やバタバタを乗り越えて1本の作品として映像をつくったとき、この経験は必ず次にも活きるので、このチームで魅力的な映像を制作していきたいと思いました。
出典: フィリピン編「Educating to change the future」
より深く、コンセプトを伝えるための取捨選択
編集部:お互い意見を戦わせる場面もありましたか。
矢ケ崎:私達は多くの方に映像を見ていただけるように、できるだけ映像の長さは短くしたいのですが、クリエイティブ側からは、短くすればするほど製品紹介ビデオに近づきますよと脅かされて(笑)。
見えない思い、夢を実現した、そういったところを映像化するにはそれなりの時間が必要なので、それは切らないほうがいいと言われました。
宮下:コンパクトに思いを伝えられたら、本当はいいと思います。けれど、行間を読むというか、余韻を残すことで、1つ1つの絵が深い意味を持ってくるんです。もちろん、私達が映像に入れたものでも、矢ケ崎さんに「なくてもいいのでは」とご指摘をいただき、協議してカットしたこともありました。
編集部:拡散しやすさよりもビジョンを伝えることを大事にした結果、感動的な映像になっているように思います。
宮下:映像を見てもらうとわかるんですが、エプソンさんの製品はそれほど多く出ていないんですよ。
矢ケ崎:一瞬、製品にカメラが寄るぐらいです。本当に。
宮下:人の思いや夢が主役なので、製品ではないところに焦点を当てた映像で、メッセージをより効果的に伝えることができたのではないでしょうか。
矢ケ崎:CMのように製品を提供して撮らせてもらった映像ではなく、実際に製品を使っていただいているお客様のストーリーなので、多くの人に共感してもらえるのではないかと思います。
編集部:社内の反響はいかがでしたか。
矢ケ崎:ビデオを見た社員から、「最初は当社にどんな関係があるのかわからなかったけれど、自分が携わっていたこの製品だったのかと、最後にわかって感動しました」と言ってもらえました。同じような声はよく聞こえてきますが、もっと多くの社員に見てもらいたいという思いはまだまだあります。
編集部:これから、「VISIONS」を通して何を伝えていきたいですか。
矢ケ崎:会社が掲げるグローバルタグライン「Exceed Your Vision」には、「お客様の期待(Vision)を超えて(Exceed)、お客様に感動をお届けする」という意味が込められています。私達が考える商品のよさだけではなく、実際に商品がお客様や社会の夢や希望の実現に役立っている様を映像に可視化することで、社員自身もそこに関わっている実感を持ってもらうことができると思います。
その他の作品は、こちらからご覧になれます。
イタリア編 「The Renaissance of Design」
メキシコ編 「True value of the art」
矢ケ崎正徳
セイコーエプソン株式会社 ブランド・ブランドコミュニケーション企画部
1989年入社。10年間、プロジェクターの基幹部品となるTFTパネルの製造部門に勤務したのち、1999年、世の中が環境配慮に向かうなかで、本社地球環境室に異動し、商品の環境性能を高める活動を10年間にわたり担当。2009年より、現職。