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  • 【対談:入山章栄先生×佐藤勇太】企業のイノベーションに、知の見える化は有効に働くのか
2018.04.17

【対談:入山章栄先生×佐藤勇太】企業のイノベーションに、知の見える化は有効に働くのか

佐藤 勇太
株式会社アマナ
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早稲田大学ビジネススクール准教授の入山章栄先生とアマナの佐藤勇太が対談。人の動きの厚みが圧倒的に足りない日本企業で、イノベーションは起こりにくいと語る入山先生。企業や組織を超えたつながりが求められている世の中で、同じ会社の中でさえ人と人がつながらないのはなぜでしょうか。企業における社内コミュニケーションのあり方を2人に語っていただきました。

 

人が持つ「知」を流通させる

佐藤勇太(以下、佐藤):先生は講演や著述で、日本の企業には「人の動きの厚みが圧倒的に足りない」とおっしゃっていますが、どのような場面でそう感じられますか。

入山章栄先生(以下、入山。敬省略):人と人の横のつながりが乏しいですね。業界や社会を超えてというレベルではなく、同じ社内でさえ隣の部署が何をしているかわからないという企業も多い。私が危惧しているのは、日本企業がイノベーションを起こせないこと。イノベーションの源泉とは、人が持っている「知」と「知」が新たに組み合わされることです。これはイノベーションの父とも言われる経済学者ジョセフ・シュンペーターが80年以上前から訴えていたことで、いまだに経営学では重視されている考えです。

そして「知」は人が持っている。ということは、さまざまな部署・組織・企業・業界を超えて、人と人がつながることが、「知の組み合わせ」、引いてはイノベーションに不可欠なのです。人の横の動きがないことが日本の組織の最大の問題の一つだと思っています。

佐藤:日本の企業で人の動きがない、つまりイノベーションが起こりにくい原因はどこにあるのでしょうか。

入山:日本に限らず、組織はタコツボ化する本質があります。経営学でも理論的に主張されることですが、組織とは社会的な正統性(レジテイマシー)を得るために、生まれてからの進化の過程で「安定化」を求めます。安定的にオペレーションを回して商品やサービスを提供することで、「あの会社は納期も遅れないし、信頼できる」となって、社会的に受け入れられていくわけです。しかし他方で、それを進め続けると、やがて業務が分業化され、管理が入り、営業、企画、人事という部門の壁が出てきます。このように、「組織は本質的に、生まれたときから徐々にイノベーティブでなくなっていく運命になっている」んですよ。

佐藤:昔はそういった体質でもよかったのかもしれませんが、今は通用しませんね。

入山:日本の場合は、バブルが崩壊するまでは、イノベーションを起こさなくても済むキャッチアップ型で成功パターンを作ってきました。ただ、今、それがすべて裏目に出ています。「新卒一括採用方式」「中途採用を行わない」「ダイバーシティがない」とか、日本の人事・人材育成は全部イノベーションに向いていない仕組みになっている、というのが私の理解です。

 

佐藤:先生の、イノベーションの定義とは何ですか。

入山:グーグルやアップルのビジネスもイノベーションですが、それだけではありません。みなさんが普段悩んでいるような、新しい案が出てこない、新規事業が生まれない、新しいプロジェクトがボツになるとか、日々の業務改善も含めて、ちょっとでも新しいことをやるのがイノベーションだと私は考えています。

佐藤:帰属する組織だけでなく、個人の変化・進化にも言えることですね。

入山:はい、もちろんです。

佐藤:イノベーションは「知」と「知」の新しい組み合わせというお話がありましたが、企業において顕在化させ、流通させなくてはいけないものは、どんな「知」でしょうか。

入山:特に足りないのは、人と人が直接出会うことによる知の動きでしょうか。ネットで波及している情報はどこでも手に入るので便利ですが、逆に言えば誰にでも手に入るものですから、そこに価値はあまりないのです。相対的にビジネスで決定的に価値があるのは、むしろネットには出ない情報です。たとえば暗黙知のように、会って表情を見ながらでないと伝わらないことだったり、「ここだけの話」という、人と直接会わなければ絶対に外には出ないインフォーマルな知ですね。ネットの時代だからこそフェイス・トゥ・フェイスの情報がより重要になってきている、と考えています。

 

企業のビジョンを現場に伝えるには

佐藤:近年、インナーコミュニケーションがバズワードのように言われ始めています。大企業であればあるほど、社内コミュニケーションが必要だと考えられるのに、それがうまくなされていないのは何が弊害なのでしょうか。

 

入山:日本の企業にいちばん足りていないのは、「ビジョンの腹落ち」だと考えています。以前、『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(ダイヤモンド社)の私の連載で、センスメイキング理論というのを紹介したらとても大きな反響がありました。日本人は正確な分析が好きですが、この先の不確実な世界や社会では「正確な将来」はわかりません。センスメイクというのは腹落ちという意味で、とにかく正確な将来はわからなくても、会社のビジョンや大まかな方向性を「腹落ち」してもらって、彼らに動いてもらう必要があるわけです。しかし現実には、ビジョンが社員に伝わっていなかったり、そもそも生きたビジョンのない日本企業は多くあります。

佐藤:私達も、企業文化の改革をお手伝いさせてもらうことがあります。誰がどこにいても見える北極星のようなものを再定義することで帰属意識を醸成するわけですが、それがビジョンとも言えますね。自分たちに開かれる未来が限定的ではないことがわかる、ストーリーのあるビジョンが必要だと感じています。

入山:よくわかります。人間は腹落ちしないと変化を起こせません。私の理解では、GE(ゼネラル・エレクトリック)、ネスレ、ユニリーバ、シーメンスなど、欧米の大手企業では、「従業員にいかに腹落ちさせるか」という作業が経営者の重要な仕事になってきています。日本の経営者でも、ブログでひたすらビジョンを語りそれを従業員が読むことで内容が伝わったり、日立の川村隆さんが改革時に行ったように毎週、全社員にメールを出してビジョンを伝え続けて業績が復活した企業もあります。また、ビジョン実現のためにしなければならないことを、樹形図に描いて現場レベルまで落とし込んで指し示している経営者もいます。

これは学術的な知見というより私の経験則ですが、腹落ちの話で言うと「ビジョンを動詞で語れるか」どうかが重要だと思っています。センスメイキングは、正確性よりも納得性、まず行動を起こすことです。名詞だと、なかなか腹落ちしないんですよね。

 

佐藤:腹落ちさせるために、右脳を刺激し心を前に動かすことも重要だと感じています。

そのためにビジョンをさまざまな手段を持って魅力的に可視化していくことも重要なのではないでしょうか。

 

バーチャルとリアルの両輪で回す

佐藤:社内コミュニケーションの重要性は、どこの企業でも感じているのではないでしょうか。弊社の話をさせていただくと、従業員が1000人を超えて、別の部署やチームが何をしているのかわからない、部署間のシナジーが生まれていない、全社的な一体感が希薄しているという課題があり、それを解消すべく「Know Who」というコンセプトの下、社内コミュニケーションサイト「amana knowledge board」が発足しました。人の中に埋もれてしまっているさまざまな「知」を魅力あるコンテンツとして可視化し、全社員の共通メディアとして共有することで、もっとコミュニケーションが豊かになり、いろいろな人と知がつながり合う力強い組織になるのではないかという思いがあるんです。

当初は弊社内の課題解決のために始まったこの取り組みですが、これを知った多くの企業からのご要望を受け、今では社外向けサービスとして、さまざまな企業にこのknowledge boardの仕組みの導入が進んでいます。

隣に座っている同僚の名前がわからない会社に未来はない

入山:それは、すごくおもしろいと思います。イノベーションを生むという意味でも、社内コミュニケーションは大賛成です。私の講演でも大きな反響があるトランザクティブ・メモリーという考えは、「組織の情報の共有化に重要なのは、組織の全員が同じことを知っていることではなく、組織の『誰が何を知っているか』だけを組織の全員が知っていること」というものです。

そしてこれまでの経営学の研究で、このトランザクティブ・メモリーは、リアルな人の交流で促されるという研究結果が出ています。一方で、この考え方に共鳴したIT企業の方には、それをIT化できないかという考えを持つ人もいます。私はその考えに反対ではないですが、しかし難しいのは、システム化してもそれを使ってもらわないと意味がないことです。社内交流の仕掛けもおもしろくなければ、人はわざわざ見ません。その辺の工夫が弱いことも多い。

佐藤:そうなんです。ただの情報では誰も読まないので、そこに編集の手が必要です。社内に眠っているヒト・コト・モノを掘り起こし、どんな人がどんな想いでやっているのか、そこにどんな気付きがあったのかを引き出し、人に立脚したストーリーを作って見せています。

入山:メディアのストーリーテリングとか写真の見せ方を、企業がBtoBに使うようになってきていて、これをさらに社内コミュニケーションに使うのはとても有効になり得ると思います。結果として、組織のアイデンティティを持ってもらえるかが重要ですね。

佐藤:結果として、ビジョンの浸透が必要になるわけですね。「amana knowledge board」のコンテンツに「Message File」という連載があり、「ビジュアルコミュニケーションで世界を豊かにする」という当社ビジョンについて、それぞれの部門長がリレー形式でその考えを語っています。

入山:センスメイキングというのは、まさにそういうことです。会社が大きくなるほど、現場の人はトップの言葉が抽象的で、何を言っているのかわからなくなる。そこで中間管理層が、私は「ビジョンの翻訳者」と呼んでいますが、トップのビジョンに対してまず自らが腹落ちしたうえで、それを現場にわかりやすい言葉で伝える。御社が社内コミュニケーションサイトでやろうとしていることは、まさにセンスメイキングの仕掛けにあたると言えます。

佐藤:先生は、これからのコミュニケーションには何が必要だとお考えですか。

入山:バーチャルとリアルの両輪です。それと視覚情報は特に大事だと思います。同じことが書かれていてもテキストだけでは心が前に向きませんから。

佐藤:私も、インナーコミュニケーションの仕組みを入れてどうなるというものではなく、人を参加させるため、右脳を刺激した仕掛けが必要だと思っています。

入山:そうですね。そのうえで、コミュニティを作ることが非常に重要ですよね。メディアの動きでもバーチャルとリアルのコミュニティという組み合わせが普通になってきています。SNSは誰でも気軽に情報発信できますが、属人的に任されていて、大きいビジョンやストーリーの話にはなりません。編集という手を入れて全体のストーリーテリングを設計することが重要ですね。

佐藤:私もインナーコミュニケーションの企業担当者とリアルコミュニティを作りたいと妄想しています。

入山:企業の方にはリアルコミュニティを作りましょうと言ってきましたが、アマナさんが進められるような社内のデジタルコミュニケーションと融合させる取り組みはこれから注目したいです。普段は関わらない人たちと関わることで開かれる知や考え方は、すごく重要です。イノベーションはセレンディピティ(偶然の産物)ですから。

 

テキスト:さとうともこ  撮影:外林健太

 

プロフィール

入山章栄

早稲田大学大学院早稲田大学ビジネススクール准教授

慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。 2013年から現職。Strategic Management Journal, Journal of International Business Studiesなど国際的な主要経営学術誌に論文を発表している。

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