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  • その言葉に宿したのは、ものづくりに向かう姿勢。“Made in Japan”を物語る2つの時計の映像とは
2018.09.14

その言葉に宿したのは、ものづくりに向かう姿勢。“Made in Japan”を物語る2つの時計の映像とは

名島 悠作
株式会社アマナ プロデューサー
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「日本の製品は質がいいから」。

 

年々増加する海外からの観光客を横目に、この台詞を何度聞いたでしょう。

“Made in Japan”という冠詞は、まるで魔法の言葉のように昨今さまざまなメディアで使われていますが、私たちは何をもって“日本”を語るべきなのか。単にスペックに依存するのではなく、その言葉にどのようなストーリーを込め、表現していくかが求められています。

 

老舗時計メーカー、セイコーが発売する機械式時計「プレザージュ」にも、“Made in Japan”を大きく掲げるプロダクトが存在します。

 

永い時を経ても色あせない美しい琺瑯(ほうろう)。漆黒と評される、他に類を見ない深みの漆。そして焼成後の研磨により引き込まれるほどの艶と輝きを放つ七宝。それぞれのダイヤルを使った時計は、熟達した職人たちの技によって生み出されました。

 

この商品の世界観を表した2本のPVが、2017年から2018年にかけて公開。製造工程をつぶさに追いながら情感たっぷりに描いた動画は、職人たちのものづくりへ向かう実直な姿勢と、時計のあるべき姿を追究するセイコーの精神に“Made in Japan”を見出しています。

 

国内外で評判を呼ぶPV制作に携わったセイコーの有馬広智さん、アマナのプロデューサー名島悠作、映像ディレクターの福村昌平に、映像に込めた想いについて話していただきました。

製造の舞台裏から、プロダクトへのこだわりを伝えたい

――まず、「プレザージュ」のコンセプトをお聞かせください。

有馬広智さん(以下、有馬。敬称略):「FINE MECHANICAL WATCHMAKING FROM JAPAN(=日本製の機械式時計を世の中に発信していく)」。これが、「プレザージュ」のブランドコンセプトとなっています。

プロダクトが日本製であることは大前提として、日本の文化や伝統工芸などを素材として活用していくことで、唯一無二の世界観、ラインナップを体現しています。

有馬さん。

――昨今、“Made in Japan”を推す商品が増えていますが、どのようにとらえていますか。

有馬:これまでの一般的な“Made in Japan”の推し方は、スペック偏重主義な側面が大きかったと思いますが、そこから脱したアプローチが必要なのではないかとずっと考えていました。そこで日本文化が持つ背景や、セイコーという日本ブランドが培ってきたヘリテージ(伝統)を生かしてアウトプットしていくことが重要だととらえています。

「プレザージュ」でいえば、日本的なモダニズムである“無駄をそぎ落とす”引き算の美学や余白の美、日本建築の陰影感を、製品のデザインやマテリアルに反映することを大切にしています。

ダイヤルに七宝が施された「プレザージュ」は、シンプルながらも深みのある色合い。

――PVを作ることになったきっかけを教えてください。

有馬:琺瑯と漆モデルは今回のPVを制作する前から「プレザージュ」にラインナップされていて、ブランドの顔のような商品でした。ただ、これまでのプロモーションは商品訴求が強く、プロダクトとしての美しさは伝えられていても、製造の裏側までは見せていなかったんです。これだけ手がかかっているものですから、いつか絶対見せたいと思っていました。

そして2017年に琺瑯・漆のPVを作るタイミングができ展示会などで発表したところ、評判がとてもよかった。そこで七宝モデルは動画ありきでプロモーションすることになりました。

名島悠作(以下、名島):最初に琺瑯・漆のPV制作の話をいただいたとき、日本の伝統工芸の艶を伝えるには、情緒ある作風を得意とする福村さんのトーンしかないと思ったんです。

七宝のお話が来たときも「同じトーンで」ということだったので、前作の雰囲気をさらに磨いてもらえるよう進めました。

本案件のプロデューサーを務める名島。

日常の中に潜む、日本らしさを探して

――PVでは要所に日本の風景が映されます。「日本」を表現する際に気を付けたことはありますか?

福村昌平(以下、福村):この時計は日本の伝統文化を世界に発信していく架け橋となるもの。PVは世界の方々が見て驚きがあり、日本人が見ても新鮮さがあるという両軸を成立させようと意識しました。

映像ディレクターの福村。

有馬:特にあからさまに日本らしさを表現するのは控えてほしいとは伝えていましたね。

日本人が考える日本らしさというのは、コテコテになりがちですが、ものづくりに取り組む様やその土地の日常にも、自然な日本らしさが存在しているはず。だから画としてはそれで十分だと思っていました。

―――制作でこだわったポイントを教えてください。

福村:このPVでは製造工程を伝えるというのも大きなミッションでした。

有馬:でも単なる製造工程紹介にしてほしくなかったですし、工程を順に押さえてキャプションを付けるようなことは絶対に避けたい。1つのダイヤルが時系列を追ってできあがっていく様を、説明っぽくなりすぎずに追いかけてほしいとお願いしていました。

福村:どのプロダクトも基本的には作業を繰り返すことによって深みが増していく技法だったので、これを映像描写としてどう見応えのあるものにするか悩みました。

淡々と作業を追っていくだけではいけない。でも職人さんがこだわっている部分は繰り返しの作業だったりするので、そこはアングルやカメラワークを工夫するなどして、バランスを大切にしました。

有馬:さらに、どれだけものづくりに対して真摯に取り組んでいるかを伝えるため、携わる「人」にもフォーカスを当てました。実際に職人さんの現場に足を運んで、お話を伺って……。福村さんは特に熱心に質問してくれましたね。

福村:作業工程の中でダイヤルが変化していく美しい一瞬など、職人さんしか知り得ないダイヤルの表情があり、そこから映像のストーリーの着想を得ます。

……実は2人にも言っていないのですが、僕は毎回コンテの前に詩を書いていて、これをベースにストーリーを描き、撮影しています。

詩の中で意識したのは「あお」という色味の種類。「あお」は色合いの表現によって「青」、「碧」、「蒼」など、いろんな漢字の種類があり、それぞれとらえ方が変わります。それはまさに塗り重ねていくごとに変化していく七宝ダイヤルの様と同じで、そこを意識した演出ができれば、いいフックになるのではと考えました。

映像の中に出てくる波や夜明けのモチーフも、変化していく「あお色」の自然描写ということで取り入れています。

有馬:知らなかったです! 深いなあ。

――ものづくりに向かう姿勢や日常の風景を丁寧に観察し、想像力を膨らませながら描く映像制作の過程にも、“Made in Japan”の精神を感じますね。

塗り重ねていくごとに変化していく七宝ダイヤル。

カメラマンは瑞々しい感性を持つ若手で、賭けに出た

――繊細な画づくりがとても印象的なPVです。カメラマンは若手の方を抜擢したそうですが、不安はなかったでしょうか。

名島:カメラマンの斉藤領に関して、僕も当初はハリウッドで映画の修行をしていたという噂を聞いていたぐらいで、どんな映像を撮るのかは知りませんでした。

制作にあたって、福村から「トーンや世界観が思い描くところとマッチする」とオススメされたんです。

ただ、彼は時計の商品撮影の経験が少ない。スケジュールを管理する立場である僕としては特にスタジオ撮影での時間調整に苦労するかもしれないと想像し、事前に有馬さんとも共有していました。

その中で商品だけは別のカメラマンに、という話も出ましたが、福村から「それでも彼の感覚を生かして最後まで撮りたい」と要望を受け、最終的に斉藤ですべてを撮影することにしました。結果的にとてもよかったと思っています。

有馬:今までのPV制作からカメラマンが変わると聞いたとき最初はビックリしましたが、提案していただいた際、斉藤さんの作品に「これだ!」というものがあって。この一瞬を切り取れるというところが感覚的に合うだろうなと感じました。

福村:斉藤はシネマトグラファーとしてのスキルに加えて、シズル撮影のスキルも持ち合わせています。シズルを撮影するスキル・感覚はカメラマンの中でも特殊な能力を必要とされる。その2つの感覚を持ち合わせて撮る斉藤の画は、他に代え難い魅力があり、絶対に必要だと感じていました。

時計を撮ることは特殊で高度なスキルを必要としますが、経験が少なくとも彼の感性ならできると思っていましたし、彼を生かしきれたらPVも跳ねるだろうなと踏んでいました。

――完成品はどのような印象でしたか?

有馬:イメージを遥かに超えてくださったという高い満足感を持っています。特に七宝ダイヤルの映像は、製造工程と連動するインサートすべてにムダがなく、ご一緒した中で過去いちばんのムービーに仕上げていただいたと。

2つのPVを通して、社内外および国内外を問わず大変高い評価をいただきましたし、多くのメディアで露出するきっかけにもなったと感じています。

これからも密なコミュニケーションで

――有馬さんと名島は制作を共にして4年目ですが、この間に変化はありましたか。

名島:最初の仕事は「プロスペックス」のグラフィック制作でしたね。

有馬:その頃は自分にも制作のノウハウがなく、できあがったものと思い描いている最終の画が違ってしまって……。名島さんたちには相当無理を言っていたと思います。

でもそうしていく中で、思い描くイメージが一致してくる感覚がありました。そうするとオリエンの仕方も変わりましたし、プレゼンの提案の質も高くなっていった印象です。

アマナさんはこちらが何かをやりたいという気持ちに対して、とても真摯に向き合ってくれます。特に名島さん、福村さんのチームはそこがいいところだと思います。

――今後このチームでやっていきたい制作はありますか?

有馬:展示会や発表会における空間デザインなど、ご一緒するお仕事を増やしていきたいです。今後も密なコミュニケーションを取りながら、互いのイメージをすり合わせていければいいなと思います。

名島:空間デザインもそうですが、空間の中で使用する集客につながるコンテンツや、来場者を喜ばせる展示コンテンツ、什器なども少しずつ任せていただけるようになりたいですね。

福村:深く付き合わせてもらうほどわかることは、セイコーさんの作られるプロダクトの質がとても高いということ。製造工程を見るとなお、そう感じます。今後もその価値を伝えられるよう、尽力させていただければ嬉しいです。


テキスト:かみむらはるか
撮影:秦和真(acube)

 

プロフィール

有馬広智

セイコーウオッチ株式会社 広報宣伝部

2012年、セイコーウオッチに入社。入社後、2年間のアフターサービス部門を経て、2014年よりメンズブランドのプロモーション担当に。 同社が抱える多数のブランドのグラフィックやPV制作に携わり、2018年度より同社のプレス担当に着任。


プロフィール

福村昌平

株式会社アマナデジタルイメージング 映像ディレクター

番組制作会社からCM プロダクションを経て、2015 年からアマナグループ所属。ドキュメンタリーをバックグラウンドに持ち、さまざまな企業広告を演出。レンズを通して本質を描写し、ストーリーを描くことを演出の心情とする。

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